【X half】“ハーフサイズカメラ”の楽しみをデジタルで堪能 vol.210

ここ数年は頻繁に写真やカメラと関わる仕事をさせていただいているおかげで、日頃から本当にさまざまなカメラに触れる機会に恵まれています。最新のプロ機から、スマートフォン、あるいはフィルムカメラまで。それぞれに違う魅力がありますが、「これは、私が使ってきたどのカメラとも違う……!」と、いい意味で意表を突かれたのが、FUJIFILMから2025年6月下旬に発売予定の「X half」というカメラ。

ここ数年は頻繁に写真やカメラと関わる仕事をさせていただいているおかげで、日頃から本当にさまざまなカメラに触れる機会に恵まれています。最新のプロ機から、スマートフォン、あるいはフィルムカメラまで。それぞれに違う魅力がありますが、「これは、私が使ってきたどのカメラとも違う……!」と、いい意味で意表を突かれたのが、FUJIFILMから2025年6月下旬に発売予定の「X half」というカメラ。

FUJI FILM X half

今回、発売に先駆けてこのX halfをお借りすることができたので、1週間ほど、この1台とともに過ごしてみました。

デジタル時代の“ハーフサイズカメラ”

X halfはその名の通り、フィルム時代の“ハーフサイズカメラ”の体験をデジタルで再現した製品です。フィルムのハーフサイズカメラは、35mmフィルムの1コマを半分のサイズで使用し、倍の枚数を撮影できる仕組みでした。X halfはデジタルなので、もちろんフィルムは不要。ファインダーも背面の液晶も縦長になっていて、特徴的な縦長の写真が撮れます。約240gの軽量ボディは驚くほどコンパクトで、クラシックな“カメラらしい佇まい”も魅力的です。

左:X halfのフィルムシミュレーション「クラシッククローム」を使って撮影した写真 右:X halfのフィルター「EXPIRED FILM (GREEN)」を使って撮影した写真
左:フィルムシミュレーション「クラシッククローム」 右:フィルター「EXPIRED FILM (GREEN)」

FUJIFILMのカメラといえば、フィルムのクラシックな色合いや質感を再現できる「フィルムシミュレーション」が代名詞。X halfにも13種類が搭載されています。それに加えて、「ライトリーク」や「ハレーション」「期限切れフィルム」といった、より遊び心あるアートフィルター系のエフェクトも新しく追加されていて、撮影時のワクワクをさらに広げてくれます。

X halfのフィルムシミュレーション「ACROS」で撮影した写真
フィルムシミュレーション「ACROS」

このノスタルジックな写りを存分に楽しみたいと思い、普段はあまり使わないフィルターや、フィルム写真の独特な粒状感を得られる「グレイン・エフェクト」を多用しました。レンズはお馴染み「写ルンです」と同じ画角ということも相まって、撮っている時も撮れた写真を見ている時も、まさに写ルンですを使っている感覚で。懐かしくて、とにかく楽しい!

左:X halfのフィルムシミュレーション「REALA ACE」を使って撮影した写真 右:X halfのフィルムシミュレーション「クラシックネガ」を使って撮影した写真
左:フィルムシミュレーション「REALA ACE」、右:「クラシックネガ」

そして、このカメラで特に目を引くのが、カメラ上部右に配置された特徴的なレバーです。フィルムカメラに見られるフィルムを巻くレバーのようにも見えますが、このカメラはデジタルですし……一体何に使うのでしょう?

