【“大人の学び”体験談】留学や学校で学びを深める価値とは?

大人には、資格取得やキャリアアップとは別の、知的好奇心を満たし、心を豊かにする学びもある。学校に通ったり、留学に挑戦したりする人、ユニークな学びの場を提供する人に聞く、知識がもたらす"豊かさ"とは?

PART 1 学びを深める人々

林 央子さん(編集者、研究者、キュレーター)

林 央子さん(編集者、研究者、キュレーター)

共感できて支え合える人に、学びの場へと導かれていく

アートとファッションの境界、人が自発的に動くことへの興味

2019年夏に事情が重なり、英国に行くことになった林央子さん。
「長く関わってきたファッションやアートについて学校で何を学ぶかを決めるのは結構難しく、調べるうちにセントラル・セント・マーチンズに展覧会を研究するエキシビションスタディーズコースがあることを発見しました」

2011年に『拡張するファッション』を著した3年後に同名の展覧会を行い、アートプロジェクトとしての参加型ワークショップを展開。自分の発信活動と社会との出合いの場が展覧会だと気づき、展覧会研究という珍しい学科に入ろうと手続きを進めた。

「イギリスの学位は特殊で、私が入ったのはエムレズ(MRes)という自分のやりたい研究がはっきりしている学生が、専門分野を研究し卒論にするという博士課程に近いもの。就職や資格のためではない、まさに大人の学びの対象のような位置づけです」

しかし学校に疑問を抱き、しかも残り1年は帰国後オンラインでと考えていたのに、政府の方針が変わって対面でないと認められないことに。
「現地ではロンドン大学ゴールドスミス校やロンドンカレッジオブファッションなどで教えているファッションスカラーと呼ぶべき人たちにたくさん出会いました。彼らはファッションという概念を新しく広げ、もっと批評的に考えようというムーブメントを起こしかけていた。私の活動を知っている人が多く、彼らと話していると自由で楽しいし、よく聞いてみると私が受けていた指導は随分とクラシックだとわかったんです。それでロンドンカレッジオブファッションのPh.D.(博士号)なら向いているとアドバイスされて、最終的に今秋から移りました。そこはファッションを批評的な視点で考える方針を強化しようとしていて、オンラインでもOKだったので」

新しい学校ではアートとファッションの境界線で考察してきたアーティストが指導教官になった。林さんもその境界線は常に意識しているし、さらに人が自発的に動くことに興味がある。それを哲学、フェミニズム、社会構成主義など、どの理論を使って研究するのかを、これから決めていく。

「テキストとプロジェクトを提出するPh.D.と、批評テキストだけのものがありますが、私の場合は前者の、人を巻き込むプロジェクトを作ったほうがいいかなという気がしています。現在、浦安市と東京藝術大学が行う浦安藝大というアートプロジェクトにキュレーターとして関わり、学びの場を作ることになりそうなんです。ここでの実践が自分の研究と結びつけられそうです」

自らも学びを広げ、さまざまな人が参加できる学習の場を作ろうとする林さん。ロンドンの学校で刺激的だったのは若い学生からの、社会人経験へのリスペクトだったという。

「哲学のテキストを熟読しているような、知識豊富な若い学生たちがたくさんいたのですが、私は社会人としての経験を積んできたこともあり、授業中の議論の中で質問すると、とても盛り上がることがありました。終わってからも『ナカコのあの話、もっと聞きたい』と言ってくる人がいて、社会人として経験したことが学びになっていたんだなと気づきました。そこにはみんなが共有している何かがあって、年齢もあまり関係がない。そういう意味で、横のつながりが豊かになったと思います。飛び込んでみてわかったのは、どれだけ共感できて支え合える人と出会えるかということ。そういう人たちがより多くいる場所に、自然と学びの場も移っていくのだと思います」

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コロナ禍でのオンライン授業

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最初に学んだロンドンのセントラル・セント・マーチンズのコース、エキシビションスタディーズの授業で、校外学習の際の一コマ。住民参加型アートの実践で知られるギャラリー、The Showroomを訪問

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自宅から2分の公園。コロナ禍で公園しか行き場がない時期、広大な風景と緑に癒やされていた

 

NAKAKO HAYASHI
ICU卒業後、資生堂『花椿』編集室に所属。後にフリーランスで雑誌などに執筆、2002年『here and there』を創刊。1996年『Baby Generation』展、2014年『拡張するファッション』展を創出。近著は「わたしと『花椿』」(DU BOOKS)。

