#33 微笑みのフルムーン【Anthony Lent】

全く自分に関係のないことなのに、なんだか後味が悪い、といったことがたまに起こる。

ランチをテイクアウトしようと、近所で人気のカレー屋に立ち寄ったときのこと。お昼時を過ぎていたこともあり、私の注文を最後にその店のランチが売り切れてしまった。「すみません、今日の分は終わってしまいまして」私のあとに入ってきたお客さんに申し訳なさそうに断る店員さんを見て、こちらもなんだかちょっぴり後ろめたい。

何人かのお客さんが諦めて帰る中、別の男女3人組が入ってきた。うち1人は常連客らしい。売り切れの旨を伝えられると、常連の女性は「えーっ!?」と仰天した。「せっかく友人を連れてきたのに、どうにかならないの?」と、引き下がる気配がない。

困った店員さんは厨房の店主らしき人に相談しに行き、数分後に戻ってきた。どうやらカレーはまだ少し残っているのだが、ライスがなくなってしまったから出せないという事情らしい。よかったら今からご飯を炊くので、30分ほど待ってもらえないか、という親切丁寧な対応だった。

本当ならここで「わがまま言ってごめんなさいね」くらいの言葉が欲しいところだが、その女性はなおも首を横に振った。「30分も待ってられないわよ。向かいのスーパーでレトルトのごはん買ってくるから、それにカレーかけて出してちょうだい」。

私は静かに絶句した。隣の席に座っていたお客さんも目が泳いでいる。どうするんだ? とソワソワしていたら、まさかのタイミングで私の注文していたカレーが出来上がってしまった。その場に残って顛末を見届ける野次馬根性はなく、そのままお会計を済ませて店を後にするしかなかった。

思いがけず嫌な場面に遭遇したとき、気持ちを瞬時に切り替えるのにジュエリーが一役買ってくれることがある。たとえば役所の窓口やコンビニのレジで怒鳴り声をあげる人を見てしまったとき、ふと視線を逸らした先に輝くスマイルがあれば、それだけでホッとした気持ちになれるかもしれない。

NYを拠点とするジュエラー「Anthony Lent」より、ブランドを象徴する天体コレクションのムーンフェイスリングを紹介したい。遠い昔に、何かの絵本で見たことがあるような。ちょっぴり奇妙だけど人懐っこいお月さまの表情に、心が重力のように引き寄せられた。

18金イエローゴールドのなめらかなフェイスには、ダイヤモンドのつぶらな瞳が燦然ときらめく。その一方で「きかんしゃトーマス」に初めて出合ったときのような、一度目にすると忘れられないインパクトも。ただ美しいだけじゃないところに、デザイナーのユーモラスな魅力をひしひしと感じる。

ここぞというときにだけ着用するのではなく、日常的に当たり前のようにつけていたい。そうすれば、なんとなく気分が晴れないときでも、指先の笑顔に満たされることがあるかもしれない。日々寄り添うことで、無意識に励まされる存在になるかもしれない。私たちもこのリングのように、いつだって朗らかに笑っていたいものだ。

リング〈18KYG、シルバー〉920USD
リング〈18KYG、シルバー〉920USD

https://anthonylent.com/

illustration:Uca text:Eimi Hayashi

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