#29 小さな奇跡【スウス】

彼女との出会いは5年前。ジュエリーの合同展示会でのことだった。新進気鋭のアーティストによる個性豊かな作品がひしめく中、鹿の角をモチーフにした大ぶりのリングにふと目がいき足を止めた。そのあえて荒削りな質感と、丹田にズンとくるようなインパクトに一瞬にして引き込まれたのだ。そのとき初めてsussus.(スウス)というブランドを知った。そしてそのデザイナーをつとめるのが竹内佑佳さんだった。「どうも、デザイナーの竹内と申します」。ブースから出てきた彼女と名刺を交わし、あれやこれやと話をしながら気がつけば長時間滞在し、ひとめぼれした鹿角リングをオーダーして帰ったのだった。

仕事柄、初対面の人と話をする機会はたくさんあるのだが、ここまで心地いいと感じる人は初めてだった。彼女が同世代で気取らない人柄だというのもかなり大きいが、それだけではない確かな感覚があった。初めてのはずなのにずっと昔から知っているような気がしてならなかった。

それから数ヵ月が経ち、忘れかけていた頃に展示会でオーダーした鹿角リングが届いた。それを機に私たちは再び連絡を取り合うようになり、あっという間に親しい友人同士になった。結婚指輪も作ってもらったし、ほぼ同じ時期にお互い母親にもなった。この5年の間にライフステージがガラリと変わり、疎遠になってしまった友人も何人かいる中で、奇しくも友情を深めることができた貴重な存在だ。個人的な思い入れもあって、スウスはいつしか私の中でかけがえのないブランドになった。

しばらくの休養期間を経て、この秋冬から本格的に活動を再開したスウス。頑張っている竹内さんを間近で見て自分のことのように嬉しかったし、心底励まされた。でも何より喜ばしかったのは、久々に彼女の新作がたくさん見られたことだ。どれかひとつを取りあげるなら、フリンジのようなモチーフをあしらったシングルピアスにしよう。不揃いの長さのワイヤーが無造作に伸びた、クラフト感漂うデザイン。シャラリとお行儀よく垂れ下がるのではなく、寝癖のついた髪のような無秩序感がいかにもスウスらしい。ただ華やかなだけではない不思議な後味を残してくれるのが、竹内さんのクリエーションの醍醐味でもある。

大人になってから新しく友達をつくるなんて無理だと昔は思っていた。だけどきっかけはどこに転がっているかわからないものである。もし5年前の出会いがなかったら、私はここまでジュエリーに興味を持っていただろうか。もしあのとき鹿角リングを受け取ってから何もメールを送らずに終わっていたら、私は今どんな結婚指輪をしていただろうか。人生はちょっとしたことで変わるのかもしれないし、もしかしたら小さな奇跡であふれているのかもしれない。そのことに気づかせてくれたあのときの偶然の出会いに、心から感謝している。スウスのいちファンとして、ひとりの友人として、これからもずっとエールを送り続けたい。

ピアス〈シルバー20KYGコーティング〉¥18,000/スウス
ピアス〈シルバー20KYGコーティング〉¥18,000/スウス

スウス
http://sussus.net/

illustration:Uca text:Eimi Hayashi

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