ひらりささん(文筆家)

ひらりささん(文筆家)

自分の人生をコントロールできる手ごたえを得たイギリス留学体験

ジェンダーやフェミニズム論の歴史の深さに気づいた

ひらりささんは2021年夏に会社を辞め、10月からロンドン大学ゴールドスミス校の修士課程に入学し1年後に修了、帰国した。退職してまで留学したのにはいくつもの理由があるが、とにかくいったん立ち止まって休みたかったというのが素直な気持ちだという。

「30歳を過ぎて、本を出版したり仕事も落ち着いてきたりしましたが、何かが足りていない感じがして、立ち止まって考える時間が欲しかった。そのときに、昔海外に住みたかったことを思い出して。日本にいると仕事をしてしまうし、昔の夢をかなえに行ったほうがリセットできると考えたんです」

まずは2019年に有給休暇を使ってロンドンに短期留学。充実した日々を送った。それで本格的に留学しようと会社に休職を申し出たところ、制度がなく不可能であることが発覚。
「でもコロナ禍という状況や閉塞感から、反対にやりたいことはやったほうがいいという気持ちになって、退職して行くことにしました。ちょうどロックダウンが明けつつあるタイミングだったのも運がよかったです」

英文校正など留学エージェントのサポートを受け、書類を揃えた。仕事で知り合った日本の大学教授や留学経験者にも相談して情報収集。ロンドンに住みたい気持ちが先にあったので、大学と専攻はロンドンにあって、ジェンダーやフェミニズム論を学べるところという希望からロンドン大学ゴールドスミス校を志望し、無事に合格。

「入学してみたら、講義はアカデミックなのですが、感じたことや体験を重視してくれるコースだったんです。フェミニズムをさまざまな視野で見るというのが授業のベース。身体、境界線、アーカイブなど抽象的なキーワードを文献とともに理解していく講義でも、日常の体験から意見を言えて面白かった。たとえば〝ハピネス〟についての授業では、60年代のアメリカの広告で、専業主婦がクリスマスプレゼントで掃除機をもらって喜んでいるポスターを見せられ、『家事が楽になる家電をもらって女性はうれしがっているけれど、そもそもそれは社会的に押しつけられた幸せだ』と説明される。幸せはどういうところから作られているものか、ある意味ではフェミニストの活動は人を不幸にすることではないか、という考察もあげられ、それと実際の歴史的な表象を重ねながら自分の意見を言う。こういう講義を聴くと、日本の大学院とはちょっとイメージが異なるのでは、と思いました」

イギリスで学んでよかったのは、ジェンダー問題研究の歴史が深いこと。レイシズムと性差別は同じ構造で強化されてきたという見解も、留学中だからこそ実感できた気がしている。

コースは2022年9月に修了。論文は最終的にBLとシスターフッドについての内容になった。
「日本にいても書けることでしたが、日本人が英語で書いたファンダムについての論文は意外と少ないんです。担当の先生はアジアカルチャーが好きな人。韓国ドラマにおける男らしさを研究するためドラマを約1000本見て博士論文を書いたほどの先生でした」

留学という学びがもたらしたものは数多いが、大きくは2点あるという。

「東京で生まれ育ち、ずっと東京に住んでいたので、居場所を自ら選んだのが初めて。それで、自分の人生をコントロールできるという自信がつきました。やってみると意外と何とかなる、そういう気持ちが持てると人生の選択肢が増えます。また、立場や世代、環境の違う人と知り合えて、価値観が広がったのも得たものの一つです」

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コースのワークショップで"腐女子"について発表した際の風景。各科目の課題に合わせて「マッチングアプリと人種差別」「ウクライナ侵攻とヨーロッパ中心主義」など幅広いテーマでのレポートも執筆した

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ロンドンではフェミニストアーティストの回顧展やウクライナ侵攻のチャリティーバレエなど、さまざまな催しに足を運んだ

 

HIRARISA
東京都出身。オタク文化、美意識、フェミニズムなど、女性と現代文化をめぐる文章を執筆。ロンドン大学ゴールドスミス校にてGender,Media&Cultureの修士号を取得。著書に『それでも女をやっていく』(ワニブックス)など。

井田寛子さん(気象予報士、キャスター)

