ハートの雪景色【リア・ディ・グレゴリオ】 #88

ハートの雪景色【リア・ディ・グレゴリオ】の画像_1

ハートのかたちの窓の外に、しんしんと降り積もる純白の雪。そんなロマンティックな情景が、ふと心に浮かぶ。ミラノを拠点とするジュエリーデザイナー、LIA DI GREGORIO(リア・ディ・グレゴリオ)の「Toi et Moi(トワ・エ・モア)」ネックレス。イエローゴールドでかたどったハートの枠の中に、つぶらな淡水パールが敷き詰められている。チャーミングの一歩先をゆく、意匠を凝らしたデザインに釘付けになった。

ハート形にくり抜かれた窓からのぞく雪景色。どこかで見覚えのある風景だと思ったら、京都・宇治田原町にある山寺、正寿院の客殿の窓だった。確か10年近く前、SNSで話題になる前だったかもしれない。神社仏閣好きの友人に「面白い寺院がある」と誘われ、京都市内から遠く離れた山中に車を走らせ、訪れた。

事前情報がほとんどないまま、まっさらな状態で初めて見たときのインパクトはすごかった。「なぜ古刹にハート?」と混乱したが、友人が得意げに「これはハートに見えるけれどハートじゃない」と教えてくれた。正式には「猪目(いのめ)」と呼ばれる日本の伝統的な文様で、災いを除け、福を招くとされている。西洋のハートも、日本古来の猪目も、それぞれまったく異なる文化、文脈から生まれたものだが、奇しくも同じ形で古くから存在していることを知り、その神秘的な偶然性に感動した。

友人と正寿院を訪れた日は、真冬のものすごく寒い日だった。「なんでわざわざこんな日に」と少なからず不満を抱いていたことが記憶の片隅に残っているのだが、猪目窓にのぞむ雪化粧をまとった庭園の佳景を前に、負の感情がぜんぶ吸い込まれ、浄化されていった。ハートのかたちに切り取られた、愛らしくも凛とした景色を眺めていると、凍てつくような寒さも、寺院までのアクセスの悪さも、すべて帳消しになった。

ハートの雪景色【リア・ディ・グレゴリオ】の画像_2
Toi et Moiネックレス〈K18YG、パール〉¥261,800

心の引き出しにしまわれていた思い出が、リア・ディ・グレゴリオのネックレスとの出合いによって、思いがけず蘇ってきた。きゃしゃなチェーンの先で揺れる、ソリッドなハートの窓。その中で小粒のパールが行儀良く列をなし、「雪やこんこ」と静かに歌を奏でているよう。身につけると、ほとんど忘れかけていたハートの雪景色が、再び瞼の裏側に鮮明に映し出されてゆく。

あのとき、まったく乗り気じゃない私を無理やり連れ出してくれた友人は、もうこの世にいない。「アクティブの代名詞」のような存在だった彼女はいつもせっかちで、何をそんなに急ぐことがあったのか、みんなを置き去りにしてさっさと永遠の旅に出てしまった。

ハートの雪景色のような「Toi et Moi」ネックレス。Toi et Moiはフランス語で「あなたと私」。登山と寺社巡りが好きだったあなたと、そのどちらとも好きじゃない私。もう遠いところにいってしまったあなたと、まだこの世界にいる私。窓の向こう側と、こちら側。かけがえのない、あなたと私――。はからずも、ネックレスが大切な思い出を連れてきてくれた。


アッシュ・ペー・フランス(リア・ディ・グレゴリオ)
https://www.hpfrance.com/


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