1780年創業の深淵な歴史。皇帝ナポレオン1世と皇后の装飾品を手がけた偉業。そして、数々の王族のティアラを制作してきた威信。名門ジュエラーの中でも特にショーメは、自分のような凡人が踏み込む領域じゃないと思っていた。それでも興味を持たずにいられなかったのは、自分のエンゲージリング探しがきっかけだ。
メゾンを代表するクリエイションのひとつが “リアン” コレクション。リアンとはフランス語で「絆」を意味し、コレクションを象徴するクロスモチーフは「愛し合う者どうしの結びつき」を表現する。その卓越した技術と創造性に初めて触れて、新しい世界が開けたような心地がした。
でも残念ながら、“リアン” のエンゲージリングを手にすることは叶わなかった。当時の夫の経済状況からして、とても手の届くものではなかったのだ。新世界への扉は開けてすぐに閉ざされてしまった。「近い将来、必ずプレゼントしてみせる」と彼は私に誓った。こちらとしては「頼んだぞ」としか言いようがないし、正直、真に受けてもいない。すべて承知のうえで選んだ人生の伴侶だ。
ところで、絆には様々なかたちがあるように、“リアン” コレクションにも複数のラインがある。そのひとつがジュ ドゥ リアン。フランス語で「遊び」を意味するその名にふさわしい、プレイフルなデザインが人気のシリーズだ。アイコンのクロスモチーフはモダンなフォルムに昇華され、鮮やかなカラーバリエーションで愛嬌をも携える。それはまるで、何百年もの時を経て舞い降りた蝶のようだ。
華奢なピンクゴールドのチェーンに可憐なレッドラッカーのクロスモチーフをあしらったブレスレットは、腕を露出する機会が増えてきた今の時期にこそ取り入れたい。たとえばベーシックな白トップスの手もとにさりげなく添えて、赤リップで色をリンクさせる。たったそれだけで上品なフレンチシックが成立しそうだ。
誕生日にこのブレスレットが欲しいと、夫にねだってみた。「別にいいけど、まだ時間あるし心変わりすると思うよ」とずいぶん余裕な返答だった。そういえばここ数年で、プレゼントの予算が徐々に上がっている気がする。もしやこの調子でいけば、あのとき断念したリングも夢じゃないのかもしれない。きたる結婚10周年のタイミングで、自分で自分の首を絞めるような約束をしたことを思い出させてあげよう。