井田寛子さん(気象予報士、キャスター)

学ぶことは自信につながり、それを伝えれば再び自分に返ってくる

好きな科学を社会や生活に役立てられるような橋渡し役に

気象予報士としてNHK「ニュースウオッチ9」に出演していた井田寛子さん。転機は2014年に訪れた。NYに出張し、現地で行われる気候変動問題について考える国連気候サミットに参加できることになったのだ。

「気象予報士は明日や明後日という短いスパンで気象予報をする役割で、気候変動は何十年も先のことを考える、全然スケールの違うもの。ところが現地で参加したワークショップでは、気候変動問題を研究してきた科学の専門家たちから、気象予報士には気候変動をもっとコミュニケーターとして伝える立場を担ってほしいと希望されました。気象予報士は気候変動について世に伝えられるほどの知識は持ち合わせていない。でも災害が起こるたびに伝えて終わるのを繰り返すのではなくて、根本にあるものの科学的根拠を示し、それに向かって世の中が動くようにしなくては、と強く思いました。気候変動というグローバルな視点を専門家として理解し、伝えたい。私がやっていきたいのはこれだと思ったんです」

そのために博士号を取ろうと大学院進学を決めた。しかし人生の歩みと容易に折り合いがつかず、局を移ったり、結婚出産したり、夫の転勤で沖縄へ移住したりとタイミングがなかなかつかめない。ようやく2021年秋に東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻修士課程に合格、入学した。

「長年温暖化シミュレーションをやっている、私が最も尊敬する気候科学者が、初めて東大大学院で研究室を持つとわかったのが、試験の2カ月前。もうここしかないと必死で準備をして受けました。東大は家と職場に近く、両立できそうだったのも選んだ理由です」

修士課程は2年。授業や先生からのレクチャーは、ラジオ放送などの仕事の合間を縫って受けた。仕事、子育て、学業を成り立たせるのは大変だったが、コロナ禍でもありオンライン授業が受けやすく、今年無事に修了。

「東大では気候変動のコミュニケーションを研究しました。というのも、科学的なものを社会に伝えるには、ある程度噛み砕くことが必要。そのコミュニケーター的役割が自分には向いていると思ったからです。研究はテレビ放送がどう気候変動問題を伝えてきたのかを、過去15年間、約1万8000件分の全局のデータを取り寄せて分析しました。最終的には局の記者やディレクター、アナウンサーに取材し、課題や将来の展望をまとめた論文にします」

この先は筑波大学大学院博士課程で3年間研究する。しかしこれまでとは違う方向に興味が向いてきた。
「数カ月や2年半などの季節予報と呼ばれる、気候変動よりも範囲の狭いものを取り扱い、社会実装とつなげる研究をしようと考えています。たとえば、この冬の降雪量がある程度わかれば、雪害対策ができて、それが農業や観光に役立つ。そういったデータを生活に活かすことが意外とできていません。積み上げたデータも10年、20年先の気候変動につながっているのに、そこがぽっかり空いていることに気づいたんです。その研究は母校である筑波大学でできることを知り、来年春からはそちらに移ります」

専門家として科学的なデータと社会や経済のデータを結びつけ、企業や自治体で活かしてもらう橋渡し役をやりたい、という井田さん。大人になってからの学習は、どんなものを自分に与えてくれたのだろうか。
「自信でしょうか。学ぶことで自信につながり、それを人に伝えると自分に返ってくる。すると自分の心が豊かになって、成長できるのかなと思います」

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授業で使用した主なテキスト

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東京大学駒場キャンパスの正門。「学生には大学からそのまま上がってきた人もいましたが、私のように子育て中の人、仕事をしている人、さまざまな立場の人がいて刺激を受けました」

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大好きだったキャンパスの緑の下で、学位記とともに。「学んだことを早く社会に還元していきたい」

 

HIROKO IDA
埼玉県春日部市生まれ。筑波大学第一学群自然学類化学科(宇宙科学研究室)卒業後、製薬会社を経てNHK、TBSなどメディアを中心に活動。2023年東京大学大学院修士課程卒業。現在、NPO法人気象キャスターネットワーク理事長・WWFジャパン顧問。

竹淵智子さん(スタイリスト)

竹淵智子さん(スタイリスト)

