学生時代、サイモン&ガーファンクルのことを“サイモンガー&ファンクル”だと思い込んでいた時期があった。背伸びして60年代のファンクミュージックにハマり始めていた頃にその名を知り、音楽に詳しい友人に得意げに話したら見事な大爆笑をとった。あのときのことを思い出すと、今でも耳が熱くなってくる。
聞きかじりで間違った覚え方をしてしまうのは悪いクセで、ジャガー・ルクルトも、恥ずかしながら“ジャガール・クルト”だと勘違いしていたことがある。180年以上の歴史を持つ偉大なマニュファクチュールなのに、なんとも無礼な話しである。自分で間違いに気づけたのがせめてもの救いだ。
メゾンの代名詞ともいえる「レベルソ」が誕生したのは、1931年。「ポロ競技中の衝撃に耐え得る時計を」という顧客のリクエストを受け、ケースを反転させて文字盤を保護するという精巧なアイデアが生まれた。今でこそアイコニックなデザインとして浸透しているが、当時はかなり斬新だったに違いない。しかもこの品格にして、出自はスポーツウォッチという意外性のあるストーリーも一興だ。
角型ケースには、アールデコ様式にインスパイアされた直線の装飾が施されている。均整の取れた中性的な佇まいは、見るからに真面目そう。「真っ当に、機能美を追求した次第です」と言われているような気がして、背筋がしゃんと伸びる。 同シリーズの中でもひときわシャープな印象を与えるのが、ステンレス製の「レベルソ クラシック スモール」。針とレザーストラップの青が呼応して、ノーブルな雰囲気を持ち合わせる。さらには女性の華奢な手首になじむ、サイズ感の妙。ケースの裏面に自分だけのエングレービングを入れて、一生をかけて愛着を深めることだってできる。
誕生から90年近く経ち、自身が時を刻む存在でありながらも、その姿にはまったく時の流れを感じさせない。普遍的なスタイルを貫く「レベルソ」は、だからこそどんな時代のファッションにも溶け込み、いかなるシーンでも確かな説得力を持つ。それはまるで、身につける人の内に秘めた「芯の強さ」を体現しているかのようだ。
ジャガー・ルクルト
http://www.jaeger-lecoultre.com/
0120-79-1833
illustration:Uca text:Eimi Hayashi