錆びない心【クロムハーツ】#100

先日、とある取材で戦争を体験した80代の女性に話を聞く機会があった。計り知れないほどの苦労を乗り越え、激動の時代を耐え忍び生きてきたその女性は、「今が天国だ」と生き生きした表情で話してくれた。別れ際に彼女のあたたかい手に触れたとき、左手の薬指に大ぶりのシルバーリングが光るのが見えた。頭の中で重ね合わせたのは、クロムハーツのジュエリー。歴史を刻んだその美しい手に、量感のある造形がよく似合いそうだなと思った。

いつか私もクロムハーツが似合うおばあちゃんになりたい。40歳を迎える今、そんな理想を思い描くようになった。シワやシミで表情豊かになった素肌にこそ、存在感のあるシルバージュエリーが効くんじゃないかと心ひそかに期待している。

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ずっしりとパンチのあるものを指にひとつ、腕にもひとつ。そんな憧れはありつつも、今はまだ迫力負けしそう。これならと思ったのが、小ぶりの「CHプラス」モチーフが連なるブレスレット。ブランドのシンボルでもあるクロスモチーフがギュッとコンパクトに連なり、リズミカルに躍動する。クロムハーツならではの重厚なイメージを華麗に裏切る、細身で軽やかなデザインだ。

小さくても、クラフツマンのぬくもりを感じる精緻な作りこみは健在。一見すると小花のような華やかさのあるモチーフだが、そこに美しい陰影がもたらされることによって、ブランド特有のクールなエッセンスが引き立つ。手仕事が生み出す力強さと繊細さを兼ね備えた独自の世界に、ひと目見て引き摺り込まれた。

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ブレスレット〈シルバー〉¥179,300

使い込むほどにジュエリーの風合いが増していくように、人も年齢を重ねると、自分の生き様がそのまま魅力となってにじみ出るという。40代の私は今どんなふうに見えているのだろう。鏡に映った自分をまじまじと見つめてみる。20代の頃と比べれば、髪のツヤも肌のハリも、みずみずしさも減ってしまったように思う。増えたのは白髪とほうれい線と、家族を養うという大きな責任。

どんなときも強く優しくありたいと願う反面、自分のことでいっぱいいっぱいになることもよくある。誰からも認めてもらえていないような気がして、些細なことが許せなくなるときもある。大切な人に感情をぶつけてひどく落ち込んだり、何もかもが嫌になって逃げ出したくなったりもする。それでも生きている限り、自ら軌道を立て直し、前を向いて進んでいくしか道はないことも知っている。

タフで繊細なクロムハーツのブレスレットは、壊れそうで壊れない今の自分自身を象徴するかのよう。日々を共にすれば、思秋期の錆びついた心をきれいに磨いてくれそうな気がする。細部まで完璧にピカピカになることはないかもしれないが、その変化もまた「深み」になっていくと信じたい。40年後、大ぶりのクロムハーツをまとった私は「今が天国」と笑っているだろうか。

クロムハーツ トーキョー
https://www.chromehearts.com/
03-5766-1081

連載「寝ても覚めてもきらめきたいの」:SPURエディターがパーソナルな感情とともに綴るジュエリーエッセイを堪能して。