Blackbirdに込めた祈り【シャランポワ】 #85

ビートルズで好きな曲をひとつだけ選んでといわれたら、ずいぶん悩んでしまうけれども『Blackbird』をあげると思う。大学生の頃に恋をした人がいて、確かクリスマスイブかクリスマスの夜だったかに、その人が好きな曲をカセットテープに吹き込んでプレゼントしてくれたことがあった。『Blackbird』は、そのテープのB面のいちばん最後に入っていた曲だった。

カセットデッキがない今、ミックステープはもう再生できなくなってしまったが、あの日から約20年、この曲にどれほど励まされてきたかしれない。社会人になり、家族を持ち、出会いと別れを繰り返し、さまざまな局面で困難や苦しみに直面したとき、「それでも懸命に翼を広げて飛べ」と何度も背中を押してもらった。

しかしこの曲が発表された1968年、ポール・マッカートニーがやさしい弾き語りで真に励まそうとしたのは、当時盛んだった公民権運動や女性解放運動に参加したアフリカ系アメリカ人の女性たちだった。激しい人種差別と真っ向から闘い、抑圧された社会で自由と権利を獲得するために果敢に飛び立った、誇り高き女性たちを称えた歌なのだ。ささやくようなアコースティックギターのメロディにのせたポールの甘い歌声の奥には、じつは魂の叫びが込められている。

Blackbirdに込めた祈り【シャランの画像_1
「歌あはせ」リング〈K18YG、シルバー925〉¥330,000

久しぶりに『Blackbird』を思い出したきっかけは、sharanpoi(シャランポワ)のリングに出合ったからだった。シルバーの地金でかたどられ、全身を羽毛ではなくブラウンのメレダイヤモンドでびっしりと覆われた、重厚にきらめく小鳥のリング。つぶらな瞳にはブルーサファイアが凛と光り、小さなくちばしの先には、ひと粒の澄んだダイヤモンドが雫のように垂れ下がる。

「歌あはせ」というリングの名前にふさわしい、今にも軽やかなさえずりが聞こえてきそうな精巧な意匠は、さながら工芸品のよう。可憐で遊び心があり、詩的な趣も感じられる。

ふと思い浮かんだのは、宮沢賢治の名作『よだかの星』。まわりの鳥たちから疎まれ、鷹に「改名しろ」と脅されても、理不尽な要求に強く抵抗した一羽の気高き鳥。自ら命を絶ち、夜空にまたたく星になった、哀しくも美しい物語が脳内に広がる。

Blackbirdに込めた祈り【シャランの画像_2

石を新たに採掘して素材を調達するよりも、リサイクルショップに売られた既存のジュエリーやデッドストックの貴石に命を吹き込み、かたちを変えて羽ばたかせてゆく。デザイナーの安部真理子さんがこだわるのは、どこかで眠ったままの価値ある宝石にもう一度息吹を与え、ジュエリーを“受け継ぐ”こと。かつて、暗闇から光のある方向へ進んできた人たちがいたように、いつの間にか見向きもされなくなってしまった貴重な石たちに、再び光を照らすことだ。

Blackbirdに込めた祈り【シャランの画像_3

あえてピカピカに磨き上げず、素朴な風合いながらも耽美に仕上げた小さな鳥を眺めていると、ポール・マッカートニーが歌った『Blackbird』もじつは真っ黒ではなく、こんなふうに鈍色の輝きを放っているんじゃないかと思えてくる。慎ましくも引き込まれるような美しさをもつ「歌あはせ」の小鳥を指に乗せ、『Blackbird』を口ずさんでみる。世界のどこかで、今この時この瞬間を必死に生き抜こうとしている人たち、翼を広げて飛び立つ瞬間を待ち望んでいる人たちに、そっと思いを馳せ、祈りを捧げながら。


sharanpoi
https://sharanpoi.com/

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