持ち主の「今」を映し出す、エメラルドの魅力【カイエ】 #70

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思わず息をのむ、豊かな奥行きと気品をたたえるエメラルド。自然界にそれ以上の美しい緑は存在しないとまでいわれる、世界四大宝石のひとつ。古来の人々がそうであったように、現代を生きる私たちもまた、その鮮明な色彩に特別な力を感じずにはいられない。

混沌とした世の中だからこそ、石にもすがりたい気持ちはみな同じなのかもしれない。“色石ブーム”といわれて久しい昨今、この十数年でデビューした日本のジュエリーブランドの数は優に100を超える。注目ジュエラーといわれる中でもひときわ石の品質に定評のあるブランドが、カイエ(CAHiER)だ。


デザイナーの諏訪由子さんは、日本を代表する宝石商、諏訪貿易(SUWA)でデザイン制作に携わりながら、2013年にカイエを立ち上げた。父は諏訪貿易の3代目で会長の諏訪恭一さん。米国宝石学協会(GIA)の宝石学士の称号を日本人で初めて取得し、“宝石界のレジェンド“と称される人物だ。幼い頃から父のもとで、天然石に触れて育った由子さん。その後外部のジュエリー工房で腕のよい職人と出会い、審美眼を養いながら創作活動を続けてきた。カイエというブランド名は、フランスの権威ある映画批評誌『カイエ・デュ・シネマ(Les Cahiers du cinéma)』に由来する。同誌が世界中のさまざまな映画の中から選りすぐった作品を評価するように、鍛えられた眼力で選び抜いた石の魅力を多くの人に届けたい。由子さんの石に対するストイックで熱い思いが込められている。

「宝石は、自然からの授かりもの」。父・恭一さんの言葉を胸に、石に真摯に向き合い続ける由子さんのジュエリーを一言で表すなら、“親密さ”。憧れの遠い存在になるよりも、身につける人の日々に寄り添うことが信条だ。「百貨店の宝飾売場で売られているような、とびきり美しく由緒正しいカラーストーンを、日常にそっと寄り添うようなかたちにして外の世界に連れ出してあげたい」(公式インスタグラムより抜粋)。だから、由子さんが仕立てるカイエのジュエリーは、たとえそれが神秘的なエメラルドのリングであっても抜群にチャーミングなのだ。

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ブランドの立ち上げ当初から作り続けている代表作が「Marcel」リング。小さなカボションがイエローゴールドのアームと一体化するようにセットされた、なめらかで無駄のない意匠。身につけるとマットな地金が指に溶けていくように馴染み、ぷっくりとしたエメラルドが指の上に直接のっているかのように引き立つ。映画『ハウルの動く城』に出てくる指輪みたいに、持ち主が何かを求めるとき、一筋の光を放って導いてくれそう。途方もない年月をかけて、地中奥深くで偶然にもその色とかたちで生まれたエメラルドが持つ素のエネルギーを、雑味なくストレートに感じながらも、とびきり愛しさを感じるデザインに仕上がっているのがニクイ。

豆粒ほどの小さなカボションのなかを覗き込むと、さまざまな内包物が入り混じっていることに気がつく。削ぎ落とされた造形に閉じ込められた、小宇宙のような光景が胸を打つ。由子さんに選び抜かれたエメラルドと身につける人の個性が、指の上でそっと交わる奇跡。世界でふたつとないその色石は、肌の上でいっそう輝きを増す。石が持ち主の色に染まる瞬間だ。

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「Marcel」リング〈エメラルド、K18YG〉¥385,000

カイエ
http://www.cahier-cb.com/
050-5319-0524

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