100年の歳月を経て、拡張するトリニティ【カルティエ】#69

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3年前に、母からカルティエの「トリニティ」リングを譲り受けた。絡み合う3つのリングをスルスルと指に通すと、ちょうど左手の人差し指にピタッとはまるサイズ。気持ちいいくらいのジャストフィット。母は若かりし頃、左手の薬指につけてちょうどよかったというから、私の指は母よりも少しだけ細い。人差し指につけたときの“スルスル、ピタッ”の感触が心地よくて、譲り受けたその日からほぼ毎日のように身につけている。

パンデミックで行動が制限され、誰にも会えず家で悶々と過ごした日々も、「トリニティ」リングだけはいつも、おまじないのようにつけていた。唯一はずしていたのは、誰の立ち会いも面会もないまま次男をひっそりと出産した前後の数ヵ月間くらいかもしれない。朝起きて、着替えたらその流れでリングをつける。うっかり忘れて、左手の人差し指に何もなしで過ごす日はやたらソワソワする。それくらい、「トリニティ」がスタイルの一部となっている。

愛と忠誠と友情。それぞれを象徴するピンクゴールドとイエローゴールド、ホワイトゴールドの3種のリングが繋がり調和する。ルイ・カルティエにより生まれたこのモダンなリングが、まもなく誕生から100年を迎える。何度聞いても衝撃的な事実だ。唯一無二の普遍的な造形美は、もはや聖域のような存在。そんな「トリニティ」リングが約1世紀もの時を経て、まさかこんなシナジーを生み出すとは! 

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Antoine Pividori © Cartier

sacaiのデザイナー兼ファウンダーである阿部千登勢さんとカルティエのクリエーションスタジオとの対話により、4年越しで完成したコレクションが「CARTIER TRINITY FOR CHITOSE ABE OF sacai」。ざっくり直訳すると“阿部千登勢のためのトリニティ”という意味になるが、その名が示す通り、阿部さんのパーソナルな思いが込められたコレクションだ。社会人になって初めて自分で買ったジュエリーが「トリニティ」だったというエピソードや、4年という長い時間をかけてじっくりと我が子を育てるように向き合った制作プロセスからも、デザイナーの深い愛を感じる。

2022年7月、コレクションローンチのタイミングでポップアップストアが開催され、表参道の交差点の一角に、建築家の藤本壮介さんがデザインした都会のオアシスのような空間が期間限定でできていた。真夏の過酷なロケ終わりに、暑さと疲労でよろめきながら吸い込まれるように入っていったら、足を踏み入れた瞬間に空気が一変するのを感じた。白の空間に、植栽された人工の「森」。その隣には、ガラス張りの透明な柱が6つ。その中をまるで宙に浮かぶように、コレクションピースがディスプレイされていた。

「動きによって、かたちがどのように変わるかを探求した」という阿部さん。3つの色彩はそのままに、フォルムやカーブが変容したデザインを眺めていると、「トリニティ」リングに新たな命が吹き込まれて思い思いに躍動しているよう。例えば、3種のリングを連ねたシングルイヤリング。それぞれのリングは耳にフィットするように部分的にカットされていて、ひとつを耳に引っかけて3連でぶら下げたり、ふたつを耳にかけて残りのひとつはぶら下げたり、あるいはその逆にしてみたり。楽しみ方はマルチウェイ。360度違った表情を見せるsacaiの服のように、たったひとつのアイテムがさまざまな顔を持ち、自由な動きをもたらす。

「トリニティ」のデザインコードを踏襲しながらも、オリジナルを解体し、独自の方法で再構築し、まったく新しいものを生み出す。その柔軟な発想は、まさにsacaiの本質でもある。歴史あるメゾンのクリエーションと日本のファッションシーンを牽引し続けるデザイナーとの刺激的なケミストリーに、静かな興奮が押し寄せた。藤本さんが手掛けた静謐な空間にただよう、“阿部さんのためのトリニティ”。美しくも儚いその光景が、今も鮮明に思い出される。

 

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CARTIER TRINITY FOR CHITOSE ABE OF sacai シングルイヤリング〈WG、YG、PG〉¥355,300*日本限定 Greg Gonzalez © Cartier

カルティエ カスタマー サービスセンター
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