目の覚めるような鮮やかなカラーパレットと、思わず息をのむ圧巻のラッフルテクニック、そして、ため息が漏れるほどのドラマティックなシェイプ。情熱と希望に満ちたトモ・コイズミのドレスに魅了される人が、あとを絶たない。 2019年2月、ニューヨークファッションウィークでの初のランウェイショー開催を機に、一躍脚光を浴び、世界規模で愛されるブランドに。以来、エミリオ プッチやサカイ、マーク ジェイコブスといった名だたるブランドとのコラボレーションをはじめ、国内外のさまざまなアーティストやセレブリティへの衣装提供など、オファーはひっきりなし。
Photo: Courtesy of Dolce&Gabbana
世界最高峰のデザイナーデュオと称される、ドルチェ&ガッバーナのデザイナー、ドメニコ・ドルチェ氏とステファノ・ガッバーナ氏もまた、トモ・コイズミの型破りな作風に初期の頃から魅了され続けてきた。若手クリエイターの才能に対する支援を続けている両氏がこのたび、育成プロジェクトに抜擢したのが、トモ・コイズミのデザイナーである小泉智貴氏だ。
ドルチェ&ガッバーナのテキスタイルやアクセサリーを活用した、花束のようなコレクション
2023年2月、ミラノファッションウィークの最終日に発表された2023-24秋冬コレクション「TOMO KOIZUMI SUPPORTED BY DOLCE&GABBANA」は、ドルチェ&ガッバーナの全面的なサポートのもと実現。小泉氏にとっては、約3年半ぶりのグローバルな舞台となった。 「花束をお忘れなく」。大切な人にフラワーブーケを贈るように、ひとつひとつの作品に感謝の意を込めて。カラフルで、ファンタジックで、クチュールライク。観ている誰もが幸せな気持ちになれるショーだった。
Photo: Courtesy of Dolce&Gabbana
コレクションの制作にあたり、小泉氏はミラノでリサーチを重ね、ドルチェ&ガッバーナのアーカイブスに触れ、そこからインスピレーションを引き出していった。ショーのファーストルックで登場したのは、マルチカラーのボディにシグネチャーのラッフルをあしらったミニドレス。黒を差し色に効かせることで、メゾンのアイコニックなエッセンスを巧みに融合。さらに、トモ・コイズミ流にアレンジしたドルチェ&ガッバーナのバッグとシューズをスタイリングに取り入れ、エレガントなルックを完成させた。
Photo: Courtesy of Dolce&Gabbana
そのあとに続いたルックでは、ドルチェ&ガッバーナが提供したカレット柄のテキスタイルを活用。デザイナー2人のルーツであるシチリア島の伝統工芸に用いられるこの絵柄は、メゾンの代表的なモチーフとして知られている。シルクオーガンザの繊細なラッフルがエネルギッシュなカラーパレットをまとい、ひときわ華やかにアップデートされた。
Photo: Courtesy of Dolce&Gabbana
柄と柄が融合することで生まれる、不思議な調和。リボンのコルセットドレスにふんだんにあしらわれた花細工も、ドルチェ&ガッバーナから提供されたもの。まさに“歩く花束”といわんばかりのピースは、オプティミスティックでありながらも力強く、観客の視線を釘づけにした。
シューズと一部のバッグにドルチェ&ガッバーナのアーカイブピースを活用。ビジューやハンドル部分にラッフルをたっぷりとあしらって。Photo: Courtesy of Dolce&Gabbana
使い捨てにするのはもったいない。可能な限り再利用を目指して
ショーの中盤では、グラデーションの美しいハンドスモッキングドレスが複数登場。生地を手作業で絞り、立体感を生み出すことで、ラッフルとはひと味違ったゴージャスな表情に。コレクション全体にさらなる躍動感をもたらした。
Photo: Courtesy of Dolce&Gabbana
