時を哲学する時計【フランク ミュラー】#67

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子どもが最近、保育園で覚えてきた歌をよく口ずさんでいる。「みんなともだち ずっとずっとともだち おとなになっても ずっとともだち」 無邪気に歌うその歌詞が、心に響くというよりもグサリと刺さる。そんな感覚になってしまうのは、自分が大人になりすぎてしまったせいだろうか。できることなら息子にはこの先もずっと、“ずっとなんてない”ことに気づかずに、明るく純粋な心のままでいてほしい。でもそれがずいぶん強引で一方的な親の思いであることもわかっている。近所で咲き始めたサクラを眺めながらそんなことを考えていたら、「ばかばかしい!」とサクラに笑われているような気がした。変化の季節は、どうも気持ちが湿っぽくなる。

毎日が、あまりに光速で過ぎてゆく。息子たちはどんどん成長していくのに、私の仕事の腕はいっこうに上がらないままなので、「頼む! 時間よ止まれ! 」と常々願っている。そのくせ、時を丁寧に刻むタイムピースには心奪われてしまうんですが、これって矛盾しているのでしょうか。スマホに頼りっきりの暮らしを今さら変えるつもりはないが、液晶に浮かぶ画一的でギスギスした時計に縛られるのはいやだ。スマホは手放せないけど、スマホの時計なんか見たくない。「なんだそれ」って自分でも思うけど、つまりそういうことだ。 

「美しい時計をつけている人は、過ごしている時を大切にしている」

かさついた心に、高純度の潤い成分を含んだ美容液のように沁みてきたのは、天才時計技師と名高いフランク ミュラーの言葉だった。常にデジタル時計と睨めっこしながら目の前のことに精一杯で、ささやかだけど素晴らしい何かを見逃してしまっているかもしれない私にとっては、ドキリとさせられる言葉だ。迫りくる締め切りを前に必死で原稿を書き上げている間に、長男は縄跳びや逆上がりができるようになり、次男は車の名前をたくさん覚え、二語文も話せるようになっていた。子どもたちの貴重な“はじめて”の瞬間に立ち会えないのは、母としてはじつに悔しい。仕事に没頭していても、少し焦点をずらすだけで見えてくる感動的な景色に、ちゃんと気づいて立ち止まれる人間でありたい。否、あらなければならない。

フランク ミュラーの代表作といえば「トノウ カーベックス」。1992年のブランド創設時に誕生したコレクションだが、「そんなにも歴史が浅いんだっけ」と衝撃を受けるほどの圧倒的な貫禄とオーラを放つ。フランス語で樽を意味する‟トノウ”と、湾曲を意味する‟カーベックス”。正面から見ると確かに一般的なトノウ型だが、ケースの側面を見ると、まるで球体の一部分を切り出したかのような曲線が描かれる。角のない、まさに“湾曲”したケースが腕に心地よくフィットするように設計されていて、惚れ惚れするほど流麗なフォルムに仕上がっているのだ。

さらに見入ってしまうのが、独自に生み出されたインデックスの「ビザン数字」。アーティスティックな文字盤を眺めていると、サルバドール・ダリの『記憶の固執』(1931)を思い出すのは私だけでしょうか。クラシカルなのに前衛的なムードをまとう独特のタイポグラフィーは、絶妙なバランスを保ちながら、しなやかに躍っているよう。持ち主を時空を超えた彼方へと連れて行ってくれそうだ。文字盤に施された繊細なギョーシェ彫り、みずみずしい輝きを放つ18Kゴールドのケース、ノーブルな印象をもたらすクロコダイルストラップ。すべての要素が共鳴し合う崇高なクリエーションに、ただ胸を打たれるばかりです。

「たかが時計ひとつで」と思っていた以前の自分が恥ずかしい。真に美しい時計を見ていると、時の流れが驚くほど穏やかに感じられる。正確に、平等に時を刻んでいるはずなのに、なぜか時間から解き放たれたような気持ちになれる。身につける時計が時間に対する意識をも変え得ることを、フランク ミュラーが教えてくれた。精緻な複雑機構に内包された、時の価値を捉え直す哲学。それこそが「名作」と呼ばれる所以なのだ。

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トノウ カーペックス〈K18PG、クロコダイルストラップ、クォーツ〉¥1,485,000

フランク ミュラー ウォッチランド東京
https://www.franckmuller-japan.com/
03-3549-1949

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