身につける小さな彫刻【シャルロット シェネ】#108

「その耳、いったいどうなってるの?」シャルロット シェネのジュエリーを初めて展示会で見たとき、ファーストインプレッションでそう感じた。石もパールも使わずに地金だけで構成されたアブストラクトなデザインが、耳を包むこむようにフィットする。一見ミニマルなのに、見れば見るほど複雑な構造で、「こんなジュエリー見たことない」と頭をひねった。

天地はあるのか、表裏はあるのか、このつけ方は正しいのか。そもそも、これはジュエリーなのか、はたまた彫刻なのか?

身につける小さな彫刻【シャルロット シェの画像_1

ひとたび身につけると、謎は瞬時に解けてゆく。それは身体を飾るというよりも、身体の一部となり共鳴する感覚。ソリッドな金属が、なめらかなカーブを描きながら肌に沿うとき、「なるほど、こんなふうに見えるのか」と膝を打つ。まるで数学の難問が解けたような、パズルがぴたりとはまったような快感を味わえる。

医療家系で育ったシャルロットさんは、自身も理系出身。そう聞いて、唯一無二のクリエーションが腑に落ちた。彼女の頭の中では、デザインする時点で身につけたときのイメージがはっきり描かれているのだろう。独特のシェイプはアーティスティックであると同時に、解剖学的ともいえる。身体の動きに心地よくシンクロするとき、ジュエリーはそれ単体で見るよりも遥かに強いインパクトを放つ。

ニコラ・ジェスキエール時代のバレンシアガでジュエリーデザインの経験を積み、2015年に自身のブランドを設立。以来、着実にファンを増やし、ブランドを成長させてきた。そして10周年という節目を来年に控える今、新たにローンチしたのが「Biseau」というコレクションだ。

身につける小さな彫刻【シャルロット シェの画像_2

ワンストロークで有機的なフォルムに仕上げたイヤーカフは、ルパン三世の石川五ェ門の斬鉄剣よろしく、先端がスパッと斜めに面取りされている。曲線の流れを打ち止めるような切れ味の良いカッティングで、やわらかさの中にシャープな印象を匂わせる。その二面性に意表を突かれ、じわじわ引き込まれてゆく。

耳のきわにくるりと絡みつく意匠は、さながら命ある生物のよう。そして、耳の軟骨部分を貫通しているようにも見える大胆でトリッキーな造形こそ、シャルロット シェネの真骨頂だ。表裏を逆にしてみたり、シルバーとイエローゴールドヴェルメイユを一緒につけてみたり。その日のスタイリングやムードに合わせて、表情や組み合わせを変えて楽しみたい。あるいは、「そのつけ方も素敵ね」とデザイナー本人に褒められるような独自のバランスを編み出してみたい。

身につける小さな彫刻【シャルロット シェの画像_3
左から:「Biseau」イヤーカフ〈925SV〉¥53,900・〈K18イエローヴェルメイユ〉¥58,300

主張はするがスタイリングを選ばない。毎日つけていても飽きることがない。シャルロット シェネのジュエリーは、コンテンポラリーであると同時にクラシックでもある。そして、“飾る”よりも“まとう”という言葉の方がしっくりくる、インティメイトな存在でもある。

つける人も含めてアートにしてしまう、小さな彫刻。どうしようもなく辛いときも、これ以上ないほど幸せな瞬間も、毎日を共にして自分の一部にしてしまいたい。


エドストローム オフィス(シャルロット シェネ)
https://www.charlottechesnais.com/ja/

連載「寝ても覚めてもきらめきたいの」:SPURエディターがパーソナルな感情とともに綴るジュエリーエッセイを堪能して。

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