【BOYY(ボーイ)】のデザイナーが暮らす、アーティな家を訪ねて

今最も注目されるブランドのひとつ、BOYY。デザイナー、タイ出身のワナシリ・コングマン(右)と、カナダ出身のジェシー・ドーシー(左)が暮らすミラノの自宅に潜入! 二人の創造力をかき立てる、アーティなインテリアの魅力に迫った

BOYYのデザイナー タイ出身のワナシリ・コングマン カナダ出身のジェシー・ドーシー

ミラノの高級ブティック街から一歩奥まった場所に位置する邸宅。都心部にいるとは思えないほど静寂に包まれた環境だ。エントランスからオープンスペースのリビングに入ると、目の前に大きな庭が広がる。二人が暮らす部屋は、自然を身近に感じることができ、喜びあふれる、癒やしの空間だった。

1970年代のオリジナル建築を"BOYY風"にリノベーション

彼らが住む家は1970年代に設計されたもの。この時代を愛する二人は、オリジナルを尊重しながら、研ぎ澄まされたセンスでアップデート!

サプライズと発見を生む、愛する時代のアームチェア

チェア「ミース」

三角形のフォルムがスタイリッシュなチェア「ミース」。1970年代にイタリアで盛んだった、ラディカル建築運動グループ「アルキズーム」がデザインした名品のひとつだ。ジェシーが「これ、面白いんだよ」といたずらっ子のような表情で腰かけると、ゴム素材の座面が下に伸びて、人体の形にフィット! 「実験的でチャレンジングなこの時代が大好きなんだ」と彼は語る。チェアの脇に置いたベージュのバッグはブランドを象徴するシグネチャー「WONTON 20」のセサミ。

ぬくもりを感じる色にカスタマイズ

ムレナ・チェア

ダイニングチェアは、「マルタ・サラ・エディションズ」の「ムレナ・チェア」。イタリアのデザイン家具メーカーの家に生まれたマルタ・サラが、幼少期から培ってきた家具への見識と愛を込めて創設したブランドのものだ。彼らは、アイボリーのふかふかした肌ざわりのよいブークレ素材でカスタマイズ。クリーンで洗練された印象ながら、温かなムードを空間に添える。家の壁にも同色のふんわりとしたベルベット生地を採用。アイボリーに映えるエメラルドグリーンがまぶしいエコファーのバッグは、新作「Square Scrunchy Soft」。

唯一無二の感性が宿る、アートピースと暮らす

ヴィットリアーノ・ヴィガノがデザインしたテーブル

大きなダイニングテーブルは、家の設計者ヴィットリアーノ・ヴィガノが、この家のためにデザインしたオリジナル。50年間この家に鎮座してきた。かつてセメント製だった暖炉の上部を、円形の石をはめ込んだ大理石にアレンジ。部屋の隅に佇む動物の彫刻は、イヌイットのアーティスト、ヌナ・パーの作品。アート作品選びの指標は「われわれの心に響くようなアーティストが手がけていること。自分が感じることはできても、表現できないような感性や美学を感じるものに心惹かれます」とジェシー。

リュクスなムードと遊び心が共存するプロダクトデザインで一躍注目ブランドとなったBOYY。デザイナーのワナシリはバッグづくりについて、「形がクリーンだとしても、静かに黙っているのではなく、何かを熱烈に訴える"モノ"でなくてはならない」と語る。彼女が言うように、彼らの住まいには何かを語りかけてくるような、こだわりと熱量が詰まったピースが多くあふれている。

「バッグもインテリアも美しい"モノ"だ。それに実用性が加わって完成する」と語るジェシー。また、「現実の生活でどう使うかを考えてデザインすることも大切」とワナシリ。そして、何よりも彼らにとって重要なのは、「創造へのプロセス」だ。「自分がどうしたいのかを知り、そこに向かって旅をする。バッグやブティック、家のデザインも、自分のビジョンが現実になったとき、やっと心から満足できる。進化をするため、常に僕たちは挑戦を続けているんです」と二人は話す。

