不完全なものへの賛美【ジル サンダー】#114

ジル サンダーからブランド初となるファインジュエリーコレクションが発表された。植物や水、宇宙といった自然界に着想を得た3つのシリーズで構成される。「ブランチ(Branch)」はそのひとつで、名前が示す通り「木の枝」のような凹凸のある意匠が特徴だ。

なかでも、大きさの異なるラボグロウンダイヤモンドを埋め込んだ18Kホワイトゴールドのバングルには強く惹かれた。ロジウムメッキ加工によって反射する光や、不規則にちりばめられたダイヤモンドのきらめきは、どこか流動的で、神秘性すら感じさせる。

「木の枝」のような凹凸のある意匠が光るジルサンダーのブレスレット。その不完全な美しさは、さながら人間の存在そのものを映し出しているかのよう。

クリーンでソリッドな輝きとは対照的に、佇まいはでこぼこしていて有機的。その不完全な美しさは、さながら人間の存在そのものを映し出しているかのよう。「完璧さなど捨ててしまいなさい」といわんばかりの挑発的でいびつなフォルムがなんとも愛おしい。

一方、内側の仕上げにまでこだわるストイックさと力強い佇まいは、いっさいの妥協を許さず女性を強くする服作りに向き合った創業者、ジル・サンダーさんの信念に通じるものがある。複雑なデザインを高精度に造形できる最先端の金細工技術と、熟練のクラフツマンによる伝統工芸技術の融合によって実現する、計算し尽くされた不完全美。思いっきり手をかけて、あえて不完全さを追求するというひねくれ方に心を打たれた。

ぐにゃりと曲がった枝のようなバングルを見るにつけ、“戦いごっこ”が好きな我が子たちを思う。公園や川原などで立派な枝を拾っては剣に見立てて遊びたがるので、まわりの人にあたらないかとハラハラしてしまう。ときに、どちらの枝が大きいかで本当に争いが勃発することもある。外に落ちている木の枝が、みんなこのバングルみたいなかたちだったら平和的解決を図れそうなのになと思う。

話を戻すとこのバングル、一見すると量感がありそうだが、内側が空洞なのでつけ心地は軽やかで、手もとの所作が美しく見える。身につけてみて初めて気づく、秘められた魅力。「ハンガーに掛けた状態でも、着ても美しい服」を作ることを貫いてきたブランドの矜持が細部に宿る。シンプルに腕にひとつ添えるだけで、浮き沈みのある毎日でも前に進めそうな気がする。

ジルサンダーのファインジュエリーコレクションより。「BRANCH」ブレスレット〈K18WG、ダイヤモンド〉¥1,972,000
「BRANCH」ブレスレット〈K18WG、ダイヤモンド〉¥2,169,200(ジル サンダー 銀座 限定受注販売、2025年3月10日(月)より展開)

枝といえば、中島みゆきさんは自身の名曲『空と君とのあいだに』のなかで、「君が涙のときには、僕はポプラの枝になる」と歌っている。中島さんの出身地である北海道札幌市には巨大なポプラ並木があり、もともとは開拓時代に防風林として植栽されたという。強風から農作物や家を守るポプラの枝のように、大切な人を守ってあげたい。中島さんの歌にはそんな思いが込められているのだろう。

平和や生命の象徴ともされる枝をモチーフにしたジル サンダーのバングルを、お守りのようにして日々まといたい。手首をぐるりと囲む独創的な輝きが、身につける人の個性を引き出し、移ろいゆく人生の素晴らしさを讃えてくれると信じたい。

ジルサンダージャパン
https://www.jilsander.com/
0120-998-519

連載「寝ても覚めてもきらめきたいの」:SPURエディターがパーソナルな感情とともに綴るジュエリーエッセイを堪能して。