作り手の名は、NATSUKO TOYOFUKU(ナツコ トヨフク)。ミラノを拠点に活動する日本人デザイナーだ。アートに造詣が深い人なら、その苗字から察しがつくかもしれないが、彼女の父は世界的な彫刻家の豊福知徳氏(1925~2019年)。1960年代に知徳氏がミラノに構えたアトリエを娘の夏子さんが受け継ぎ、自身のアトリエ兼ショールームとして使っている。彫刻家の父と画家の母のもとに生まれ、幼少期から彫刻や絵画に触れ親しんできた、いわば芸術家のサラブレッド。そんな彼女が、まさに“身につけるアート”と形容できる独創的なジュエリーを生み出していることは、ごく自然な成り行きにも思える。
ぷっくりとボリュームのある、有機的なフォルムのリング。可愛げがあると同時に、放っておくとポコポコと増殖していきそうな危うさもあって、そのギャップが面白い。一度見たら忘れられないインパクトとは裏腹に、澄んだすみれ色のアメシストとアイオライト、透き通るようなブルーのアクアマリンの色合わせが、心を撫でるようにやさしく手もとを彩る。アイオライトは、アクアマリンと同じ3月の誕生石。迷いが生じたときに道しるべとなり、持ち主を正しい方向に導いてくれるという。人生とは細かい選択の連続だと身にしみて感じる昨今、深遠な色石を眺めているだけで、出口を見出せる瞬間があったとしてもおかしくはない。
アメーバの触手みたいに枝分かれし、4つの色石をくっきりと縁取るのは、ブロンズの地金。アンティークを思わせる深みを帯びた輝きが肌によく馴染み、そのまま一体化してしまいそうなほどなめらかな表情をつくり出す。重厚感がありながらも、そっと寄り添うようなつけ心地。考え抜かれた設計が、身につける人の手指の骨格と重なるとき、ひときわ彫刻作品のような存在感を放つのだ。見る者の感性に訴え、心をじんわりと溶かしてくれる叙情的な意匠を見つめながら、夏子さんのことを想像してみる。きっと温かくてチャーミングで、熱い情熱を秘めた人なのだろう。唯一無二のデザインに作り手の人柄が表れているような気がして、お会いしたこともないのに特別な親しみを感じている。いつかミラノのショールームを訪ねて、クリエーションの秘話を聞いてみたい。