2018.02.24

消えゆく美を守り続けるイタリア最古のジュエリー店「カルリ宝飾店」

イタリア、トスカーナの城壁に囲まれた小さな町で、代々ジュエリー・ショップを営む一家。17世紀から続く歴史ある店は往時の面影をそのまま残し、店そのものがヘリテージとなっている


カルリ宝飾店の12代目店主であるピエトロ・カルリ、89歳。  この店は、彼の一族が代々営んできたファミリー・ビジネスだ
カルリ宝飾店の12代目店主であるピエトロ・カルリ、89歳。この店は、彼の一族が代々営んできたファミリー・ビジネスだ

 イタリア、トスカーナ地方の小さな街、ルッカ。玉石の敷かれたその狭い通りに面したとある店のウィンドウは、何世紀ものあいだに作られた数々のジュエリーの輝きでまたたいている。

 1655年創業のカルリ宝飾店は、自ら任ずるところによれば、イタリアで最古のジュエリー・ショップのひとつだ。アーチを描くリブ・ヴォールト天井には格子柄とアヤメ型の紋章が手書きで描きこまれており、そこに吊るされたクリスタルのシャンデリアがアンティーク・ジュエリーや銀食器を照らしている。美術館の展示さながらだが、これらの貴重な品はすべて売り物である。

 カルリ宝飾店の12代目当主、ピエトロ・カルリは89歳。この店は、彼の一族が代々営んできたファミリー・ビジネスだ。仕事のある日は毎日、ピエトロは2階上にある居室から降りてきて、フィルンゴ通りに面して2つ並んだ“ポケットサイズ”の売り場を取り仕切っている。「生き延びるためには活動し続けないとね」。大理石のカウンターに陣取った銀髪の得意客に同意を求めつつ、彼はきっぱりと言う。

木彫が施された移動式の展示ケースは、フィレンツェの橋、  ポンテ・ヴェッキオに並ぶジュエラーの店構えに  インスパイアされたものと言い伝えられている。  道行く人々は、ここでジュエリーの歴史を垣間見ることができる
木彫が施された移動式の展示ケースは、フィレンツェの橋、ポンテ・ヴェッキオに並ぶジュエラーの店構えにインスパイアされたものと言い伝えられている。 道行く人々は、ここでジュエリーの歴史を垣間見ることができる

 今は杖をついて歩いているピエトロ・カルリだが、オールバックにしたヘアスタイルや豊かな口ひげ、キャメルブラウンのテーラード・ブレザー、そしてあらゆる機会をとらえては「ベッロ(美しい)」、「ベリッシモ(素晴らしい)」を連発するその口ぶりには、より素晴らしい人生への衰えざる情熱が見てとれる。

「もう存在しないだろうと人が思うようなもの、それがこの店にはあるんだ」とピエトロは言う。話しながら彼がそっとなでているのは、ひと組のブローチだ。大きなひとかたまりのローズカットダイアモンドで繊細なブーケを表したこのブローチは、18世紀前半にカルリの店で作られた。「こういう美しいものを見るために、私は仕事を続けているんだよ」

 尖塔のような形をしたディスプレイケースの、斜めにはめ込まれたガラスの奥から彼が取り出したのは、ものものしいひと揃いのジュエリーセット。先のブローチと同時代のもので、金細工職人一家が手がけた品だ。22金ゴールドを使って手作業で作られた、肩にまで触れそうなイヤリングとウエストあたりまである長いブローチ。誇張されたフォルムには渦巻き模様があしらわれ、60年代のワイルドチャイルド・スタイルにぴったりきそうだが、もとは聖母マリア像を飾るために作られたジュエリーだ。

 売り場には、この店の扱うおよそ3,000の金銀製品のごく一部しか展示されていない。残りは18世紀の金庫に保管されている。あるものはカルリ家の先祖や、この店のために代々特注品を作ってきたほかの金細工職人一家の手による作品であり、そのほかは、所有する家宝を現金に換えたいという住民たちから購入した品々だ。

18世紀前半にカルリ家の先祖によって作られた金のイヤリング
18世紀前半にカルリ家の先祖によって作られた金のイヤリング

 多様な時代と様式からなる製品を見ると、この店の扱うアイテムの来歴が多岐にわたっていることがわかる。18世紀のダイアモンドブローチは17,000 ユーロ(約230万円)。そのそばに展示された、花を模したブルボン朝時代のピンクゴールドのペンダントは1,200ユーロ(約16万2千円)。そしてアール・ヌーヴォー期のガーネットとゴールドのバングルは2,500ユーロ(約33万7千円)。通り沿いのウィンドウには、ジョージア様式、帝国様式、新古典主義様式、ヴィクトリア様式、アール・デコ様式のアイテムが混ざり合い、通を行く人々にジュエリーの歴史を伝えている。(その他のジュエリーをチェックする)

SOURCE:「Generations of Jewelry in a Small Italian City」By T JAPAN New York Times Style Magazine 

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