【平野紗季子のスイーツタイムトラベル 第5回】1950年代の洋風まんじゅう

おやつをめぐる記憶にまつわる、エッセイ連載

お菓子は甘い総合芸術。味に意匠に文化に歴史。だからこそ、たったの一口で時空を巻き戻すことすらできるのだ。昔の味も未来の味も、自由自在の時間旅行記。

 ゴルフ、温泉、揺れるヤシの木、フラミンゴ。伊豆半島の海沿いの街・伊東には、平成も終わろうとする2018年にさえ、昭和なレジャーの香りがじゃらら〜んと漂っている。

 高度経済成長期の日本にはレジャーブームがやってきて、各地に巨大温泉施設などが続々誕生したらしい。伊東は全国でも代表的な存在で、名物土産といえば昭和12年創業、老舗の和菓子店・梅家のホール・イン。もちろん由来はホールインワン。ゴルフコースが有名な伊東ならではの、ゴルフボールを模したお土産なのだ。1950年代に商標登録されて以来、ゴルフ帰りのパパたちの、夏休みのファミリーの、伊東の素敵な思い出を引き受けてきたに違いないお菓子は、まず銀紙と薄紙のダブルパッケージからときめきが止まらない。そもそも銀紙×お菓子に弱いうえ(この組み合わせに弱いの私だけじゃないよね?)、オリジナルの薄紙には漢字と英語とカタカナが入り交じったタイポデザインが施されていて、それだけで「ごちそうさまでした!」と手を合わせたくなる。もちろん肝心のお菓子も魅力的で、ころんと現れるちょっぴり武骨な球体はホワイトチョコでコーティングされたおまんじゅう。和と洋の折衷菓子だなんてこれまた追加点だし、当時は珍しくてイケてる味だったというホワイトチョコから黄身餡(温泉でゆでた卵で作られている!)がほろっと崩れて甘すぎるくらいの風味が口いっぱいに広がれば、デラックスで夢見がちだった"あの頃”へ、ふわあ〜っと引き込まれてしまうのだった。もう現実には帰りたくないよ。

梅家 伊東店
●静岡県伊東市湯川572の87
☎0557-37-8866 
営業時間8時~18時 無休
「登録銘菓 ホール・イン」10個入り¥1,000(税込み)~。
全国から通信販売でも購入可能

PROFILE
ひらの さきこ●1991年生まれのフードエッセイスト。雑誌連載やお菓子の監修なども手がける。著書に『生まれた時からアルデンテ』(平凡社)。
instagram:@sakikohirano

SOURCE:SPUR 2018年11月号「スイーツタイムトラベル」
photography:Masaya Takagi styling:Keiko Hudson

FEATURE