揺らめくように変化し、生きる私たちへ【AHKAH】 のピアス#120

ダイヤモンドの連なりが流れるように揺れ動く、アーカーのピアス。ひと粒のバゲットカットダイヤモンドを起点に、ラウンドブリリアントカットダイヤモンドを何粒もあしらった長さの異なるゴールドバーが整然と吊り下がり、優美なトライアングルシェイプを生み出している。

はてどこかで見覚えがあるなと思ったら、『NHKのど自慢』で使われているチャイムだった。「ドシラソ ドシラソ ドミレ」の軽やかな音色が聴こえてきたら、気分は完全に日曜の午後である。合格のときの華やかな11音に対して、不合格なら鐘の音がひとつかふたつ。特に鐘がふたつの場合、歌った人によって1打目と2打目の間隔が微妙に違っていて、聴き比べるとなかなか趣深い。「残念! あなたは合格でもよかったのに!」という鐘奏者の思いが「ド」と「レ」の2音から伝わってきて、その絶妙な間合いになんともいえない気持ちになるのだ。

シャンデリアに着想を得たピアス

アーカー「シャンデリア バゲット」のピアス

耳もとで優しい音色が聴こえてきそうなアーカーのピアスだが、着想を得たのはチャイムではなく、シャンデリアから。ゆえに名前は「シャンデリア バゲット」という。ディズニー映画を観て育った私にとって、シャンデリアといえばプリンセスの住む城のイメージが根強い。子どもの頃の憧れだったゴージャスなきらめきを、クリエイティブディレクターのケイティ・ヒリヤーさんは、ゴールドとダイヤモンドでこうもスタイリッシュに表現してみせた。日常の中の美しいものをインスピレーション源に、アイデアを形にする彼女のセンスには惚れ惚れする。

実際につけると、小ぶりでも確かな存在感があり、繊細な反面、強さもあり、優しい雰囲気なのに、どこか凛としている。多彩な表情でフレキシブルに揺らめく様子は、さまざまな面を持ちながら今を生きている、一筋縄ではいかない私たちを象徴しているかのよう。洗練されたファインジュエリーでありながら、毎日の装いに等身大で身につけたいと思えるラフさを兼ね備えている。

さりげなく個性を奏でて

クリエイティブディレクターのケイティ・ヒリヤーさんは、ゴールドとダイヤモンドの配列でなんともスタイリッシュに表現
シャンデリア バゲット ピアス〈K18YG、ダイヤモンド〉¥187,000

「シャンデリアにぶら下がってスウィングするの」。オーストラリア出身のシンガーソングライターのシーアさんは、世界的に大ヒットした自身の曲の中でそう力強く歌っている。過去に経験した薬物やアルコール依存症の苦しみ、自分の弱さや揺らぎを表現した曲だ。波瀾万丈な人生を送ってきた彼女が歌うからこそ説得力があり、多くの人の心に響くのだろう。

若気の至りは、程度の差こそあれ誰しもが通る道である。燦然と輝く巨大なシャンデリアに向こう見ずにぶら下がる大胆さと自己嫌悪的な危うさが、かっこいいと思えた時期もあったかもしれない。けれども十分すぎるほど大人になった今では、小さなシャンデリアをさりげなく耳もとにぶら下げて前を向く自己肯定感と、何が起きても自分自身は決してぶれない芯の強さに憧れている。

たとえどんな生き方をしようとも、一人ひとりの人生にのど自慢のような合否はない。軽快な11音でもなければ、気の抜けた2音でもなく、奏でる音色はそれぞれ個性があるのだろう。その人生の道中で私たちは、自分自身を一瞬でもシャンデリアのように輝かせてくれるかけがえのない存在と出会い続けながら、おそらく自分でも気づかないうちに、少しずつ音色を変えていくのかもしれないとも思う。それは、普通に聴いているだけではわからないぐらいの微細な変化なのかもしれない。それでもせめて耳を澄ませていたい。その耳には、シャンデリアのようなピアスを揺らせながら。


AHKAH
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連載「寝ても覚めてもきらめきたいの」:SPURエディターがパーソナルな感情とともに綴るジュエリーエッセイを堪能して。