乳白色の石の中に描かれた、シダ植物のような模様に目を奪われた。しかも人工的に作られたものではなく、自然現象によって生み出されたものだと知り、さらに衝撃を受けた。それは「デンドライト」と呼ばれる樹枝状の結晶で、石の細かな亀裂の中にマンガンや鉄などの粒子が入り込んでできたものだという。まさに、自然界が生み出したアートピース。長い時間をかけて地球の奥深くで生まれた石の中に、永遠に枯れることのない植物が閉じ込められている。
デンドライトの和名は「しのぶ石」という。シダ植物のしのぶ草に模様が似ていることにちなんで名付けられたそうだ。
しのぶ草といえば、20代の頃に住んでいたアパートを思い出す。1階に大家さんが暮らしていて、軒先にはいつも釣りしのぶが吊るされていた。とても親切な大家さんで、ひとり暮らしの私を気遣い、時々晩ごはんに呼んでくれた。大家さんの部屋には、船上で撮られた男性とのツーショット写真が飾られていて、私がそのアパートに引っ越してくる直前に最愛の夫を亡くされたと知った。心筋梗塞で、あまりに突然の別れだったという。写真は1年前にクルーズ船で世界一周旅行をしたときのものだと教えてくれた。「私たち再婚でね、とても仲よしだったの。おかず、もうふたり分もいらないのに癖が抜けなくて。いつも作りすぎちゃうのよ」。そう話してくれた大家さんの寂しそうな笑顔が切なくて、私は食卓に並んだたくさんの料理を残さず全部食べた。かけがえのない人をしのぶ大家さんの優しい視線の先で、軒先の釣りしのぶが涼しげに揺れていた。
連載「寝ても覚めてもきらめきたいの」:SPURエディターがパーソナルな感情とともに綴るジュエリーエッセイを堪能して。