それに、最低限のシンプルなスタイリングでいいとしても、決めなければいけないこと、揃えなければならないものはたくさんある。たとえば、服装はワンピースにするのかセットアップにするのか。セットアップだとしたら、ボトムはパンツなのかスカートなのか。色はどうするのか、中に着るブラウスは何がいいか。靴とバッグは? ジュエリーは? 脳内でどんどん枝分かれしていく選択肢の最適解がわからず、早々に思考停止。こういうときこそおしゃれ賢者に学ぼうと、インスタグラムで「#卒園式コーデ」を検索してみる。6万件以上もヒットする写真をつらつらとスクロールしているうちに、なんとなくイメージできたつもりになってきて、気がつけばまったく関係のない友人の投稿や、ネコが気持ちよさそうにシャンプーされている動画などを見始めてすべてを忘れ、何もかもがリセットされて、やっぱり月日が流れていく。まさに、言うは易く行うは難し、なのである。
この調子だと結局直前に焦ることになりそうな予感が早くもしているのだが、ひとつだけ、服もバッグも靴も飛び越えて「これは欲しいぞ!」と前のめりになっているのが、TASAKIから発売されたブローチ。ゴールドのバーの上に真円パールをびしっと並べた「バランス」モチーフは、いまやブランドの代名詞ともいえるデザインだが、それがブローチになったということで、たちまち運命を感じてしまった。
大小のパールをまっすぐ一直線ではなく、二列に配置した「バランス ステップ」。適度な傾きをつけることで、稲妻のような形状になっている。ミニマルでありながらも遊び心が効いていて、そのさじ加減、というか、まさに“バランス”が絶妙だ。コンテンポラリーな佇まいに箔をつけるのは、上品な照りを持つあこや真珠。華美ではないにしても確かなオーラをまとう、存在感がまばゆい。プレーンなセットアップの胸もとにこれひとつを飾るだけで、フォーマルな装いの鮮度がグッと上がりそうだ。さらに、ニットやTシャツなどのカジュアルな着こなしにも違和感なく馴染むであろう汎用性の高さも素晴らしい。
ところで、卒園式の定番ジュエリーといえばパールネックレスだが、上半身が貧弱な私はどうもパールネックレスとの相性が悪いらしい。これまでにもさまざまなサイズやレングスを試してきたし、母から譲り受けたものを冠婚葬祭のときに何度か身につけたこともあるのだが、どれもしっくりこない、というよりも、さまにならないのだ。「たまにしかつけないから見慣れないだけなんじゃないの?」という友人の心優しいフォローに「そういうことか!」と思いかけたこともあったが、もうひとりの卑屈な自分が心の中でこう囁く。「思いやりという名の嘘に騙されてはいけないよ」と。
一生ものといわれるパールネックレスを、自分は一生、“もの”にはできないんじゃないか、なんて考えるとせつないが、TASAKIのとびきりモダンなブローチに出合えた今は光明を見出せた気分。ブローチって、つける場所によって印象が変わりそうだし、なんとなくテクニックも必要そうだから玄人向けだと思い込んでいたのだが、じつはそう難しく考えなくてもいいのかもしれない。定番とはひと味違う、パールジュエリーの新たなチョイス。コンサバになりがちなオケージョンスタイルにモードなひねりを加える、マスターピースとなりそうだ。