サクマの缶入りドロップス。店頭でふと見かけて、なつかしくなり買ってみた。何かいいことをしたり頑張ったときでないと買ってもらえない贅沢品というイメージがいまだに残っているせいか、ほんのわずかな背徳の中に喜びを覚えつつレジに向かった。カラカラ鳴り響く缶を振ると、丸い穴からコロンと飛び出す色とりどりのドロップス。ピンクや水色、緑にオレンジ。白のハッカだけは、ちょっとごめんなさい。どれもキラキラしていて、昔は食べるのも惜しかったっけ。本当はひと粒だけの約束なのに、母に内緒でこっそり頬張るもうひと粒。その秘密の瞬間が何よりの宝物だった。
一度でいいから、このドロップスを全部つなげてネックレスにしてみたかった。虹色の宝石を首から下げ、あこがれのプリンセスになりきるのだ。透明感のある輝きをただ口に入れておしまいなんてもったいない。どうにかアクセサリーとして身につけてみたかった。だが幼い私にはそんな知恵も情報もなかった。今でこそググればいくらでも作り方が出てくるが、だからといって今さらその夢を叶えたいとも思わない。自分に娘でもいれば話は別だけど、そんなことやるくらいなら本物の宝石を拝みたいというのがつまらない本音である。
夜な夜なSNSを徘徊していると、かつての乙女心を呼び覚ますジュエリーを見つけ出すのにそう時間はかからなかった。ニューヨークを拠点に活動するMallary Marks(マラリー・マークス)の色彩豊かなビーズネックレス。ジューシーにきらめくトルマリンは、幻に終わったドロップスのネックレスを思い起こさせる。カラフルな色石は気まぐれに並んでいるようにも見えるが、綿密に計算されているのだろう。無邪気な遊び心の中に、天然石ならではの気品と尊さを携えている。心躍る愛らしさとともに、確かなエレガンスをまとっている。
無垢な少女と成熟した大人の女性。二つの顔を持つ鮮麗なネックレスに、できれば10年後再び出合いたい。特に明確な理由があるわけではないが、今よりも人としての深みが増し、心にもっと余裕が出てきた頃に、気負いなく身につけてみたいのだ。Tシャツとジーンズに合わせて、こなれたムードで飾りたい。甘い夢のつづきは、お姫様気分とはほど遠いものになりそうだ。
illustration:Uca text:Eimi Hayashi