2022年10月、ジョルジュ ポンピドゥー広場のカラフルなランウェイを舞台に、ステラ マッカートニーの2023年サマーコレクションが発表された。掲げられたテーマは“Change the History”。レディ トゥ ウェアに使われたエココンシャスな素材の使用率が91%と、かつてないレベルに到達し、まさに“歴史が変わる”瞬間を私たちは目の当たりにした。ブランド史上最もサステイナブルなコレクションのローンチを前に、その魅力に改めて迫りたい。デザイナー本人のコメントとともに紹介しよう。
ブランド史上最もサステイナブルなコレクションを実現
シーズンを経る毎にサステイナブルな素材の使用率を増やしてきたステラ マッカートニーだが、2023年サマーコレクションでは、ついにウェア全体の91%をエココンシャスな素材で構成するという驚くべき数値を達成した。再生可能な繊維から植物由来のヴィーガンレザーまで、実際に取り入れられた素材はバリエーションに富んでいる。
本コレクションを象徴するリラクシングなテーラードジャケットに使われているのは、持続可能な管理が行われている森林から調達された、トレーサブルなビスコース。今やブランドの要ともいえる重要な素材のひとつだ。今季は従来のビスコースよりもさらに環境負荷の低いエンカ ビスコースや、EUエコラベルを取得した「レンチング エコヴェロ」を採用した。クリーンな白シャツやフレッシュなデニムルックには、世界共通のオーガニック繊維基準となるGOTS認証を受けたオーガニックコットンを使用。このほか、再生ナイロンから作られるウェットスーツ素材のTシャツや、ポストコンシューマー材料から作られたリサイクル繊維のアイテム、動物性の接着剤を使わないラインストーンをちりばめたグラマラスなドレスなどが登場した。
また、これまでのシーズン同様、シューズとバッグはヴィーガン&クルエルティフリー素材で作られている。アイコニックな「S ウェーブ」バッグには、イタリアのワイナリーで回収されたブドウの絞りかすを原材料としたヴィーガンレザー「ヴェジェア(VEGEA)」を採用したものも。キノコの菌糸体から作られる「マイロ™️」で製作された「フレイム マイロ™️」バッグのほか、リサイクルポリエステルを使用したサンダル「エア スライド」が披露された。ミニマルでセンシュアルなスタイルを軽やかに表現しながらも、責任ある素材選びにいっさいの妥協を許さない。その誠実さと情熱はいったいどこからくるのだろうか。
「ブランド設立当初から、美しさと持続可能性を両立するラグジュアリーファッションを生み出すことをミッションに取り組んできました。環境負荷を最小限に抑えつつも、品質は決して劣らない。そんなイノベーティブな技術や素材を常に探し求めていますし、それをいち早く見つけることが私のライフワークでもあるんです!
サステイナブルな素材の使用率を90%以上にすることは、私たちが長年夢見てきた目標でした。今回のサマーコレクションで素晴らしい偉業を成し遂げてくれたチームを、私はとても誇りに思っています。もちろんこれで満足しているわけではないし、100%を目指すためには乗り越えなければならない壁もある。毎年公表しているエコ・インパクト・レポートによれば、環境負荷の大部分が原料調達の段階で生じていることが明らかになっています。ここをゼロにしていくためにも、オーガニックコットンやリサイクル素材の使用をもっと増やしていく必要があります。いつもみなさんにお伝えしていることですが、私たちは完璧ではないことを自覚しています。だからこそ、これからも歩みを止めることはありません」
ブランド初、追跡可能な再生コットンを使用したアイテムも登場
2023年サマーコレクションにおいてさらに特筆すべきは、環境再生型農業で栽培された追跡可能な再生コットンを100%使用したプロダクトが発表されたことだ。環境再生型農業とは、土壌の質を向上させることで生態系の回復を促し、温室効果ガス排出量の削減を目指すネイチャーポジティブな農業のこと。土地にも農業生産者にもよりよい成果をもたらすことから近年注目を集めているが、再生コットンがブランドのレディトゥウェアに使用されるのは、今回が初めてとなる。
持続可能なファッションを牽引するリーダーとして
環境や社会問題にまつわる豊富な知見を持ち、世の中への啓発活動をも積極的に行うステラ・マッカートニー。2019年にはLVMH(モエ ヘネシー・ルイ ヴィトン)グループと提携し、ベルナール・アルノー会長兼CEOのサステイナビリティ アドバイザーに就任した。彼女は自身の新たな役割にも強い使命感を抱いている。
「ベルナール・アルノー氏のパーソナルアドバイザーというポジションを与えてもらったことに、責任と誇りを持っています。LVMHグループはサステイナビリティについて真剣に話し合う用意があります。それはつまり、ファッション業界が目を覚ますべきだということの表れでもある。サステイナビリティは一過性のトレンドではなく、ファッションの未来そのものです。私たちの今後の取り組みが、業界に確かな変革をもたらすと信じています。LVMHはすでにソクタス社の再生コットン農業にも投資してくれていて、これには大きな期待を寄せています。ほかにも進行中のプロジェクトがあるので、みなさん楽しみにしていてくださいね!」
世界を変えるというパンクな精神で拳を突き上げ、行動を起こしながらも、自身の人柄やデザイン性を通じて常にオプティミスティックなマインドを忘れない。ステラ・マッカートニー本人から語られる言葉を聞くと、ファッションの未来には希望が宿っているように思える。91%が100%に塗り替えられる日は、きっとそう遠くはないのだろう。
セントラル・セント・マーチンズ卒業後、デザイナーとしてのキャリアをスタート。1997年、クロエのクリエイティブ ディレクターに就任。2001年より自身のブランド、ステラ マッカートニーを始動。