奇跡のパール【ソウス オブジェクツ】のネックレス #122

真珠の養殖が始まったのは19世紀末。それまで、天然真珠はごくわずかな確率でしか出合えないものだった。乳白色のまろやかな艶をたたえた自然の産物は、今よりもずっと稀少価値が高かった。だからこそ、ひと粒を丸ごと使う、などという発想は、あまりに贅沢すぎたのだろう。天然真珠はふたつにカットされ、ハーフパールとしてジュエリーに用いられてきた。

そんな背景に着想を得たのが、「ハーフ ケシパール」ネックレス。恵比寿にあるジュエリーのセレクトショップ、ソウス オブジェクツのオリジナル作品だ。

ひとつとして同じ形のないケシパール

「ハーフ ケシパール」ネックレス。恵比寿にあるジュエリーのセレクトショップ、ソウス・オブジェクツのオリジナル作品

ケシパールは、養殖の過程で貝の中に入り込んだ砂や虫などの異物に、真珠層が巻き付くことで形成される。偶然に偶然が重なって生まれたもので、その形状や表面の照り具合に、ひとつとして同じものはない。オーナーの杉山慎治さんが、それぞれの個性を見極め、選び抜いた3粒をネックレスへと昇華させた。

そのうちのひとつが、いびつなハート型のケシパール。子どもが描いた絵のような不完全さと親密さに、愛着を抱かずにはいられない。南洋の海の底で、白蝶貝によってつくり出された奇跡のハート。その神秘的な一期一会に、私は今、立ち会っている。

唯一無二のその造形は、ゴールドの台座にぴたりとおさまり、とっておきの居場所が与えられた。表面をなめらかにする研磨加工はあえて施さず、生まれ持った本来の美しさをそのまま宿している。不規則に盛り上がったり、くぼんだりして、見る角度によって表情が変化する。

サイズは約10ミリと真珠の中では大ぶりだ。身につけると、ちょうど鎖骨の下あたりで、でこぼこハートが健気に揺れる。「私は、ハートということでよろしいのでしょうか」そう問いかけるような控えめな様子が、なんともいじらしい。

ネックレス〈ケシパール〉¥178,200

ネックレス〈ケシパール〉¥178,200

思いがけずハートになったケシパールを見つめていると、すべては奇跡なのだと思えてくる。

朝起きて、学校へ行く子どもたちを見送った後、せっせと原稿を書き、なんとか締め切りに間に合わせる。夕方になると、彼らは何事もなかったように帰ってきて、母親にガミガミ言われながらめんどくさそうに宿題をし、ごはんを食べ、ふざけたり喧嘩したりしながら入浴と歯磨きをすませ、スイッチが切れたように眠りにつく。子どもたちが寝静まると、「やれやれ」とため息をつきながら、やり残した仕事を片づけ、残された時間でパートナーと他愛もないことを話し合い、やがて自分も吸い込まれるように眠りに落ちる。

何もかもが、当然のように過ぎてゆく。川の水のように、あっという間に流れてゆく。すべてが、かけがえのない一瞬の積み重ねだということを、胸もとのケシパールだけが知っている。

ネックレス|ソウス オブジェクツ

ソウス オブジェクツ
http://www.source-objects.com/
03-3443-5588

連載「寝ても覚めてもきらめきたいの」:SPURエディターがパーソナルな感情とともに綴るジュエリーエッセイを堪能して。