アルハンブラと幸運の女神【ヴァン クリーフ&アーペル】#101

アルハンブラといえば、誠に勝手ながらコンサバなイメージだと思い込んでいたのだが、先日のパリ五輪でテニス選手たちがプレー時に身につけているのを見て、スポーツウェアとのミックスマッチがこんなにも効くのかと開眼した。あんなに激しい動きを長時間続けるのだから全身に相当な汗をかくだろうに、アルハンブラの石は汗水に強いのだろうか、そもそもプレー中にラケットや顔にあたって邪魔になったりしないのだろうか、などと素朴な疑問が浮かんできたことはさておき、ゲームの行方よりも選手たちがどんなジュエリーをつけているのかが気になってしまって、そればかりを目で追っていた。

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一度気になると深追いする性分なので、選手個人のインスタグラムや過去の試合の写真などもたどってみたところ、ルーマニアのアナ・ボグダン選手がウィンブルドン選手権で着用していたオニキスのアルハンブラ ピアスに強く心を掴まれた。ワニのロゴがワンポイントになったラコステの真っ白なユニフォームをまとい、タイトにまとめたヘアの耳もとには黒のアルハンブラが凛と映える。ボールを打ち返そうと構えるボグダン選手のストイックな表情も相まって、純白と漆黒のコントラストが生み出す緊張感に惹き込まれた。モノトーンの服装が好きなこともあり、彼女のスタイルをそのまま取り入れたい衝動にいま駆られている。

四つ葉のクローバーをかたどったジェムストーンに、ゴールドビーズの繊細な縁取りをほどこした精巧なアルハンブラ。いわずと知れたヴァン クリーフ&アーペルのアイコンコレクションは、1968年の誕生以来「幸運のシンボル」として世界中の人びとに愛され続けている。実力のみならず運も必要とされるのがスポーツの世界。ゲン担ぎに身につけるアルハンブラは、オリンピックの大舞台でも視線を奪うほどの存在感を放つ。その可憐ながら力強い輝きを前にすれば、幸運の女神も思わずにこりと微笑んでくれそうだ。

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ヴィンテージ アルハンブラ イヤリング〈K18YG、オニキス〉¥632,500

昨年末に、とある若手のトップパラアスリートにインタビューする機会があった。小学生の頃に重い病気を発症し、壮絶な闘病生活を経て車いす生活になった彼は、迷いのない口調でこう話してくれた。「辛いときは自分に抗わず、素直に落ち込んだ方がいい。時間がかかっても、その後に新しく夢中になれるものが何かひとつでも見つかれば、『あのとき辛いことがあったから、こうなれた』と胸を張って言える自分が待っています」そのときの彼の遠くを見据えるような眼差しに、希望を持ち続ける尊さを感じ、静かに胸打たれたことを今でも鮮明に覚えている。

「幸運になりたければ、幸運を信じなさい」これはヴァン クリーフ&アーペルの創業者の甥、ジャック・アーペルが大切にしていた言葉だ。熱心な蒐集家だった彼は、自宅の庭で摘み取った四つ葉のクローバーにお気に入りの詩を添えて同僚へ贈り、常に希望を持とうと呼びかけていたという。

メゾンにとってかけがえのないモチーフとなったアルハンブラは、誕生から半世紀以上経ったいまもなお、幸運を信じて生きるすべての人たちをエンパワーメントする存在であり続けている。ジュエリーに小さな希望を託して、40歳の節目となる今年こそファースト・アルハンブラをさりげなくまとってみたい。慌ただしい毎日のなかで、ふと焦りや不安を感じるとき、自分の無力さにただ打ちひしがれてしまうとき、両耳に宿る愛らしくもきりりとした黒の輝きが、前を向くきっかけを与えてくれるかもしれない。


ヴァン クリーフ&アーペル ル デスク
http://www.vancleefarpels.com/
0120-10-1906

連載「寝ても覚めてもきらめきたいの」:SPURエディターがパーソナルな感情とともに綴るジュエリーエッセイを堪能して。

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