ヒロタカのデザイナーこと、井上寛崇さん。「イヤーカフ」の名付け親としても知られる彼のことを、私はひそかに教祖と呼んでいる。宝飾メーカー勤務を経て、ニューヨークでブランドをスタートさせたのが2010年。バーニーズ ニューヨークに自身の作品を持ち込んだとき、担当バイヤーに「これは何?」と聞かれてその場で思いついた造語が“イヤーカフ”だった。そんなエピソードをどこかのインタビュー記事で読んだことがあって、以来私の中で井上さんは、イヤーカフの教祖なのだ。
ちなみにその記事の最後には、井上さんの素敵なポートレートも添えられていた。太陽のような屈託のない笑顔がとても印象深くて、カメラの前でこんなにも柔らかな表情を見せられる人が作るジュエリーってどんなのなんだろう、と思った。それでどうしても実物に触れたくなって、表参道ヒルズの直営店を覗きに行ったのを覚えている。
ヒロタカのジュエリーといえば、削ぎ落とされたデザインに定評がある。でもただのミニマルとわけが違うのは、細部に有機的な息づかいを感じるから。たとえばシンプルで華奢な1本の曲線ピアスでも、どことなく昆虫の触覚を思い起こさせるような、遊び心と尊さが宿っている。それがあるがゆえに、どのアイテムも絶妙にアーティスティックな佇まいに仕上がっているのだ。井上さんはジュエリーをデザインする際、動植物や自然界の風景などにインスピレーションを得ることが多く、それらを極限まで抽象化することでジュエリーへと昇華させる。それってやり過ぎるとつまらないし、やらな過ぎると中途半端になってしまうわけだから、素人目には途方もない作業のように思える。どこまで削ぎ落とすかのさじ加減こそが、ブランドをブランドたらしめる重要なエッセンスなのだろう。
品があるのに程よくエッジィで、程よくプレイフル。そのバランス感覚がヒロタカの人気の秘訣だが、個人的におすすめしたいのはパールをあしらったイヤージュエリー。特に狙い目は、マンハッタンの街並みに着想を得た同名コレクションのシングルピアスだ。今にもこぼれ落ちそうなパールの美しさと危うさに、思わず見入ってしまう。装着するとパールが耳たぶの下を浮遊しているように見えて、ちょっぴりフューチャリスティックな趣き。縦のラインを強調するようにセットされたダイヤモンドを眺めながら、「そういえば、ライトアップされたエンパイア・ステート・ビルってこんな感じじゃなかったっけ」と大都会の輝きに思いを馳せてみるのも楽しい。耳もとにニューヨークの気配を感じられるって、なんだか素敵じゃないですか。
シングルピアス〈K18YG、ダイヤモンド、パール〉 ¥101,200
Hirotaka 表参道ヒルズ
https://store.hiro-taka.com/
03-3478-1830