フレンチの巨匠が手がける鮨のコース仕立て。フレンチと日本の伝統を掛け合わせ
フレンチと和食が融合したメニューとして象徴的な、エモーション2品めの「ササニシキのギモーヴ 魚介のコンソメ」 中にはスープ°・ド・ポワゾンがジュレ状に詰められ、仕上げにとろみのついた昆布の出汁をまとい、全体をまとめている。上にのせられたフィンガーライムがプチッと弾けて爽やかな香りが口に広がる。
ヤニック・アレノ氏は、フランス国内で2軒のミシュラン3つ星レストランを手がけるシェフであり、世界各地を含めると合計15個の星を持つモダンフレンチの巨匠。また、フランス以外でも、モロッコ、ドバイ、香港、韓国など18軒のレストランを手掛けている。その中のひとつであるパリの3つ星レストラン「アレノ・パリ・オ・パヴィヨン・ルドワイヤン」の地下に、2018年に寿司を提供する「ラビスオー パヴィリオン ルドワイヤン」をオープンさせ、パリの2つ星人気店へと成長させた。
フレンチの技法を和の食材に融合して仕上げたエモーションからスタートし、江戸前鮨、最後にフレンチデザートで〆るという、ラビスのスタイルを作り上げ、大阪でも引き継いでいる。各セクションにおいて、フレンチと日本食の伝統を掛け合わせた味わいを楽しめるレストランだ。
大阪での料理長は和食の職人として30年の経験を持ち、海外での経験も豊富な安田 至氏。ヤニック氏と作り上げるコースは、イノベーティブそのものだが、寿司の味わいは伝統を重んじたもの。パリでローカライズしたものを逆輸入という感じではなく、それぞれの伝統をそのままに新たな世界を作り上げている。あるフーディは食べ終えた後、「行きつけの寿司職人に食べてもらいたい。この感覚は味わわないといけないな」と語り、伝統的な寿司の新章を感じとったそうだ。
前菜となるエモーションという考え
「エンダイブとトレビスのサラダ」シソや洋梨、ブラウンマッシュルーム、セロリが間に挟まれている。
まずは、エモーションからスタート。「エンダイブとトレビスのサラダ」、「ササニシキのギモーヴ 魚介のコンソメ」、「たまごとキャビア」、「帆立、山椒 白州のスモーキーなブイヨン」、「刺身」の5皿が提供される(季節により内容は変わる)。経木で束ねたブーケのような、目にも美しいスタイルのサラダをお寿司を食べるように手で掴み、フレッシュさをダイレクトに感じるようバリバリといただく。
フレンチのムイエットを思わせる「トロタマ」こと「たまごとキャビア」 トーストしたパンにのせていただく。
帆立、山椒、白州のスモーキーなブイヨン
「刺身」 たこと中トロの炙り。
続いて、本格江戸前寿司のスタート
「鯵」から握りスタート
エモーションが終わると、続くパート「握り」へとシームレスに誘われる。旬の食材とヤニック氏のフレンチエスプリが融合した独創的な寿司のコースが続く。右奥に見えているガリ。一見しても一般的な薄切りのガリとは違って見えるが、生姜とりんごのガリとなっている。これをつまみに飲む人もいるほど、評判だ。酸味が抑えられ、ほのかな甘みで爽やかな味わい。おかわりする人が多いのもうなずける。
旬のネタの握り鮨 10貫
ネタも握りも本格高級寿司だが、気になるシャリはササニシキに江戸前を感じる米酢と玄米酢を混ぜたもの。酸味と甘みが感じられ、ネタのおいしさを加速させている。
ここでエモーションへ話が戻るのだが、2品めの「ササニシキのギモーヴ 魚介のコンソメ」。これに使われているのが、握りのためのシャリを使っているという。寿司屋のシャリ残り問題を解決すべく、転生させているのだ。奥深い一品だったと改めて気づく。
「平貝の磯辺巻き」
「海老のポッシェ、大葉と生姜」 海老のポッシェ。絶妙に火入れされた海老を生姜、大葉、ブラックレモンが入ったマヨネーズでいただく。
「黒ムツ ウニ イクラ」の小丼
青森大間の「大トロ」 大トロは、実はかなり大きく薄く切り出していて、巻き込むように握られている。
