2022年7月、コレクションローンチのタイミングでポップアップストアが開催され、表参道の交差点の一角に、建築家の藤本壮介さんがデザインした都会のオアシスのような空間が期間限定でできていた。真夏の過酷なロケ終わりに、暑さと疲労でよろめきながら吸い込まれるように入っていったら、足を踏み入れた瞬間に空気が一変するのを感じた。白の空間に、植栽された人工の「森」。その隣には、ガラス張りの透明な柱が6つ。その中をまるで宙に浮かぶように、コレクションピースがディスプレイされていた。
「動きによって、かたちがどのように変わるかを探求した」という阿部さん。3つの色彩はそのままに、フォルムやカーブが変容したデザインを眺めていると、「トリニティ」リングに新たな命が吹き込まれて思い思いに躍動しているよう。例えば、3種のリングを連ねたシングルイヤリング。それぞれのリングは耳にフィットするように部分的にカットされていて、ひとつを耳に引っかけて3連でぶら下げたり、ふたつを耳にかけて残りのひとつはぶら下げたり、あるいはその逆にしてみたり。楽しみ方はマルチウェイ。360度違った表情を見せるsacaiの服のように、たったひとつのアイテムがさまざまな顔を持ち、自由な動きをもたらす。
「トリニティ」のデザインコードを踏襲しながらも、オリジナルを解体し、独自の方法で再構築し、まったく新しいものを生み出す。その柔軟な発想は、まさにsacaiの本質でもある。歴史あるメゾンのクリエーションと日本のファッションシーンを牽引し続けるデザイナーとの刺激的なケミストリーに、静かな興奮が押し寄せた。藤本さんが手掛けた静謐な空間にただよう、“阿部さんのためのトリニティ”。美しくも儚いその光景が、今も鮮明に思い出される。


