今年の夏は本当にどこへも行けなかった。実家にも海水浴にも、フェスや夏祭りにも。打ち上げ花火だって見られなかったし、キャンプもできなかった。酷暑と蟬しぐれに包まれながらひたすら家で原稿を書き、ハッと気がつけばもう8月が終わろうとしている。ひと夏の儚い思い出を、見えない敵に根こそぎ奪われてしまった気分だ。あゝ、半沢直樹みたく痛快な「倍返し」がしたい! しかし相手がウイルスではどうしようもないわけで、防御に徹するしかない状況である。
さて、この憂さをどうやって晴らそうか。夏の間どこにも行けなかった分、浮いたお金でガツンと心に響くような買い物をするのもいいかもしれない。秋冬に向けて靴やバッグを新調するのもひとつの手だが、失われた夏を一生もののジュエリーで取り戻すというのはどうだろうか。ポメラートの「ヌード ディープ ブルー」に出合ったおかげで、このロマンティックな挽回策を思いついた。
カラフルな色石がアイコニックな「ヌード」の中でも、地中海にインスピレーションを得たのが「ディープ ブルー」。ブルートパーズとメノウのコンビによるカラージェムが、澄んだ青の世界をつくり出す。「こんな海に入りたかった!」という悲痛な叫びを優しく受け止めてくれる、たおやかな色彩だ。願わくは、このオーシャンブルーの中に体ごと吸い込まれて、ただ身を任せてぽっかりと浮かんでいたい。
さらに目を奪われるのが、センターストーンの両側で燦然と輝くパヴェダイヤモンド。水面に降り注ぐ太陽の光のごとく、青の美しさを際立たせる名脇役。毎日の保育園の自転車送迎で、海に行ってもいないのにこんがり日焼けしてしまった手肌も、この指輪があればバカンス焼けに見えるはず。南国の海に想いを馳せる、夏の締めくくりにふさわしいジュエリーだ。
悲しいことに季節が移り変わっても、我々は引き続き姿の見えない相手と闘い続けなければならない。こんな時代を誰が予想できただろう。怒りの矛先をどこに向ければいいのか、いったい何を頼りにすればいいのかもわからないが、それでも希望を持って生き続けていくしかないことは確かだ。だからこそ、心に潤いをもたらすリアルな体験が欲しい。ちょっと無理をしてでも自分自身を豊かにする投資がしたい。それはただの贅沢なのかもしれないけれど、鮮やかな色石の迫力をまとうだけで、今よりも少し上を向いて歩けるような気がする。
ポメラートブティック 銀座店
http://www.pomellato.com/jp/
03-3289-1967
illustration:Uca text:Eimi Hayashi