今回の「うち飲み向上委員会」はビッグなゲスト、元大関の栃ノ心、レヴァン・ゴルガゼさんをお迎えしたスペシャルバージョン! 2023年5月場所で引退を発表し、現在は母国ジョージアのワイン輸入を行う実業家へ転身。1ヶ月で4,000本も売り上げたという自慢の美酒を、「うち飲み向上委員会」でお馴染みのソムリエ、田邉公一さんと一緒に飲み比べます!
元大関・栃ノ心さんがプロデュースした、ジョージアワイン4本を飲み比べ!
うち飲み向上委員会(以下U) 角界から実業家へと転身されたのには、どんな経緯があったのでしょうか?
レヴァン・ゴルガゼさん(以下L) 理由はいくつかありますが、一つは19年前に来日した時に、どこにもジョージアワインがなかったことが悔しかったんです。ジョージアにはすごくおいしいワインがあるのに、なぜ日本にないのだろうと思っていました。そのうち見かけるようになりましたが、日本では「ジョージアワイン=安いもの」と思っている方が多くて。フランスやイタリアのようにジョージアにも上質なワインがあるのにあまり輸入されていなかったので、いつか引退したら日本に上質なジョージアワインを広める活動をしようと決めていました。
U なるほど。言うなれば大関レベルのジョージアワインが日本にあまり輸入されていなかったということですね。
L 二つ目の理由は、亡くなった私の祖父はワインがすごく好きな人で、彼の夢を叶えたかったんです。ジョージアでは家の敷地に農園とともに葡萄畑があるのが割と当たり前で、実家でも自家製ワインを造っていました。祖父は葡萄に対してとても愛情を持って育てていて、「ジョージアワインが一番だよ。いつか世界にもっともっと広まればいいのにね」と話していたんです。
U いい話だ〜。お祖父ちゃん孝行ですね(涙)。
L 祖父はクヴェヴリ製法の赤ワインを特に愛していたので、そのワインは絶対に仕入れたいと思っていました。
田邉公一さん(以下T) クヴェヴリ製法は、ジョージアの伝統的な醸造方法ですね。クヴェヴリは素焼きの卵形のかめで、それを土の中に埋めて醸造するんです。潰した果皮、果肉、種とともに果汁をクヴェヴリに投入し、発酵と熟成がゆっくりと進行するのが特徴。今日はいただくのが楽しみです!
U 今回はなんと各ワインのキャラクターを、相撲における勝ちが決まった時の技「決まり手」に例えちゃいます! 「ベストうち飲み賞」とともにそれぞれチェックしてくださいね。
復活を遂げた、古来の品種「ヒフヴィ2021」
ヒフヴィ2021〈750㎖〉¥5,500/ロイヤルジョージア
T ジョージアはオレンジワインの原点。現地ではアンバーワインと呼ばれていますが、ジョージアのオレンジワインは西ヨーロッパや日本のものと比べると色が濃いですよね。果実を破砕した後、果皮と一緒に醸す“マセラシオン”の時間が長いのでしょうか?
L 一般的なジョージアのオレンジワインはご指摘の通り。でも、このヒフヴィはバランスを考え、マセラシオンをそこまで長くしないで、飲みやすくしてもらっています。色の濃さから想像するよりも、しなやかな味わいなんですよ。
U レヴァンさんが営む「Royal Georgia」で輸入されているワインは、製造にも関わっていらっしゃるんですか?
L はい、テイストからエチケットまでプロデュースしています。私がプロデュースしているのは「ジョージアンワイナリー」という1905年から家族経営をしているワイナリーで、葡萄は無農薬栽培、クヴェヴリ製法で造られています。このワインはジョージアでも売られていなくて、全部私のところで販売しています。酒屋にも卸していますが、アニヴェルセル表参道や東京會舘でも飲めますよ!
U すごい、ビジネスマンとしてもやり手でいらっしゃる!! このオレンジワインは白葡萄のヒフヴィとのことですが、これはジョージアの土着品種でしょうか?
