あなたと私は合わせ鏡【mariko tsuchiyama】#98

イギリスのブライトンを拠点にジュエリー制作をする、mariko tsuchiyamaさんが手がけるリング。大粒のパールをワイヤーのように細い18Kゴールドが支える、ミスマッチなバランスに惹かれた。きゃしゃなアームの先端がパールの方にするりと伸びて、緩やかにカーブする。そのユニークな造形は、「まいったな」と頭を掻いているようにも見えてきて、じわじわ愛着が湧いてくる。

ゴールドとダイヤモンドの繊細な細工が、主役の美しさを引き立たせている。サウスシーパールと呼ばれる大ぶりのそれは、白蝶貝から採取される真珠で、真珠層が厚くテリが美しいのが特徴だ。真円ではなくあえて凹凸のあるバロックパールを採用することで、「可愛い」の数歩先をゆくインパクトが手もとに宿る。

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mariko tsuchiyamaさんのパールジュエリーは、日常使いにこそふさわしい。冠婚葬祭のときにだけうやうやしく取り出される、クラシックでお行儀の良いパールとは一線を画す、くだけたムードがある。なんてことのない普段の着こなしに馴染みながらも、醸し出されるのは型にはまらないパンクなマインド。それは、お母さんから借りてきたコンサバパールではなく、「自分の意思で選んだモダンパール」の真骨頂だ。

昔、校則の厳しい女子校に通っていたのだが、校長先生の「レディらしく」という時代錯誤な決まり文句が嫌いだった。「みんな等しくきれいな真円になりなさい」と言われているようで、今でもうんざりする記憶のかけらだ。このリングを見ていると、「そうはなるものか」と静かに反発していたあの頃が思い出される。

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リング〈K18YG、サウスシーパール、ダイヤモンド〉¥430,100

見る角度によって印象が変化するのも面白い。人にはいろんな側面があるように、同じ形がふたつとないバロックパールにも、さまざまな表情があることを教えてくれる。

「自分らしくあれ。ほかのみんなはすでに取られてしまっているのだから」と言ったのは詩人のオスカー・ワイルドだが、自分らしいって何だろう?と考え込んでしまうことがある。自分のなかにはたくさんの自分がいて、ときに矛盾すら孕む。「こうなりなさい」と押し付けられると抗うくせに、自分らしくと言われると途端にわからなくなる。つくづく厄介な性格だなと思う。

自分らしさがわからなくなったとき、ある人がこう教えてくれた。「あなたは私の合わせ鏡のような人ね」と。さらにその人はこうも続けた。「似ているようで、似て非なる存在ともいえる。でも、その鏡にはほかの誰も映らない」。その言葉があまりにうれしくて、私はその人のことが大好きなんだと再認識した。

たとえ自分らしさを見失っても、それを映し出してくれる人が身近にいる。友人であれ、家族であれ、同僚であれ、かけがえのない人がいることは財産だ。ジュエリーにもまた同じことが言えるように思う。例えばお気に入りのパールのリングを身につけていて、それが「あなたらしいね」と褒められると無性にうれしくなる。直感的に好きだと感じるものが、「自分らしさ」を投影するよろこび。大好きな人がそうであるように、大好きなジュエリーもまた、合わせ鏡のような存在なのかもしれない。

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連載「寝ても覚めてもきらめきたいの」:SPURエディターがパーソナルな感情とともに綴るジュエリーエッセイを堪能して。

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