アンティークと現代がミックスされたセンスの良いブティック
扉を開け、1歩足を踏み入れると、フレグランスショップかと見間違いそうな、驚くほどシックな店内。細部まで本質を求めたビスキュイ、そのこだわりが伝わってくるような、ただならぬ雰囲気が漂う。アンティークが大好きなシェフ アラン・デュカスが自ら集めた照明器具や家具などを配置してつくりあげた。特別な1枚のビスキュイを求めに訪れたくなるような心地よい場所になっている。
取材中、まさにそのような場面に居合わせることができた。ビスキュイの説明を受けていると、ちょうど棚の色のようなくすんだ若草色のコートにパープルのスカート姿のおしゃれなマダムが一人で来店。店員さんとのおしゃべりに笑顔が溢れ、楽しそうなシーンに釘付けに。何を話しているのか聞いてみると、「隣のショコラかビスキュイか悩んで、ビスキュイに来ました。今日はどのビスキュイがおすすめですか」と嬉しそう。自分のためのとびきりおいしい1枚を手にするために足を運んでいるのだ。
ビスキュイ、されど「ガストロノミックな、特別なビスキュイ」
ご存じのとおり、世界で最もミシュランの星を持つシェフ、アラン・デュカス。素材へのこだわりでは有名だが、それはもちろんビスキュイでも同じ。ノルマンディ産のバターや、小麦など最高の素材でオリジナルレシピを作り上げている。ブティックの半分をショップ、半分を工房にしているので、通りからも、ショップからも製造している様子を覗くことができる。
アラン・デュカス氏から‘マダムビスキュイ’と呼ばれているのが、カナダ人のシェフパティシエのフローラ・デイビィス。これまで30種類以上のビスキュイを作り、様々な味やテクニック、テクスチャーを生み出した。
6角形はアラン・デュカスの専門工房を表す特徴ある形だが、一見普通のビスキュイに見えるかもしれない。しかし、ひとかけら口に運べば、おいしさを追求したガストロノミックな1枚だとすぐにわかる。アラン・デュカスとフローラ・デイビィスのクリエイティビティを駆使して作られたビスキュイの数々。体験したことのない味に出会えるのだ。どこか懐かしさもあるが、今まで味わったことがない特別なものだと感じるはず。
1.【ビスキュイ・ミニュット】オーダー後店内で仕上げるケーキのようなビスキュイ
まず驚いたのが、ケーキのようなスペシャルなビスキュイ。オーダーが入ってからブティックで仕上げる「BISCUIT MINUTE」(ビスキュイ・ミニュット)。もちろんブティック限定アイテムだ。チョコレートは隣のブティック「ル・ショコラ・アラン・デュカス」との連携で、フローラルなアロマが香るペルー産のショコラを使用。作りたてのフレッシュなトッピングとビスキュイのハーモニーは未体験の味わい。特別な日のギフトにもぴったりだ。
ショコラを存分に楽しむためのビスキュイで、チョコレートケーキや板チョコを味わう感覚に近いかもしれない。ペルー産75%、マダガスカル産25%のショコラをのせ、カカオなどがトッピングされる。特別なケーキボックス入りで提供され、ジュエリーボックスを開けるようなトキメキと喜びが感じられる。表はクラフトペーパーでナチュラルな雰囲気だが、開けると中はイエローの華やかなパッケージ。こちらの「BISCUIT MINUTE(ビスキュイ・ミニュット)」は東京店でも扱うが、違うフレーバーで3種発売される。
2.【サンポール】シンプルでいて衝撃的な食感とバターの味わい!
見た目はとてもシンプル。今回の取材で一番驚いたテクスチャーであり、味わいのビスキュイ。ブランドの象徴である6角形のビスキュイはシグネチャーとなっている。厳選された小麦とノルマンディバターの香りがたっぷりと広がる、想像の上をいく極上の味わい。ほろっと崩れるともまた違う、ザクザクッとしていて、しっとり。そして口の中に良質なバターの風味が余韻に残る。塩味のアクセントもいい。とはいえ、重さは感じなく、軽い印象。こだわりのバターと小麦を堪能する特別なビスキュイなのだ。あるとしたら難点が一つ。デリケートすぎて、パリから持ち帰るには手荷物でも心配なことくらい。今回トランク、手荷物に分けて慎重に持ち帰ったところ、1箱中割れていても1枚くらい程度で、ほぼ大丈夫という結果だった。
日本ではサンポールとビスキュイ・ポレンタ・ショコラ、他3種との詰め合わせ缶( ビスキュイ・エグザ 詰め合わせ 10枚入り)で販売される。
3.【リズ/ショコラ/グルエ ド カカオ】 ハイクオリティチョコレートとビスキュイの出会い、間違いないおいしさ!