L はい。10年くらい前は、ヒフヴィが少なくなってしまって全滅するんじゃないかと言われていました。でも、おいしいからと皆が木を増やしていき、最近はまたヒフヴィのワインがたくさん造られるように。このワインは「サクラアワード2024」でゴールドを獲ったんですよ!
T ヒフヴィは、タンニンを感じる緻密な味わい。まっすぐで、いい意味でシンプルだから、飲み心地の良さが抜群です。軽やかで、幅広い層に好まれそうな味わいですね。
L 焼き魚はもちろん、ハムやソーセージなどの軽めの肉料理とも相性抜群で、和洋折衷な日常の食卓を盛り上げてくれます。
T YouTubeでは5〜6人の力士仲間と一晩に66リットルも飲んだことがあるという、豪傑エピソードを拝見しましたが、普段はどのくらいワインを飲むんですか?
L 私ひとりでワイン2〜3本は当たり前かな。それくらいなら翌日にも残らない。
T え! おひとりで!?
L ジョージアの宴会はもっとすごいですよ! 宴会の幹事であるタマダが乾杯したら、皆でグラスに注いだワインを一気に飲み干さなければいけない。タマダによる乾杯とスピーチがその後も永遠に続くんです!!(笑)
U 歓談して一息ついたら、またタマダが乾杯し、全員でぐびっと飲むんですね。ワインはビールよりもアルコール度数が高いですからね。このループは、想像以上にゲットワイルド&タフ!
L たまに私もタマダをすることがありますが、日本の飲み方のほうが好きです(笑)。
U 次のワインに進む前に待った、待った〜! ヒフヴィを決まり手で例えるなら、いかがでしょうか!?
L まっすぐな味わいなので、シンプルな技がいいなと。基本の決まり手である「寄り切り」にしましょう(相手に体を密着させて前か横に進み、土俵の外に出す技)!
ヒフヴィ2021をチェック!
上品な甘みに癒される「キンズマラウリ2022」
キンズマラウリ2022〈750㎖〉¥5,500/ロイヤルジョージア
U 甘口でおいしい〜! これはワインが苦手な人にもおすすめですね!
L キンズマラウリは赤のセミスイートワイン、すごく飲みやすいでしょう。しっかりアルコール度数は13%あるのに、騙されちゃう(笑)。
T 干し葡萄が入っているんですか?
L マセラシオンを早めに止めて、残糖が多めになるようにしているんです。キンズマラウリはカヘティ地方を代表する銘柄で、土着品種のサペラヴィで造っています。長くマセラシオンすると、今日紹介するもう一つの赤ワイン、サペラヴィのような辛口になります。
T カヘティ地方は、ジョージアで一番のワイン銘醸地。ジョージアンワイナリーもカヘティ地方にあるんですか?
L はい。自然が美しいところで、行くと気持ちが休まります。夏はとても暑く、日中は40度を超えるのですが、夜になると18度くらいまでに下がるんです。
T その寒暖差は葡萄の栽培にぴったり。おいしいワインが造れる気候ですね。この赤ワインは、ほのかにスパイスがあって、果実味が少しジャムっぽい。ブラックベリーのコンポートのような。ちょっとタンニンがあって甘ったるくならず、バランスが素晴らしい! 常温でもいいですが、若干冷やしてもいいかもですね。
L 仰る通り! 夏はちょっと冷やしたほうが爽やかに飲めますね。ちなみに私はあまりごはんを食べない日に、キンズマラウリを飲みます。
T そういう時もあるんですか!?
L あるんですよ(笑)。食事量を抑えなくてはいけない時もあるので。そういう時に飲みます。満足度が高いから、あまり食欲を増長させないんです。
T 食事制限中はNGかもしれませんが、チョコレート系のスイーツ、バニラのアイスクリームなどのデザートとペアリングしたらすごく相性が良さそうです。
L はちみつを垂らしたブルーチーズとキンズマラウリのペアリングも最高ですよ!
U キンズマラウリという銘柄は甘口のワインが一般的なんですか?
