シカをイエローゴールドで表現した、ブシュロンのリング「ナラ ラ ビッシュ」。ラ ビッシュ(La Biche)はフランス語で「雌鹿」、そしてナラ(Nara)は「奈良」である。春日大社の神の使いの子孫として、日本の天然記念物として、古くから大切に保護されてきた「奈良のシカ」は海を渡り、奇しくもパリの名門ジュエラーの手によってまばゆい宝石になった。
学生時代を京都で過ごした私にとって、少し足を延ばせば会いに行ける奈良のシカは身近な存在だった。だからブシュロンの「ナラ」を知ったときは、幼馴染がハリウッドデビューしたぐらいの驚きがあった。奈良公園という聖域を軽やかに飛び越えて、世界の「ナラ」になったのだ。
考えてみれば、人慣れした野生のシカが平然と道を歩いたり寝そべったりしている姿は、外国の人からすると特殊な光景なのだろう。「ナラ」を生み出したデザイナーも、かつて奈良を訪れて衝撃を受けたのかもしれない。
連載「寝ても覚めてもきらめきたいの」:SPURエディターがパーソナルな感情とともに綴るジュエリーエッセイを堪能して。