チョコレート好きなら見逃せないビスキュイ。チョコレート、米粉、スーパーフードとしても人気のカカオニブが配合されているので、口の中で絶妙なテクスチャーを体験する。驚くのがこちらも重さを感じないところ。また、甘すぎないチョコレートが絶妙なハーモニーとなって、大人な味わいなのだ。「ル・ショコラ・アラン・デュカス」との連携から生まれる、ここにしかないビスキュイ。
4.【クッキー カカウエット】しっとりもっちりの唯一のクッキー
馴染みあるビジュアルは、1枚売りのクッキー。デイヴィスシェフ曰く、「クッキーとビスキュイの違い」は、調理工程にあるのだそう。クッキーは高温短時間で焼くことで、生地に水分が残されたまま焼き上がり、しっとり柔らかくなる。
一方、ビスキュイは、低温でゆっくり焼き上げるため、水分が少なくなり、サクサクに仕上がるのだとか。
そこで、自慢のピーナツクッキー(クッキー カカウエット)の話に戻ると、カカオを焙煎したものと自家製のピーナツバターが練り込まれた生地を使い、風味豊かな味わいに。ピーナツの自然なおいしさをダイレクトに感じられる。ミルクにも、コーヒーにも、紅茶にもよく合う。
5.【パレ・ショコラ・グランクリュ・ペルー】おしゃれなビスキュイサンドをチョコレートでコーティング!
特別な日にぴったりな、チョコレートビスキュイ。ガナッシュやプラリネ、マーマレードを薄い2枚のビスキュイではさみ、「ル・ショコラ・アラン・デュカス」の香り高いショコラでコーティングしたもの。他にはパレ・プラリネ・ノワゼット、パレ・オランジュがあり、全3種。日本でも発売。
6.【プラリネ ピュール ブール ボックス】プラリネを食べているような満足感!人気の缶入りクッキー
もはやチョコレートなのか、ビスキュイなのか(笑)。チョコレートの存在感たっぷりな缶入りビスキュイ。ベースとなっているビスキュイはデイヴィスシェフが生み出した「ピュール・ブール」。口の中でバターのように砕け、とろけるよう。その上にのせられたチョコレートはもちろん「ル・ショコラ・アラン・デュカス」のとの協業。特製チョコレートの中にもビスキュイが入っているという完璧さ。オープン時は日本未発売なので、パリに行かれた際にはぜひお土産に。「ピュール・ブール」は日本でも発売されるので、本場フランスバターの風味豊かな味わい、口溶けをぜひ体験して欲しい。
7.定番人気の【タブレット ビスキュイ】2種
チョコレートタブレットのようなユニークな形のビスキュイ。ドライフルーツ&チョコレートのバーは、アーモンド、ピスタチオ、ローストヘーゼルナッツで飾られたビスケットと、マダガスカル産のカカオマスで構成。ドライフルーツ、アーモンド、ピスタチオ、ヘーゼルナッツから作ったプラリネを加え、最後にカメルーン産ダークチョコレートのクーベルチュールでデコレーション。家族や友人とシェアするのも楽しいし、数日かけてじっくり味わうのもいい。
8.エリゼ宮のための特別な【パレ エリゼ】
エリゼ宮公式ストアのための、チョコレートが贅沢に使われた「パレ エリゼ」。フランス産アーモンドと砂糖漬けの柑橘類のビスケットを2枚使い、アーモンドプラリネで閉じ込めたもの。全体を75%ダークチョコレートでコーティング。柑橘類のフルーティーさにアーモンドの甘さとダークチョコレートの濃厚さがグッドハーモニーを生み出す。収益の一部は、エリゼ宮の建設から300年を経た修復プロジェクトに寄付されている。
ショップに併設された工房の天井にはフラスコ画!
工房の天井にはアクアブルーが目を惹くフラスコ画が飾られている。「シェフ(アラン・デュカス)が工房の天井に飾ってくれたのが嬉しい」とフローラ・デイヴィスは語る。美しくおいしいものを生み出す工房。働くスタッフへの愛と配慮。
Flora Davies フローラ・デイヴィス/シェフ パティシエ
アラン・デュカスではレストランからキャリアスタートし、様々なキッチンに携わる。「ラ マニュファクチュール ドゥ グラス」のオープンの立ち上げも。その後、「ル・ビスキュイ・アラン・デュカス」のチーフパティシエになり、現在に至る。東京・日本橋店のオープニングに合わせ、来日予定。
Alain Ducasse アラン・デュカス
16歳で料理の道に入る。ミッシェル・ゲラール、ロジェ・ベルジェなど有名シェフの下で経験を積み、アラン・シャぺルと出会う。「ザ・テラス」のシェフとなり、1984年ミシュラン2つ星を獲得。1987年にはモナコの「ルイ・キャーンズ」の総料理長として3つ星を獲得。1998年にはパリのオテル・ドゥ・パリ「アラン・デュカス」で3つ星を獲得。世界初の6つ星シェフとなった。日本でも「ベージュ アラン・デュカス」や「ブノワ」などを展開。2013年パリ「ル・ショコラ・アラン・デュカス」を設立し、2018年に東京・日本橋にもオープン。日本同様NYなど世界各国で活躍。
パリの美食レポートは、ハイクオリティな「ビスキュイ・キュイジネ」からスタート。工房でその細密な過程を間近で見て、イメージするビスキュイにあう、より良いものを求めて材料を探し求めた話を聞くことができた。シェフパティシエのフローラ・デイヴィスは「材料探しが何より大変だった」とも。その苦労はかなり大変だったようだ。取材をしていく中で、アラン・デュカスチームの「クリエイティブの現場」の面白さに夢中にさせられた。隣のショコラ工房チームとも日常的に会話を重ね、素材やテクニックの情報を共有しながら作り上げるビスキュイ。横のつながりも、アラン・デュカスチームの強みなのだ。次回は、アラン・デュカス氏へのインタビューやパリで話題の新店などを紹介する。