ラグジュアリーな光沢と発色のよさを併せ持つこの素材は、伊藤忠商事が立ち上げたプロジェクト「レニュー(RENU)」を通じて開発されたリサイクルポリエステル。一般的なリサイクルポリエステルは、廃棄されたペットボトルを再生して糸にしているが、レニューでは廃棄された衣料品や衣服の製造時に出た残反・裁断くずを有効活用し、独自の技術で再び新たな繊維に生まれ変わらせている。つまり、単なるアップサイクル素材ではなく、サーキュラーエコノミーにも貢献しているという点が画期的だ。
Photo: Courtesy of Dolce&Gabbana
ショーの最後には、巨大な1着のレインボーカラーのラッフルドレスを5人のモデルがシェアするようにまとって現れた。過去に阪急うめだ本店でポップアップストアを開催したときの壁面ディスプレイをドレスとして再利用。「もったいなくて使い捨てにできず、保存していた」というデザイナーの言葉には、作品に対する熱い思いが滲む。 これまでにも、服作りに際してデッドストックの生地を使用したり、再生素材を取り入れたりするなど、可能な限り環境負荷の低い素材選びを心がけてきた小泉氏。在庫を作らず、受注生産を基本とする彼のクリエーションスタイルにも、サステイナブルな姿勢が垣間見える。
テクニカルコンサルタントとして、ドルチェ&ガッバーナがショー全般をサポート
才能ある若きクリエイターに、ミラノでショーや展示会を開催する機会を提供し、国内外に広くそのブランドの魅力を発信する。ドルチェ&ガッバーナの全面協力のもと披露されたトモ・コイズミのショーでは、素材やアクセサリーの提供に加えて、テクニカル面での支援も手厚く行われた。ドルチェ&ガッバーナの縫製職人がフィッティングや仕立てを手伝ったほか、ショー会場はミラノにある自社スペースを手配。会場の設営から演出、コレクションの輸送や搬出入まで、ショー全般にかかわることをサポートした。 クリエーションに干渉することはないが、デザイナーからの要望には可能な限り応える。今回のショー会場ではトモ・コイズミのアーカイブスもあわせて展示されたが、これはドルチェ氏とガッバーナ氏によるアイデアだったという。ホスピタリティあふれる精神が、両氏の純粋なファッション愛を物語っている。
トモ・コイズミのデザイナー、小泉知貴氏と、ドルチェ&ガッバーナのデザイナー、ドメニコ・ドルチェ氏とステファノ・ガッバーナ氏。Photo: Courtesy of Dolce&Gabbana
トモ・コイズミの最大の特徴であるボリュームとシェイプはそのままに、ドルチェ&ガッバーナのアイデンティティを凝縮させた2023-24秋冬コレクションが、ブランドを新たな次元へと押し上げたことは言うまでもない。まるで2つのブランドが楽しく対話をするように、シームレスに融合した美しいコレクションピース。ありとあらゆる色彩が渦巻く中にも調和が生まれ、喜びに満ちたデザインの数々は、明るくインクルーシブな未来を提示しているようにも思えた。
2022年9月に「ファッション プライズ オブ トウキョウ」を受賞した小泉氏は、同プライズの支援を受け、今年の秋にパリでコレクションを発表する予定だ。ミラノでの成功を礎に、今後どのような進化を見せるのか。ネクストステージに向かうトモ・コイズミの活躍に、ワクワクが止まらない。
2011年、千葉大学在学中に自身のブランドを立ち上げ、日本を中心に歌手や広告の衣装デザインを手がける。2019年に初となるファッションショーをニューヨークで開催。同年、毎日ファッション大賞選考委員特別賞受賞、BoF(The Business of Fashion)500に選出。2020年にLVMHプライズ優勝者の1人に選ばれる。2021年、東京オリンピック開会式にて国歌斉唱の衣装を担当。同年、毎日ファッション大賞を受賞。 2023年にドルチェ&ガッバーナの支援によりミラノファッションウィークにてコレクションを発表。 顧客にレディガガやサム・スミス、マイリー・サイラスなど世界的セレブリティをかかえる。