その時、ハートは奪われた【プラダ】 #80

その時、ハートは奪われた【プラダ】 #8の画像_1

毎日が、ハートであふれている。インスタグラムの「いいね!」もそう、Teamsチャットのリアクションや、LINEの絵文字だってそう。朝から晩まで、ハートに囲まれた日々である。多いときは1日に20個、いや、もしかしたら30個ぐらいは誰かにハートを送っているかもしれない。昔に比べたら、ずいぶんカジュアルにハートを使うようになったなと思う。

今ほどSNSが普及していなかった頃、ハートの絵文字は私にとって、最上級の愛情表現だった。気軽に使っちゃいけないものだと思っていたし、恋人か親しい友人以外の人にハートの絵文字を送るなんてことは、滅多になかったと記憶している。場合によっては、文末に真っ赤なハートをつけることで変な誤解が生まれてしまい、なんかちょっと気まずい、なんてことにもなりかねなかった。それくらい、ハートは私の中では“取扱注意”なものだった。それが今となってはどうだろう。老若男女問わず、みんなお手軽に、いろんな人にハートを振りまいている。それがいいか悪いかという議論は別として、「♡」というアイコンを使うことに対する心理的ハードルはかなり下がっているんじゃないかと思う。

だからなのだろうか、それとも、そんなことは全く関係ないのだろうか、最近はハートのモチーフを身につけることへの抵抗もなくなってきた。以前なら、もっと気恥ずかしさみたいなものがあった気がするのだが、「ハートなんて私には無理!」みたいな感覚はすっかりなくなった。ことジュエリーに関しては、むしろハートモチーフに目がないくらいだ。撮影現場でご一緒するおしゃれなファッションプロの方々が、ハートのジュエリーを素敵につけこなしていらっしゃるのを見るたびに、物欲はぐんぐん加速する。

その時、ハートは奪われた【プラダ】 #8の画像_2

クラシックなハート、無骨なハート、プレイフルなハート。意外にもハートのジュエリーの歴史は古く、中世ヨーロッパ時代にまで遡るといわれているが、これまで見てきたさまざまなハートの中でも特に忘れられないのが、プラダのハートのリングだ。2022年秋に発表された「エターナル ゴールド」というファインジュエリーコレクションのひとつ。このプラダのハートをひと目見て、私のハートは奪われた。懐かしのドラマのタイトルを引用すると、「その時、ハートは盗まれた」である。

タフなボリュームと、削ぎ落とされたデザイン、少しの愛嬌を漂わせるツルンとなめらかなシェイプ、ひとつまみ程度添えられたポップなニュアンス。すべてのさじ加減が絶妙で、何度見ても引き込まれる。そこに、さりげなく落とし込まれたトライアングルロゴの存在感もまた格別だ。一見ミニマルな印象だが、緻密に考え抜かれていて、作り手の豊かな愛情が注ぎ込まれている。

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Eternal Gold イエローゴールド リング〈K18YG〉¥693,000(予定価格)

特筆すべきは、責任あるジュエリー協議会の「Chain of Custody(CoC)」基準を満たした、リサイクルゴールドだけを使用しているということ。さらに、購入者は素材調達から製品となるまでの全工程をデジタル上で追跡することができる。環境・社会面に配慮しながらも、リュクスなものづくりを追求する姿勢には、世界屈指のラグジュアリーブランドとしての気概を感じると同時に、閉鎖的なジュエリー業界に風穴を開ける、反骨的なスピリットが滲む。これぞ、プラダの哲学。これぞ、モダン・ハートの理想型。愛の印として古くから用いられてきたモチーフを、コンテンポラリーに昇華し、素材に対する既成概念をも打ち破る。なんてクールなんだろう。時代の空気を艶やかに映し出すプラダのハートのリングに、私はとびきりの「♡」を送りたい。

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