ポジティブで現代的。喜びに満ちた空間に

BOYYらしい絶妙な色づかいで、コンテンポラリーなスペースに

BOYYのデザイナーの家

設計当時の建築が持つムードを生かしながら、邸内をリノベーション。彼らの絶妙な配色センスがインテリアにも反映されている。ソファはラベンダー、カーペットと壁はアイボリー、暖房器具のラジエーターは設計者のシグネチャーカラー「バーント・オレンジ」に染め上げ、リビングは見違えるように現代的になった。1階にはワーキングスペースと、広々としたリビングルーム、キッチン。2階は、寝室、子ども部屋などのあるプライベートなフロア。リビングからは野趣あふれる庭が望める。

ワナシリとジェシー、二人が暮らすのは、1970年代にイタリアの有名建築家ヴィットリアーノ・ヴィガノが設計した2階建ての家。ミラノ中心部の高級ブティック街にあるとは思えないほど広い庭。そして、庭とつながっているように見える、陽光が燦々と降り注ぐ空間だ。

「改装前、この家に初めて足を踏み入れたときの印象はダーク」とジェシー。設計された時代特有の色づかい、ブラウンを基調としたシックなカラートーンが印象的な家だった。そこで彼らはオリジナルの建築を尊重しながら、素材にこだわったディテールや、繊細なカラーパレットでモダンに進化させた。ミラネーゼのインテリアの定番〝ミニマリズム〟とは一線を画す、BOYYらしい、〝クールなのに冷たくない、喜びあふれるエモーショナルな空間〟に仕上がった。

アイボリー一色でシンプルに見えるけれど、触れてみると柔らかいベルベット生地の壁。インタビュー中、ジェシーが「興味深い」という言葉で語ることが多かった、「チャレンジ精神あふれる1970年代」の個性的なデザイン家具。BOYYの店舗デザインやコンセプトワークのほか、多方面にわたってコラボレートし、友人でもあるデンマークのアーティストFOSの作品群。それらを教科書的にずらりと並べるのではなく、彼ら独自のセンスで組み合わせ、配置した唯一無二の場所だ。

今彼らは、FOSと相談しながら、キッチンの改修を検討中。「設計当時はキッチンの重要性が低かったため、家の端に隠れるように配置されているんです。ここをほかのスペースとつながる位置に動かし、拡張したい」と語るワナシリ。「家族や友人たちは食べることが大好き。料理好きな私が調理する横で、息子が宿題をしていたり、来客とおしゃべりしたり……。ソーシャルスペースになるような場所にしたいの」。今後のインテリア計画について楽しげに話す、息がぴったりの二人。

そして現在、タイ・バンコクにも自宅を建設中。設計はミラノの建築家アンドレア・トニョン。ミラノの家の雰囲気を踏襲したスタイルになるという。新たな場所で表現する二人の建築、アートへのこだわりの旅路はまだまだ続く。

絶妙なチームワークでインテリアを決定

部屋のディレクションにおいても、絶妙なチームワークを発揮する二人。細部まで各々のこだわりが反映されている

機能性と芸術性を兼ね備える、こだわりのワークスペース

BOYYのデザイナーの家

「この家の設計者、ヴィットリアーノ・ヴィガノが、すべての隠し棚をデザインしたときから、この場所のコンセプトは完成していたんだ」とジェシー。すっきりと見えるワークスペースは、後ろの棚のおかげと言ってもいい。デスクは、ジョヴァンニ・オフレディが家具メーカー「サポリティ」のために手がけたもの。「コンクリート、ガラス、木がミックスされた素材感が好き」とワナシリ。フロアランプはFOSが彼らのためにデザインした1点もの。

ユニークなアイデアあふれるエントランス

ガストーネ・リナルディが手がけた名作

エントランスホールの床には、ライトグリーンの大理石が飛び石のごとくはめ込まれており、まるでリビングへと誘うよう。ジェシーが床を石で覆うプランを考え、ワナシリが飛び石のモチーフを提案した。ルチアーノ・ベルトンチーニがデザインした鏡は、コート掛けにもなる優れもの。赤いソファは、この家には珍しい1950年代のもの。イタリアの家具デザイナー、ガストーネ・リナルディが手がけた名作だ。

やわらかな光と自然に彩られる庭

ストゥディオ6p.m.

