昨年末からぼんやりとシグネットリングが気になっている。存在感のあるゴツめのものを気負いなく小指につけてみたいのだが、そのスタイルを想像するとどうしても『ゴッドファーザー』のアル・パチーノと結びついてしまい、なんだか身の丈に合わない気がする。事実シグネットリングは古くから男性のための宝飾品だったし、欧州では貴族たちが自らの地位を証明するものとして身につけていた。そんな由緒あるものと知ればなおさら手が遠のき、結果的に明確な欲求に至らないまま新年を迎えた次第である。
西洋占星術によると、2021年は「風の時代」の幕開けとされている。「かたちあるもの」よりも「かたちのないもの」が重視される社会の到来。物や場所に縛られず、まさに風のごとく軽やかで自由な生き方が望まれるという。身も蓋もないことを言ってしまえば私は占いを信じるタイプではないのだが、「風の時代」というネーミングには好感が持てる。まず響きが心地いいし、火や水と違って風なら思い切って飛び込んでみようという気にもなれる。
新しい価値観に順応するのはそう簡単なことではないが、不安定なご時世だからこそ物事をフレキシブルに考えられる人になりたい。そんな新年の抱負を胸に、ひとつ縁起のいいジュエリーを購入しようと決めた。ここで冒頭の話に戻る。「シグネットリング=色気のあるマフィア」という自分の中の勝手なイメージを見事に覆してくれたのが、LA発のジュエリーブランドRetrouvaí(レトロヴァイ)のリングだった。
ヴィンテージライクなオーバル型の印台には、クラシカルなモノグラムではなく翼の生えた豚のモチーフが彫金されている。「when pigs fly(直訳:豚が飛んだら)」という英語のフレーズがあるが、絶対に起こり得ないことを伝えるときの表現だ。つまり空飛ぶ豚は「奇跡の象徴」とも言い換えられる。つややかな14Kゴールドとファンタジックなモチーフとの組み合わせが絶妙にマッチしており、ちょっぴりふざけたテイストも愛おしい。さらにはリングの裏側に刻まれた「anything is possible(可能性は無限)」のメッセージ。コロナ禍の今だからいっそう胸に響き、これこそ新年にふさわしいリングだと直感した。
受注制作なのでリングはまだ手元に届いていないが、もうじきこのユーモラスな生き物がはるばる太平洋を飛び越えてやってくる。その姿を指先で愛でられると思うとそれだけで心が弾み、小学校の遠足の前日を思い出す。毎日をこんな気持ちで過ごせたらどんなに幸せな一年になるだろう。連日の暗いニュースに沈みがちだが、どうか2021年が希望の年になりますように。新たに始まった風の時代、空飛ぶ豚のように明るくしなやかに乗り切りたい。