近所の桜がほころび始め、春の訪れを告げている。
昔はこの時期になると、家や店の軒先にツバメの巣を見つけることがよくあった。卵が孵化して子育てが始まると、たまらなくワクワクしたものだった。巣の中でピーピー鳴きながら、大きな口を開けて待つ雛たちに、親鳥がせっせと餌を運び込んでくる。その健気な光景を初めて見たときは、あまりの愛おしさに一日中観察していられると思った。
張り切って小学校の自主学習の課題に選んだこともあったのだが、地道な観察はそう長くは続かなかった。「雛が巣立つまでの様子を絵日記形式で記録する」などと先生に宣言してしまったことを激しく後悔し、泣きべそをかいたことを覚えている。
ちょっぴりほろ苦い思い出のあるツバメだが、そういえば上京して仕事を始めてからは、その姿をめっきり見かけなくなった。もっとも、探す側にそれだけの心の余裕がなくなってしまったからなのかもしれないが。いずれにしても、もう何年も彼らに出会えていないと気づいた途端、なんとも寂しい気持ちに包まれた。
ツバメは古くから「幸せを運ぶ鳥」ともいわれている。だとしたら、ジュエリーとして身につけるのも素敵なのでは……。そう思い立っていざ探してみると、ツバメモチーフのアイテムが予想以上にたくさん見つかった。ヴィクトリア王朝時代の華やかなアンティークから、シンプルかつコンテンポラリーなピースまで、時代も国もさまざま。改めて世界中で愛されていることを実感すると、急に尊い存在に思えてきた。
ひときわ心にとまったのは、バンコク発、パトゥチャラヴィパの「タイニー スワロー ネックレス」だった。同名のデザイナーは、名門セントラル・セント・マーチンズのジュエリーデザイン科出身で、宝石鑑定士の資格も有する実力派。ファーフェッチやマッチズファッションなど馴染みのあるショッピングサイトでも取り扱われている、新進気鋭のファインジュエリーブランドだ。
華奢なチェーンに、颯爽と飛ぶツバメをかたどった小ぶりのチャーム。その目には、繊細なダイヤモンドがきらり。羽根を大きく広げ、尾羽をスッと伸ばして滑空するスマートな姿はそのままに、控えめながら愛らしさも感じられる。さらに肌なじみのいい18金が、ノーブルな輝きを放つ。毎日をともにすれば、それだけでささやかな幸せを感じられそうだ。
ところで、ツバメは夏の渡り鳥である。東南アジアで越冬し、春になるとはるばる海を渡って日本へやってくる。その移動距離は実に2,000キロ以上。体長20センチにも満たない体に、とてつもない飛行能力が備わっている。
国境をまたぐことが制限される時代を迎えて、今ほど彼らの存在が羨ましいと思ったことはない。ツバメのように軽やかに、自由気ままな旅がしたいものだ。胸元には、小さなゴールドの羽ばたきを添えて。
illustration:Uca text:Eimi Hayashi