リビングの大きな窓を開けると広がる庭は、野性的な雰囲気を残した静謐な佇まい。庭は1960年代に、イタリアの著名な造園家ピエトロ・ポルチナイが造作し、今もほぼ原形を保持。プールの中に配置した彫刻は、ロッテルダムの若手アーティスト、オードリー・ラージの作。大きなガラス製の花瓶はミラノの「ストゥディオ6p.m.」の作品。新進気鋭の作家の才能にもいち早く注目する、さすがの感性と審美眼!

部屋のインテリアは、ジェシーが大枠を考えて、ワナシリが新鮮なアイデアをアドバイスするという、絶妙な連携プレーを発揮。インタビュー中も、家具に関してはジェシーが中心に答えたものの、その合間にワナシリが「ソファのラベンダー色やエントランスの飛び石のモチーフは私のアイデアでしょ」などと、合いの手を入れながら、和気あいあいとしたムードで語り合う。

インテリアから垣間見える、クリエイターたちとの交流

新進気鋭のアーティストたちと交流が深いBOYYの二人。部屋を彩るインテリアやアートにも、彼らとの友情が感じられる

友情の結晶、バッグのガラス彫刻

BOYYのバッグをかたどったベネチアのムラノグラスの彫刻

リビングルームで圧倒的な存在感を放つのは、BOYYのバッグをかたどったベネチアのムラノグラスの彫刻。ベネチアを拠点とするジャマイカ出身のガラス彫刻アーティスト、ヒュー・フィンドルターの作品だ。彼と親交を深めるうちにコラボレーションの話が持ち上がり、限定6ピースを制作。カリブ海をルーツに持つ作家らしい、鮮やかな色が魅力だ。

お気に入りの"小さな思索コーナー"

BOYYの家

ワナシリがひとり物思いにふける空間、中庭を望むキッチン手前に位置する小さなスペース。涼やかなアクアグリーンの大理石のテーブル、ビロードとステンレススチールのベンチとチェアはジェシーのデザイン。グラスと水差しもフィンドルターが手がけたもの。「有機的で手仕事感のあるベネチアのムラノグラスに、常に憧れてきました」と二人。

公私ともにかけがえのない友、FOSとの出会いのきっかけ

FOSの作品「ストリート・ランプ」

ソファの奥に立つ、個性的な形の照明器具は二人が恋焦がれて、手に入れたFOSの作品「ストリート・ランプ」。ソファは、家の設計者がこの家のためにデザインしたオリジナル。ダークブラウンだったソファを、ワナシリのアイデアでラベンダー色に張り替えることで、春の空気をまとうように、部屋のムードも明るく、すがすがしい印象になった。

「フィービー・ファイロ時代のセリーヌのブティックで、照明器具に僕たちはひと目惚れしたんだ」とジェシー。「とにかく全部好みでした。照明器具から鉢カバーに至るまで、店内のインテリアすべてに感動して、手に入れたくなった」とワナシリ。それを購入すべくリサーチを続けた結果、デンマーク・コペンハーゲンのFOSというアーティストの作品と判明。これをきっかけに彼との交友が始まり、今ではBOYYのコンセプトや、店舗デザイン、マガジンからTシャツに至るまでコラボレートし、大切な友人にもなった。ワナシリは、「この作品を見るたび、これがFOSとのすべての始まりだったのだなと、感慨深い気持ちになるの」と話す。BOYY の二人にとって、思い出と未来への期待が詰まった、本当の"スペシャルピース"だ。

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