学校は、ここではない場所を探すための一つのステップ

人間に興味があって、知らないことを知るのが好き

竹淵智子さんはスタイリストの傍ら放送大学の教養学部教養学科心理と教育コースで学んでいる。一度短大を卒業しているので、3年次編入し、現在は4年生の後期に入っているところだ。
「教育心理を学びたいと思ったきっかけはいろいろあるのですが、一つには5年前の年末にある雑誌で、着物を着た子どもの後ろ姿の写真を見たことでした。それは、児童養護施設の子どもの七五三のお祝いをお手伝いしたというデザイナーさんの連載記事。その写真がとても印象に残ったのと、自分でもこういうことができるのではというアイデアが瞬時に浮かんだんです」

数年前からスタイリストの仕事やファッション業界の流れが、自分のやりたいこととは別の方向に向いている気がしていた。子どもたちのこういったサポートをもっとしたい、という気持ちが湧き上がったという。年齢を重ねキャリアを積んできて、自分の好きなことをやっているだけではなく、社会貢献をしたくなった。

「偶然その活動の代表者が知り合いのアタッシェドプレスだったので、すぐに連絡を取ってその活動に参加させてもらいました。そこからもっと本格的に社会活動に関わりたくなってきたんです。けれど、何をどうしていいのかわからず、人をサポートするにはカウンセリングなのかもと思いついて、とりあえず勉強しようと2021年の末に学校に行くことに決めました。調べた結果、受験もなくオンラインで学べて、優れた教授が揃っている放送大学に2022年春に編入。2年で卒業しようと計画しました」

さらに調べる中で、団体よりも対個人でサポートしたい気持ちからスクールカウンセラーという仕事を知った。スクールカウンセラーとは学校で子どもや親、先生が抱える課題を聞いて解決のための助言や指導を行う役割。まずは現場を知らなければと小学校の学習支援員の仕事を始めて、そこで業務の内容や、どうすればなれるのかを探ってみた。しかしここで思わぬ問題が。

「スクールカウンセラーになる勉強の区切りとしては、公認資格の臨床心理士か、国家資格の公認心理師の資格を取ること。それには大学院で学んだり実習したりして受験資格を得る必要があることがわかり、ハードルが高い。でも心理と子どもに関わる仕事はしたい。それがカウンセリングなのかもわかりませんが、とにかく子どもの支援をしたい気持ちに変わりはありません」

もっとしっかり調べてから学校を選べばよかったかもしれないという竹淵さん。しかし学びたいという気持ちに従って進んだ結果であり、学び続けていればそれが無駄になることはない。
「私はたぶん人間に興味があって何でも知りたがるタイプ。知らないことを知る、学ぶのが好きなんだと思います。今までも多くのスクールに通いましたし、学校はここではない場所を探すための一つのステップのようなもの。学んで何かがわかってきてそこから道が開ける。一人で悶々と考えているよりは、定期的に通ったり授業があったりすると、何かしらの情報は入るし、そのことと向き合わざるを得ないから」

たとえばスタイリストの仕事を活かして、ファッションと福祉がつながる方法や、その一環で心のサポートもできればと、学びながら考えている。一方で心理を軸とした仕事にも就いてみたい気持ちがあり、現在模索中だ。

「卒業してもここで終わりではなくもっと違う道が開ける可能性もある。そうやって学びは、新たな視点を獲得し、世界は広いということを実感できるものなんだなと改めて思います」

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2020年のSPUR2月号「2020年は、スタイルの冒険へ」特集での竹淵さんのテーマ。三鷹の朝陽学園の子どもたちと一緒に作った背景との撮影は思い出深いものに。今の学びにもつながっている

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お気に入りの教科書やまとめのノート、愛用しているロエベのしおり。「放送大学は、授業料さえ払えば専攻以外の授業も受けられます。英語や最近は睡眠学にも関心があります」

 

SATOKO TAKEBUCHI
神奈川県出身。複数の企業に勤めた後、服好きが高じスタイリストアシスタントに。独立後は雑誌、カタログなど幅広く活動。現在は放送大学に学士入学し、心理・教育を専攻。同時に、学習支援員の仕事や、母子生活支援施設でボランティア活動を行なっている。

PART 2 学びをつくる人

「ことばの学校」
目的があり結果を出す形ではない、言葉にまつわる実験室のようなスクール

佐々木 敦さん(思考家、批評家、文筆家)

佐々木 敦さん(思考家、批評家、文筆家)

