ビートルズで好きな曲をひとつだけ選んでといわれたら、ずいぶん悩んでしまうけれども『Blackbird』をあげると思う。大学生の頃に恋をした人がいて、確かクリスマスイブかクリスマスの夜だったかに、その人が好きな曲をカセットテープに吹き込んでプレゼントしてくれたことがあった。『Blackbird』は、そのテープのB面のいちばん最後に入っていた曲だった。
カセットデッキがない今、ミックステープはもう再生できなくなってしまったが、あの日から約20年、この曲にどれほど励まされてきたかしれない。社会人になり、家族を持ち、出会いと別れを繰り返し、さまざまな局面で困難や苦しみに直面したとき、「それでも懸命に翼を広げて飛べ」と何度も背中を押してもらった。
しかしこの曲が発表された1968年、ポール・マッカートニーがやさしい弾き語りで真に励まそうとしたのは、当時盛んだった公民権運動や女性解放運動に参加したアフリカ系アメリカ人の女性たちだった。激しい人種差別と真っ向から闘い、抑圧された社会で自由と権利を獲得するために果敢に飛び立った、誇り高き女性たちを称えた歌なのだ。ささやくようなアコースティックギターのメロディにのせたポールの甘い歌声の奥には、じつは魂の叫びが込められている。