X halfの上部右に配置された特徴的なレバー

その答えが「2 in 1」機能。1枚目を撮影した後、この「フレーム切り替えレバー」を引くと、次に撮る写真と組み合わせて1つの作品として表示されます。2枚の縦長写真を並べることで、ストーリー性のある組写真が簡単に作れるのです。

X halfのフィルター「ダイナミックトーン」を使って撮影した写真
フィルター「ダイナミックトーン」

制約があるからこそ面白い、フィルムカメラモードの魅力

このカメラの面白さをさらに深めてくれるのが、独特な「フィルムカメラモード」です。このモードにすると、選択したフィルムの枚数を撮り終わって、専用アプリ内で“現像”するまで、どんな写真が撮れたのかプレビューすることができなくなります。背面液晶も懐かしいフィルム時代のカメラのような表示になり、撮影時に使えるのはファインダーだけ。

X halfの「フィルムカメラモード」の液晶画面

また、このモードでは1枚撮影するごとに「フレーム切り替えレバー」を操作することで、次のシャッターが切れるようになります。カシャッとシャッターを切った後、親指でレバーをサッと引くんです。

しかもファインダーはガラス越しに見えるだけのシンプルなものなので、レンズの位置とのズレが生じ、「パララックス(視差)」が生まれます。つまり、ファインダーを通して見ているものと実際に写る範囲が少しずれるのです。

これが興味深いところで、構図を考えて撮ろうとしても、思った通りに撮れているかは、すぐにはわかりません。“あえての制約”が多いからこそ、「どう撮るか」という計算した絵作りではなく、「何を撮るか」という純粋な衝動が際立つような……。

左:X halfのフィルムシミュレーション「ノスタルジックネガ」を使って撮影した写真 右:X halfのフィルムシミュレーション「クラシックネガ」を使って撮影した写真
左:フィルムシミュレーション「ノスタルジックネガ」、右:「クラシックネガ

また、写真を生業のひとつにしている私にとって、印象的だったのが、「RAWで撮れない」という潔い仕様。このカメラはRAW撮影に対応していません。RAWとは、撮影後に色味や明るさなどを細かく調整できる“生データ”のこと。多くのカメラでは撮影後の編集の自由度を高めるためにRAWが用意されていますが、X halfにはその選択肢がありません。

けれど、X halfは機能面で明確な「潔さ」があります。このカメラを手にすると、撮る側である自分も、そうしたこだわりや「思った通りの写真に仕上げねば」という気負いを、自然に手放せる面白さがあるなあ、と。

この「現像」体験を支えているのが、X halfの専用アプリです。フィルムカメラモードで撮影した写真は、このアプリ内で“現像”を行います。フィルム風の愛らしい表示で現像の進行状況が表示され、まさにフィルム写真の仕上がりを待つワクワク感を再現してくれます。

X halfの専用アプリでの“現像”処理

現像が完了すると、すぐにSNSなどでシェアできますし、アプリでは「2 in 1」の写真を後から作ったり、フレームを追加したりすることも可能。画像の転送もスムーズで、この辺りはデジタル時代に最適化されています。

X halfと専用アプリ

写真との距離を、少し変えてくれるカメラ

気負わずに手首にぶら下げて持ち歩き、日常の中でふと心が動いた瞬間に、サッと手に取りシャッターを切る——そんな一連の行為が、日常を味わうためのちょっとした心のゆとりをくれる気がします。また、そんなふうに撮っていると、いつもは撮らないような写真を撮っていたり、撮ってすぐ、その場で一緒にいる人に見せたくなったり——そんな自分の変化も新鮮でした。

X halfとスマホ、AirPods、コームなどの必需品

カメラが変わると、見える世界も変わる。X halfは、カメラや写真との関係をまた新たにしてくれる、そんな一台でした。「最近写真を撮っていないな……」という方にも、ぜひ一度手に取ってみてほしいです。

市川 渚プロフィール画像
市川 渚

ファッションデザインを学んだのち、海外ラグジュアリーブランドのPRなどを経て、2013年に独立。クリエイティブ・コンサルタントとして国内外の企業、ブランドのプロモーション企画/ディレクションに関わる。
また自身でのクリエイティブ制作にも注力しており、フォトグラファー、動画クリエイター、コラムニスト、モデルとしての一面も併せ持つ。強い服と少し先の未来を垣間見られるデジタルプロダクトが好き。

記事一覧を見る