T そうですね。サペラヴィという品種自体は、ウクライナなど近隣諸国でも使われていますが、キンズマラウリのテイストはジョージアだけのもの。僕はまだジョージアには行ったことがないのですが、レヴァンさんと一緒にワイナリーツアーに行ってみたいなあ。宴会にも参加させていただいて。
L 大騒ぎで楽しいですよ! キンズマラウリを相撲の決まり手で例えるなら、甘口だけど実はアルコール度数が高くて騙されやすいということで、特殊技の「叩き込み(はたきこみ)」がぴったりだと思います(相手が出てきた時に叩いて落とす技)。
キンズマラウリ2022をチェック!
芳醇&フルーティなオレンジワイン「ムツヴァネ2021」
ムツヴァネ2021〈750㎖〉¥5,500/ロイヤルジョージア
L ジョージアには約500種類もの土着品種があります。今、4種のオレンジワインを輸入しているのですが、重めの味わいが好きなので、個人的に一番のお気に入りがこのムツヴァネ。芳醇な香りが好きですね。
U 夕焼けのような色がきれい。田邉さん、味わいはいかがですか?
T 華やかでフルーティですね。ハーブのニュアンスもあって、香り高い。きめ細かいテクスチャーで、非常に舌触りが滑らかです。一般的にジョージアのオレンジワインは、マセラシオンの時間が長いので、タンニンを感じるものが多いのですが、これはそんなことない!
L うちのワインは見た目の色の濃さからイメージするより、飲みやすいんですよ。日本食は優しい味が多いので、重すぎたり、エッジが効きすぎたりする辛口は合わない。繊細な味つけが損なわれてしまう。ムツヴァネはジョージアらしい個性がありながら、フードフレンドリーなんです。
U 田邉さんはどんなペアリングをしたいですか?
T ワインにカラメル感や、ナツメグを感じるので、甘めのソースが合うと思います。また、肉の脂質とタンニンは相性抜群なので、焼き鳥や豚の角煮はいかがでしょうか。
L 合うと思います! ちなみに、カヘティ地方のローカルフードは、肉の串焼き。廃棄する葡萄の木を燃やしてバーベキューをするんですけど、肉の香りも、味わいも格別で、本当に最高!
T ジョージアはごはんもおいしそうですね!
L ジョージアは歓待する文化なので、帰国すると、皆が毎回もてなしてくれるんです。肉やチーズ、ハチャプリなどが名物料理。特にジョージアのフレッシュなチーズを食べたら、他のものは食べられないくらいおいしいんですよ。ジョージアは楽しいけれど、一週間もいるとそろそろ味噌汁を食べたくなるから不思議(笑)。今は、日本とジョージアを行き来しているバランスがベストですね。
U ムツヴァネを決まり手に表すと!?
L 一番お気に入りのワインなので、私が大好きな決まり手「吊り出し」はいかがでしょうか(まわしを引きつけ、腰をグッと入れて相手の体を吊り上げ土俵外へ出す技)!
ムツヴァネ2021をチェック!
ふくよかな風味を持つ「サペラヴィ2021」
サペラヴィ2021〈750㎖〉¥5,500/ロイヤルジョージア
L ジョージアの赤ワインの品種といえばサペラヴィ、代表格です。
T 黒葡萄の中で、国内で最も栽培面積が広い品種でしたよね。果肉まで赤いので、ワインの色素も深いのが特徴です。
U キンズマラウリと同じ品種なので、辛口になったらどっしり厚みのある味になるのかと思いきや、重すぎずちょうどいいですね! するするとグラスが進む〜!
L 一般的なマセラシオンの時間だと、とっても濃くなりますよ。できるかぎり飲みやすく、でも軽くはしたくなかったので、ミディアムボディを目指しました。
T レヴァンさんのこだわりが活かされた味わいで、色の濃さほど強いタンニンではないですね。果実味が中心で、酸味も滑らかな感じ。スパイス感があるので、シラーが好きな人は気に入るはず!
