心の砦を崩すとき【TASAKI】 #86

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今、このコラムを読んでくださっているみなさんにとって、2023年はどんな1年だっただろうか。日々飛び込んでくる絶望的なニュースに怒りを募らせた人、そんな中でもかけがえのない出会いに恵まれ、幸せを噛みしめた人、別れや後悔に涙した人、愛だの平和だの唱えている暇などないくらい、その日をこなすだけで精一杯だった人。きっと言葉にならないような思いが、原石のようにあちこちに埋まってひしめいているのだろう。同じ地球上で同じ時間を過ごしていても、それぞれが抱く感情のグラデーションの幅はとてつもなく広大だ。まるで、よろこびも悲しみも憎しみもすべて呑み込んでしまう、マジックアワーの空のように。

「仕事も育児も頑張ってて、すごいね」子を持ち、シングルマザーになってから、そう言っていただくことが増えた。「すごいね」と言われるたびに面映ゆい。ときにはどうしようもなく惨めな気持ちになることもある。なぜなら、本当はぜんぜんすごくなんかないことがあまりに自明だからだ。日々のやるべきことに忙殺されて子どものことは放ったらかしになることもしょっちゅうだし、家の中は整っていることの方が珍しいし、仕事で切羽詰まると子どもにイライラをぶつけて自己嫌悪になり、勝手に傷つく。母親として落第なのに、それでもはたから見ればそれなりに見えていて、気がつけば自分で自分に「すごい」のレッテルを貼っていた。このままでいいのかと胸が張り裂けそうなときも、声をあげて泣きたいときも、誰かに会えば笑顔を向け、明るく元気な人間であろうと努める。そうやって自分自身に鎧を着せ、心の砦を築いてきた。

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デインジャー ホーン イヤリング〈YG、あこや真珠〉¥389,400

理想は高いのに完璧とは程遠い、本当はしっちゃかめっちゃかで弱虫な自分へ。2023年を締めくくる最後の贈りものは、TASAKIの「デインジャー ホーン イヤリング」。純白に艶めく一粒のあこや真珠を、ホーンモチーフのキャッチが力強く受け止める。欠点ひとつない真円パールにあえて牙をむく、モダンで挑発的なデザイン。動物のかぎ爪のように湾曲し、先の尖ったまさに“危険な”そのツノが、耳の後ろ側できらりと鋭い表情を見せるとき、自分の心が引っ掻かれたような気持ちになる。知らぬ間に構築された心の砦が、わずか2センチほどの小さなツノで打ち砕かれ、素の自分が露わになるような気さえする。

しなやかなカーブを描くイエローゴールドのホーンは、耳につけたときに先端が上向きにカーブする。それは確かに危うさを孕んでいるが、同時にキュッと上がった口角のような人なつっこさもある。不満があってもへこたれず、負けん気の笑顔で向かおうとする自分自身を見ているよう。本当は真珠のように清らかな人間になりたいのになれない、曲がったツノを持つ自分の姿を映し出しているかのよう。ならば隠す必要などどこにあろう。上向きのツノをむき出しにしたままの方がかっこいいではないか。

誰かに見せる笑顔の裏側で、じつは不安に怯え、嫉妬に震え、欲望に駆られる醜い自分がいることを知っている。負の感情でドロドロになった部分。それも含めて、恥ずかしながら「私」そのもの。そんなものは早く消してしまわなければと、見えないように蓋をしてきたけれど、せめて自分くらいは認めてあげてもいいのかもしれない。TASAKIのイヤリングを耳に添えると、ありのままの自分を愛してあげようと思える。

一度築き上げた心の砦は頑丈だ。けれど、たまには上向きにカーブしたツノで突いて、自ら崩すくらいの大胆さも必要なのかもしれない。それができるようになったとき、私ははじめて自分のことを「すごい」と褒めてあげたい。


TASAKI
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