#47 小さくとも、エメラルドの花よ【ウッターズ&ヘンドリックス】

息子が5月生まれなので、私の脳内メーカーはいま、「エメラルド」一色。今日まで無事に育ってくれた喜びと、我が子の成長を見守る自分自身への労いを込めて、子どもの誕生石を親が身につけるのも素敵なのでは、とたいへん都合よく解釈している。しかもこの春夏のトレンドカラーが鮮やかなグリーンということもあり、「エメラルド、買うなら今だよね」と勝手に大いに盛り上がっている。

そうはいっても気高き三大貴石のひとつ。大昔はあのクレオパトラも夢中になり、鉱山に自身の名を冠して独占したという。そしてクレオパトラといえば、同名映画(1963年公開)で主役を演じ、絶世の美女と謳われた大女優エリザベス・テイラー。彼女がこの映画の撮影中に、共演者でありフィアンセのリチャード・バートンから大粒のエメラルドが16個もついたネックレスを贈られたことは、あまりに有名な話。豪華絢爛なストーリーにため息を漏らしつつも、いざリアルに自分が身につけるとなればそこは切り替えが必要。10万円以内で買えて、見た目はプチッと小さくてもモダンなアクセントになって、なおかつ手もとを美しくみせてくれる。そんな優秀なエメラルドさん、どこかにいらっしゃいませんか? と探していたところ、巡り合ったのがウッターズ&ヘンドリックスのリングだ。

世界有数の芸術家を輩出している名門、アントワープ王立芸術アカデミーを共に卒業した、カトリン・ウッターとカレン・ヘンドリックスによるデザインデュオ。ハイセンスなセレクトショップでたびたび見かけるブランドで、てっきり気鋭の若手デザイナーだとばかり思っていたら、ブランドがスタートしたのは1984年。たいへん失礼いたしました。友人として、ビジネスパートナーとして、40年近くの年月を共にしながらブランドを成長させた2人の関係性は、まさにエメラルドの緑のように濃密で深遠なのだろう。

長年のデスクワークで近眼がさらに進んだのか、そろそろ老眼が始まってきたのかよくわからないが、最近ピントが合いにくくなってきた自分の目を細めながら、華奢なゴールドリングをまじまじと見つめてみる。リングには細やかなツイストが施されていて、そこにオーバル型のエメラルドがちょこんと一石、さりげないきらめきを添える。全部が控えめなのだけど、それがすこぶる愛おしい。繊細で可憐な佇まいに、見ているこちらの目はますます細まってゆく。私はいまどんな表情をしているのだろうと思い鏡を見てみたら、自分の目がちりめんじゃこみたいになっていて、なんだか可笑しくなった。

デザインは慎ましいのに、つけた瞬間パッと花が咲いたような明るさが指先に宿る。カサカサ手肌の荒涼地に、突如としてもたらされた、一粒の恵み。たとえ小粒でも、そのみずみずしいグリーンを眺めていると、目の奥の疲れがふわっと和らぐ。さっきまでくしゃくしゃに細めていた目から、余計な力が抜けてゆく。そういえば、エメラルドには「健康」という石言葉もあったっけ。年々この言葉の重みを感じる身としては、やはり、ここで手に入れないわけにはいかないのです。

リング〈18KG、エメラルド〉€485,00


WOUTERS&HENDRIX
https://wouters-hendrix.com/

illustration:Uca text:Eimi Hayashi

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