タンザナイトと青い目の人形。【トーカティブ】のリング #131

「青い目の人形」のことを知ったのは、今年の初め頃だった。今から約1世紀前の1927年、悪化していた日米間の国民感情を和らげようと、宣教師のシドニー・ギューリック博士と渋沢栄一が中心となって相互の親善を図り、日本全国の幼稚園や小学校に約1万2千体もの青い目の人形が贈られた。その後、太平洋戦争が開戦すると、友好の証だったはずの人形は敵国の人形とされ、多くは叩き壊されたり、焼き払われたり、悲しい運命をたどった。

一方で、人形を引き取り、軍に見つからない場所に隠して守ろうとした人たちもいた。戦況が悪化していく中で、次々と出征して命を落としていく若者たちも、いっそ人形のように隠してしまえたなら。人形を隠すという行為は、当時の人びとの切なる思いの表れだったのだろうか。戦禍を生き延びることができた青い目の人形は、戦後各地で発見され、全国に300体ほど現存する。それらは大切に保管され、子どもたちの平和教育に活用されているという。

トーカティブのハートの色石リング。ホリデーアイテムとして展開中。リング〈K18YG、タンザナイト〉¥583,000

今年の春頃、青い目の人形のレプリカを作っている女性にお目にかかる機会があった。彼女のアトリエにお邪魔したときに、人形の原型を見せてもらった。つるつるの顔をしたコンポジション製のそれは、グレース・エッサという名前で、パスポートも持っている。ふんわりとした栗色の髪と薔薇色の頬を持ち、劣化はかなり進んでいたものの、本当に澄んだ青い目をしていた。繊細なレースをあしらったドレスが、人形の素朴な愛らしさを引き立たせていた。体を寝かせると、ふさふさのまつ毛をたたえた瞼がそっと閉じ、いっそう愛着が湧いた。

あれから半年以上が経ち、ふとグレース・エッサのことを思い出したのは、トーカティブのリングに出合ったからだった。K18YGの縄目模様のアームで仕立てられたそれは、どこかアンティークのような趣がある。青紫色にきらめくハート型の色石はタンザナイトで、グレース・エッサの瞳よりも濃くて深い。見る角度によって色が変わる、神秘的な輝きを前にすると、自分の中の本質的な部分を見透かされているような気がしてくる。色も形も違うのに、不思議とグレース・エッサの青い眼差しを連想させる。

トーカティブのハートのリング〈K18YG、タンザナイト〉¥583,000

リング〈K18YG、タンザナイト〉¥583,000

キリマンジャロ山の麓、タンザニアのメレラニという地でのみ採掘される、希少性の高いタンザナイトは、1967年に発見された。落雷によって火災が発生し、その熱の影響で、もともとワイン色だった石が鮮やかなブルーに変化したといわれている。グレース・エッサの瞳も、凛としたタンザナイトも、燃える火の中をくぐり抜けた、熱き青なのだ。とびきりチャーミングな佇まいには、過酷な環境に耐えてきた力強さを秘めている。だがそれだけではない。誰かに幸せを届けたいという作り手のピュアな思いも込められている。

タンザナイトの産出量は徐々に減少し、近い将来、鉱脈が枯渇するともいわれている。この先いっそう貴重な存在となっていくであろうハートのリングも、青い目のグレース・エッサも、次世代に大切に受け継がれていくべきものだ。いまだ混沌とした世界を生きる私たちに、希望の光を、平和を願う気持ちを思い出させてくれる。見えない場所に隠しておくのは、あまりにも忍びない。


トーカティブ 表参道(トーカティブ)
https://talkative.jp/
03-6416-0559

連載「寝ても覚めてもきらめきたいの」:SPURエディターがパーソナルな感情とともに綴るジュエリーエッセイを堪能して。

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