一見普通の大トロに見えるが、実は、大トロの下には揚げたエシャロットと生の刻まれた生姜が仕込まれている。ヤニック氏と安田氏の融合、「鮨 ラビス 大阪 ヤニック・アレノ」らしい握り。大トロの旨みと調和がとれ、江戸前でもあったのではないかと思わせるほど不思議とよくあう。これ目当てで訪れてもいいと思わされるおいしさに唸る。寿司のフィナーレを飾るにふさわしい印象深い一貫。
薄く大きく切られた大トロ。一貫に対する一切れの大きさに目が奪われる。
「大地と海のコンソメ」
握りの終わりは牛すじと鶏肉、ドライエリンギや昆布の旨みを味わうコンソメ。牛と鶏の味わいで、海の流れが止まり、デザートへ向かうというストーリーなのかもしれない。
甘味(あまみ)は目から鱗の4連続
「アロエヴェラの刺身 ラムの香りのベリーソース」
締めくくりには、コース仕立てで楽しむデセール「甘味(あまみ)」を、パティシエが手がける。最初の一皿は、大トロからの流れのビジュアルで、「えっ」と思わされる遊び心ある、アロエヴェラの刺身。いちごシロップに浸けたアロエがラムの香りをまとい、さわやかなデザートのスタートを感じさせてくれる。山葵シュガーがピリあまのアクセントに。
「茸のアイスクリーム、しめじのコンフィ、蕎麦のヌガー」 マッシュルームとメイプルシロップのアイスクリーム、蕎麦のキャラメリゼ 。
3品目は演出も楽しい、紫蘇の天ぷら。液体窒素で、紫蘇の葉を瞬時に凍らせ、パリパリに仕上げる。冷たい天ぷらも新鮮だ。
「紫蘇の天ぷら」
「海藻のパイとジャスミンクリーム 水出しコーヒー」 専用の器で4時間かけて水出ししたもの。
甘みの最後は、寿司コースを意識した和の素材、青海苔を使ったパイが登場。青海苔の香りとパイ、ジャスミンのクリームが好相性でおかわりしたくなるおいしさ。これまでの流れを引き継ぐ完璧なデザートに、幸せなコースの終わりを迎えた。
フレンチの華やかな演出や技法、発想を活かし、仕込みに始まり技術に裏付けされた伝統江戸前寿司の魅力、「両者のいいとこどり」したとも思えるコース。モダンフレンチと寿司の融合が先のフーディの言葉にあるように、新しい寿司の世界を牽引するかもしれない。そんな発展の息吹が感じられた。
パリで寿司を提供する「ラビスオー パヴィリオン ルドワイヤン」は、オープンする前は各方面から大反対を受けたが、人気とともに半年後にはミシュランの2つ星を獲得。そんな背景を持つ日本版の「鮨 ラビス 大阪 ヤニック・アレノ」。フレンチのSUSHIスタイルであり、現代の本格寿司でもある。ネタに恵まれる環境の大阪で、ここでしか味わえない食体験に注目したい。
現在、大阪・関西万博2025が開催され、さらなる賑わいを見せている大阪。大阪の新店の中でも、パリの開店当時同様、ストレートにそのおいしさが評判だ。20年以上の経験を持つヘッドソムリエがシャンパーニュからスタートするマリアージュを提案。ワインだけでなく、日本酒や焼酎を交えたコースがより楽しい食事としてくれるはず。新体験が生み出す感動と面白いことが続くメニュー展開、そしてフォーシーズンズホテル大阪の37階という素晴らしい眺望も相まって、特別な日にふさわしいひとときとなるはずだ。
パリの「ラビスオー パヴィリオン ルドワイヤン」のアイコンでもある割り箸のオブジェ。パリは本物の割り箸だが、大阪では、割り箸に模したアートを天井に。
ヤニック・アレノ
フランスに3つ星のレストランを2つ、世界のレストランを含めるとミシュランの星をトータル15個持ち、ジョエル・ロブション、アラン・デュカスに続く、星の数を持つフレンチのシェフ。モロッコ、ドバイ、中国、香港など、世界で展開。年1回の訪日予定が増えているそうで、大阪にも頻繁に訪れている。
安田 至
「八芳園」などを経て、シンガポールの人気寿司店「はし田シンガポール」のヘッドシェフを務め、2024年10月より「鮨 ラビス 大阪 ヤニック・アレノ」 で料理長に就任。