いつか必ず絶対登る!と決めている、南アルプス・甲斐駒ヶ岳(僕の名前が海なので、親近感を覚えます)が見える場所までやってきました。今回の山の先輩は、フランスの山岳賞・ピオレドール賞(登山界のアカデミー賞の異名が!)を受賞している登山家・花谷泰広さん。2017年からは、甲斐駒の7合目にある山小屋の運営まで始めたそうで、小屋にも行きたい! けれど、取材時は冬季でコンディションが厳しかったので麓からお届けします。
対談は花谷さん行きつけのレストラン、DILL eat,life.で。
(井之脇さん)ブルゾン¥42,000・ニット¥26,000(ともにATELIER BÉTON)・パンツ¥33,000(stein)/スタジオ ファブワーク 靴/スタイリスト私物 photography: Satoko Imazu
花谷泰広(以下、花) 井之脇くんはお酒、好きなの?
井之脇海(以下、井) はい、好きなんです。特に、ウイスキーが。
花 ここ北杜市は、酒天国なんだよ。ウイスキーなら白州の蒸留所があるし、ワイナリー5軒、日本酒の酒蔵4軒、ブルワリーも最近2軒できて、おいしい酒が揃っている(笑)。山からの湧き水がきれいなんだよね。
井 撮影のために小淵沢にしばらく通っていたんで、そのときに知っておきたかったです(笑)。甲斐駒ヶ岳って、どんな山なんですか?
花 甲斐駒は、『日本百名山』の著者、深田久弥が“もし日本の十名山を選べといわれても、この山は絶対落とさん!”と称賛したくらい、かっこいい山。山の団十郎とも呼ばれてる。
井 今日もここからよく見えますね!
花 本当にきれいな山だよね。歩いていても楽しいよ。麓のほうは鬱蒼として奥多摩みたいな里山感があって。だんだん登るに連れて山岳信仰の石碑があって、森林限界を越えたらとたんにアルピニズム的な登山もできる。そうそう、甲斐駒って1816年に行者が開山したっていわれているんだけど、山頂付近から縄文時代の土器が出土しているんだよね。縄文人が先に登っていたかもしれないっていう。
井 ええっ? 縄文人ですか? どうやってあんな高い山に登ったんだろう。
花 そうだよね。このあたりって黒曜石がたくさん採れて、縄文時代は日本で一番栄えていた地域の一つと言われてる。縄文遺跡もたくさん残っているし。あの頂には神がいる!と思って登ったんだろうね。
井 ますます登りたくなってきました……。縄文についても勉強してから行かないと。ところで、花谷さんが運営されている七丈小屋ってどんなところなんですか?
花 いやー、縦走の人もクライマーもトレランも雪山登山者も来てくれるけど、猛者しか来ない小屋だよ(笑)。甲斐駒って、初中級者の人は北沢峠というところから登ることが多いんだけど、七丈小屋は黒戸尾根の7合目にあって。この黒戸尾根が標高差2,200mくらい上がるし、かなり険しいから山が人を選ぶ感じ。
井 今日も小屋まで行けたら、と思ったんですが厳しいですね(笑)。登山家である花谷さんがどうして山小屋運営をしようと思ったんですか?
花 前の小屋のご主人と仲がよくて、「そろそろ引退しようと思うんだけど、花ちゃん誰かいい人いない?」って言われて。最初は「いないでしょー」って感じだったんだけど、また翌年も同じことを言われて。あれ、これ、俺がやったら面白いかもって思ったんですよ。小屋は市の所有だから、資料つくってプレゼンして選ばれて。実は、小屋がやりたかったわけではなく、登山文化をちゃんと継承していくようなことをしたくって。雪がとけたら、登山道整備ツアーをやろうかとも考えていて。
井 登山道整備ですか。去年、台風のあとの登山道のすさまじい被害のことを知ったので、ぜひ参加したいです。
花 少しでも山の整備にかかわると、自分ごとになるんだよね。
井 山のことをいろんな視点から知るって楽しいですね。