ATSUSHI SASAKI
音楽レーベルHEADZ主宰。文学ムック『ことばと』(書肆侃侃房)編集長。早稲田大学非常勤講師。立教大学兼任講師。12月に『ニッポンの思想 増補新版』(ちくま文庫)が発売。著書多数。

 

言葉をめぐるよもやま話を聞くトークイベント的スタイル

「ことばの学校」は、映画人を育成する映画美学校の言語表現コースとして2021年夏に開講した。この講座を立ち上げ現在は主任講師も務める佐々木敦さんは、これまでカルチャー系の媒体などでの執筆や、大学での講義など多岐にわたる活動を行い、かつては批評についての学校も主宰していた。

「自分の中でいったん区切りをつけていた学校を、コロナ禍でまたやってみたくなりました。これまで幅広いジャンルで仕事をしてきましたが、すべて言葉に関係していると気づいて、『ことばの学校』というのはどうだろうと思いついた。それで旧知の映画美学校に話を持ち込みOKが出たんです」

コースは基礎科と演習科の二つ。ほかのスクールと決定的に違うのは、「今」を感じさせる魅力的な講師陣だ。3期目の今期、基礎科は千葉雅也(哲学者)、井戸川射子(詩人・作家)、鴻巣友季子(翻訳家)、濱口竜介(映画監督)など、演習科は九龍ジョー(ライター・編集者)などが講義を行なっている。

「言葉の捉え方は個々人のものだから、いろいろな講師がいるほうがいい。すると講師選びがカギになってきます。僕はこれまで多種多様な仕事をしてきたので知り合いが多く、その中から今どういう人に講義をしてもらうと面白いかを考えてブッキングしています。今3期目で、基礎科の講師は16人。中には会ったことがないのにオファーした人もいます。3期連続でお願いしている講師は一人だけで、あとは全員入れ替え。自分が最初の生徒のような気持ちだから、今何を考えているかを、僕が知りたい人を選んでいます」

基礎科は全20回の講義のうち4回を佐々木さんが、16回を各講師が週替わりで担当。1回の講義は3時間で、前半は講師が話し、後半は質疑応答という形を取っている。
「言葉を使う多ジャンルの仕事をしている人たちが、言葉に対してどういう意識を持っているのか、実際に言葉をどう書いているのかをしゃべる。それを根掘り葉掘り聞くのが20週続く千本ノックみたいな形です。言葉をめぐるよもやま話を聞くトークイベント的な感じ。特殊なタイプのスクールです」

講師が毎週替わるので、前週の講義と話が矛盾する場合も出てくる。
「同じような質問に、あの人は時間をかけろと言ったのにこの人は早くやれと言う、ということが起こる。でもその多様性が面白い。いろんな人の話を聞いて、合うやり方を見つけてほしい」

修了した者同士で仲よくなり、リアルにオフ会をしたり、同人誌を作って文学フリマに出店したりと、その後も活動が続いている人たちもいる。

「彼らは知らないうちに仲よくなっていた。僕はこの条件づけを与えなければ起きなかったことが起きるかもしれないという実験みたいな場を作りたい。だからこの学校は目的があり、結果を出すという形ではないんです」

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演習科は通学とオンラインの併用で行い、リアルに通えない人でも受講可能。創作クラスと批評クラスは希望に応じて選べる。スペシャルゲストによる特別講義もある

 

映画美学校言語表現コース「ことばの学校」 [基礎科]全16名の講師による週替わりの講義(16回)と佐々木敦による講義(4回)で全20回の講義。半年制で講義は毎週1回オンラインで実施。正規受講生と聴講生から選択でき、どちらも講義アーカイブが視聴可能。[演習科]創作クラスと批評クラスの2クラス制。ともに専任講師4名の課題講評を受けられる実践編。※演習科は現在申し込み受け付け中。
http://eigabigakkou.com/course/language/outline/

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「School for Life Compath」
photo: Daishi Hatada

「School for Life Compath」
あえて寄り道して考えたい。北海道で実践する「人生の学校」

北欧デンマーク発祥の学び舎、フォルケホイスコーレをモデルに、北海道東川町を拠点にスタート。雄大な自然とともにアート、食、歴史など幅広い分野での実践と対話から、自分と社会を探究する。忙しい人こそ立ち止まり思索する時間を。

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photo: Eri Shimizu

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