見えない迷路を進むように【トムウッド】#106

クリーンでミニマルで、実用的。これぞスカンジナビアンデザインと思わせるスタイルが、多くのファンを惹きつけてやまないトムウッド。建築からインスピレーションを得たピースが多いことでも知られているが、新作の「Maze(メイズ)」も例に漏れず。

見えない迷路を進むように【トムウッド】#の画像_1

ぷっくりとしたフォルムのイヤーカフは、バックミンスター・フラーのドームを連想させる、近未来的な意匠。東京タワーの骨組みのような堅牢さもあると同時に、竹細工のような繊細さも感じられる。もっと言えば、ケーキに飾るシュクレフィレのような軽やかさも。見る角度によってさまざまな印象をもたらす、不思議な佇まいだ。

彫刻のように大胆で、工芸品のように美しい。耳もとに宿るのは、唯一無二のモダンな感性。作りは複雑なはずなのに、なぜか削ぎ落とされたムードに仕上がっているのが、じつにトムウッドらしい。リサイクルシルバーの凛とした輝きが、いっそう横顔の洗練度を引き上げる。

コレクション名のメイズは、英語で「迷路」という意味。方向音痴の自分がもしもこの中に入り込んでしまったら、たぶん一生出てこられないんじゃないかと思う。『バイオハザード』のレーザートラップよろしく、難攻不落である。

進めると思ったら行き止まりだったり、曲がった先で突然壁にぶつかってしまったり。ゴールが見えない不安がある一方、先がわからないからこその楽しみもある。いわれてみれば迷路って、人生の縮図のようなものかもしれない。小さなジュエリーピースをきっかけに、ふとそんなことを思った。

見えない迷路を進むように【トムウッド】#の画像_2
Mazeイヤーカフ〈925シルバー〉¥25,200

もしも人生が迷路なのだとしたら、困難に直面したときに状況を変える羅針盤となりうるものは、自分の心の中にあるのだろう。その時その時の何気ない選択の連続が、人生を変えてゆく。だとしたら、好きなジュエリーを買うという行為もまた、その無数にある選択のうちのひとつだ。数年後、あるいは数十年後、振り返った時に、今の選択が大きな分岐点になっていた、なんてこともあるのかもしれない。

バックミンスター・フラーが残した名言に、こんな言葉がある。「芋虫の中には、それが蝶々にいずれなるだろうとわからせてくれるものなど何もない」。今直面している物事が、今後どのように変化するのか、大半のことはわからないし、想像すらできない。そのことを受け入れて、私たちは今日も迷路を進む。「可能性は、きっと未知数だ」耳もとに添えた小さなフラードームが、そう囁いている。

トムウッド 青山店
https://www.tomwoodproject.com/
03-6447-5528

連載「寝ても覚めてもきらめきたいの」:SPURエディターがパーソナルな感情とともに綴るジュエリーエッセイを堪能して。

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