U ジョージアンワイナリーのワインは、手摘みでフィルタリングなしが特徴なんですよね。
L 色をクリアにするために、不純物を取り除いてフィルタリングするワイナリーが多いのですが、ジョージアンワイナリーではフィルタリングをしていません。それなのに、どうしてこんなにきれいなワインを造れるのかというと、瓶の中心あたりの、ワインが最もきれい部分だけを使っているんです。
T 発酵槽から抽出する時に中心部分だけを瓶詰めするということですね。日本酒の製法でもありますね。中取りとか。
U わ〜!なんて贅沢な造り方!
T 普通は均等にブレンドしてバランスを取るので、非常に贅沢ですね。酵母はどうされているんですか?
L 自然酵母です。最後にごく少量の防腐剤を使っているけど限りなくオーガニックに近く、クリーンなワイン造りをしています。私自身がたくさんワインを飲んできて、防腐剤の味わいが苦手だったので。
U ペアリングはいかがですか?
T アントシアニンや鉄分を多く含んでいる食材が合うと思うので、牛肉の赤身、ローストビーフ、焼肉、ラムのグリルなんかもおすすめです。
L やっぱり肉がいいですよね! 炭の香ばしさにもぴったり合うと思います。この赤ワインは正統派の辛口ワインなので、決まり手はわかりやすく「押し出し」がいいですね。相撲の中でもすべての基本となる技です。
サペラヴィ2021をチェック!
〜今回の「ベストうち飲み賞」を発表!〜
L 私としてはすべて自信作なので、田邉さんのプロ目線の意見を聞きたいですね!
T 悩ましいですが、オレンジワインの「ムツヴァネ2021」を!! 元々好きな品種でしたが、僕が飲んできたものより、すごくまろやか。ムツヴァネにはスパイシーで、ストロングな印象を持っていたのですが、今日いただいたワインは角がなく、蜜っぽい甘さもあり、華やかなスタイルでした。赤ワインに使うような、大きなワイングラスで飲むのがおすすめですね。
L 田邉さんが仰るように、オレンジワインは大ぶりのワイングラスで飲むと、より香りが立ち上がっていいですよね。クヴェヴリ製法のワインは、時間が経つにつれ、味が変化していくところも魅力。大きいグラスだと空気が入りやすく、味も柔らかくなりますよ。
T あと、このワインはあまり冷やしすぎず、10度を上回るくらいが飲み頃。
L 基本的に、おいしいワインはキンキンに冷やさないほうがいいと思います。味がよくわかりますし。
U 本当にどれもレベルが高くて、お値段以上の味がしましたね。改めて田邉さん、今回のワインはいかがでしたか?
T レヴァンさんがプロデュースしたジョージアワインは華やかで、エレガント。そして飲み進めるほど、すっと馴染んでいきますね。
L ジョージア国内にはたくさんワイナリーがありますが、このワイナリーのどこに惹かれたかというと家族経営で、皆が仲良く、すごく愛情を持ってワイン造りをしているところ。小規模で、お金儲けだけが目的ではなくて、おいしいワインを造りたいという気持ちが一番にあるんです。そういう人たちが造るワインがいいと思いました。葡萄へのこだわりもすごいし、たくさんの人にぜひ飲んでいただきたいです。
U 一杯飲んだら、そのおいしさに感動してジョージアワイン愛に開眼すること間違いなし! 皆さんもぜひお試しくださいね!
問い合わせ先:Royal Georgia
https://royalgeorgia.official.ec/
【うち飲み向上委員会メンバー】
レヴァン・ゴルガゼ(栃ノ心剛史)
1987年生まれ、ジョージア・ムツケタ出身。得意技は右四つ・上手投げ。2006年3月場所で初土俵を踏む。2018年7月場所に大関に昇進し、2023年5月場所に引退を発表した。その後は、母国ジョージアのワイン輸入を行う実業家へ転身し、「Royal Georgia」を営む。
田邉公一
ソムリエ・ワインディレクター。レストランやワインショップ数社の飲料の監修を手掛ける。飲食店のワインはもちろん、コンビニやスーパーのワインにも一切の妥協なく日夜真剣に向き合っている。ワインスクール「レコール・デュ・ヴァン」の講師。近著に『ワインを楽しむ 人気ソムリエが教えるワインセレクト法』がある。https://twitter.com/tanabe_duvin