なぜ今「Y2K」なのか? 映画『TENET』にその秘密が…?(編集I)

SPUR3月号では「なぜ今、Y2Kが盛り上がっているのか」について、トレンド分析家のジェラルディン・ワーリー、ブランドPR兼コンサルティングのジア・クアンにインタビュー。印象的だったのはジェラルディンによるこんな解説です。「2000年代の、特に9.11以前は、イノセンスの最後の砦のような時代でした。メンタルヘルスや気候変動の危機が今ほど切実に話題に上がっておらず、若者がただただ無知に(そうあるべきではないにせよ)、至福の時間を享受していた時代。またティーンが経済的にも恵まれていました。打って変わって2020年代、Z世代は大きな社会問題に直面し、光を必要としています。未来に希望が持てないから、より気軽だった時代を復活させることでその楽観性を再び取り入れようとしているのでは」。これを聞いて思い浮かんだのが、クリストファー・ノーランによる映画『TENET』(2020)。(※以下ネタバレを含みます)。

この映画では、未来に生きる人類が荒廃した地球にもはや住めないと判断し、この映画の主人公(現代人)が生きている現代に向かって逆走しようと企てます。未来人の言い分としては、地球に住めなくなったのは昔の人間のせいなのだから、遡って過去の人類を滅ぼし、そこに未来人が住むのが正当だということ。
今まで私たちは何の疑いもなく、未来に向かって矢印を進めていけば幸せが待っている、我々は進化し続ける、と信じてきました。しかし社会問題、環境問題が山積みの2020年代、もはやそんな希望に満ちた未来を無邪気に当てにできる人が、どれほどいるのでしょう。そんな時代に、右向きの矢印を、左向きに変えて過去(享楽主義の2000年代)に向かい旅を始めるーーそれこそが、現代のノスタルジーブームの要因のひとつなのかもしれません。

Photography: Kevin Chan
Photography: Kevin Chan

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