カミングアウトのいらない社会を目指して。大家族フォーサイス家と考える、多様な性のあり方

日本とオーストラリアをルーツに持つフォーサイス右京さんは、八人姉弟の三男で広島育ち。20歳のときにオーストラリアに移住し、その後ゲイであることをカミングアウトした。現在はシドニーを拠点に、YouTuberの大家族フォーサイス家としてさまざまなコンテンツを発信。中でも自身のカミングアウト動画が反響を呼んでいる。今の陽気な人柄からは想像がつかないほどの葛藤や苦悩を抱えていた右京さんと、そんな弟をそばで見守り続けてきた長女の伊織さん。LGBTQIA+の当事者として、アライとして、二人が思い描く理想の社会について語ってもらった。

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YouTuberの大家族フォーサイス家として活躍する、フォーサイス右京さん(左)と伊織さん(右)。

地元広島から、LGBTQIA+に寛容なシドニーへ。 ゲイは恥じることじゃないとわかった

「俺に姉弟がたくさんおらんかったら、学校でいじめられてたかも。大家族で顔もこんなじゃけえ、近所では有名やったんですよ」

日本人離れしたルックスとは裏腹に、明瞭な広島弁で話すフォーサイス右京さん。八人姉弟の三男として広島市で育ち、地元の中高に通いながら多感な10代を過ごした。自分のセクシュアリティに違和感を持ち始めたのは高校生の頃。男友達の恋愛話に共感できなくなり、まわりとの感覚のズレに気が付いた。もしかして、自分はゲイなんじゃないか? しかし相談できる人は誰もいなかった。当時は自分の感情を否定し、一生隠し続けるつもりだった。

「一番仲のよかった幼馴染がトランスジェンダーだったんです。その子は小学生の頃からずっといじめられていて、中学に入るといじめがさらに悪化して不登校に。そういうことが身近にあったし、学校では“ゲイいじり”もあったので、もし自分がゲイだとバレたらみんなに嫌われると思ってた。そのときは墓場まで持っていく覚悟でした」

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自分のセクシュアリティを否定していた高校時代の右京さん。今の陽気な性格とは違い、内気だったという。

高校卒業後、オーストラリアのクイーンズランドに家族で移住することになった。日本を発つ直前に、ネットの掲示板で見つけたゲイの集会に思い切って参加してみたら、自分と似た境遇の人がこんなにいるのかと衝撃を受けた。

「100人ぐらいのゲイが広島中から集まったんですけど、そこにすごく好みのイケメンがいて、そのとき初めて男にキュンとしたんです。男同士の恋愛はあるんじゃ!と電撃が走った。今思えばそれが初恋でしたね」

恋愛対象が男性であることを確信したが、一緒に暮らす家族には打ち明けられずにいた。大切な家族に本当の自分を隠し続けるのは辛かった。一度家族と離れ、自分と向き合おう。そう決意し、単身でシドニーへ引っ越すことに。

「シドニーはLGBTQIA+に寛容な街だと聞いて、行ってみるしかないと思いました。そしたら着いた日に、ゲイやレズビアンのカップルが堂々と手を繋いで街を歩いているのを見かけて、さらにその数ヵ月後には世界最大級のLGBTQIA+の祭典・マルディグラが開催された。たくさんの人が自由にセクシュアリティを表現し、祝福されているのを見て、ゲイであることは恥じることじゃないと気付いたんです。マルディグラをきっかけに、人生観が大きく変わりました」

「話してくれてありがとう」。家族の言葉に救われた

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オーストラリア在住のフォーサイス家の6人。(左上から時計回りに)母の幸子さん、五男・伊吹さん、七男・宇龍さん、長女・伊織さん、六男・青羽さん、三男・右京さん。

シドニーで自分のセクシュアリティに自信を持てるようになり、カミングアウトを決意した右京さん。家族で最初に打ち明けたのは、長女の伊織さんだった。伊織さんからはゲイに対するネガティブなコメントを一度も聞いたことがなく、話しても大丈夫だと思えたからだ。それでも直接伝えるのは怖かったので、ラインでこっそり打ち明けた。伊織さんは当時のことをこう振り返る。

「私たち姉弟って恋愛についてもオープンすぎるくらいシェアするんですけど、うっくん(右京さん)だけは全然話してくれなかったんです。もしかして、うっくんってゲイ?という思いはあったんですけど、直接聞くことには戸惑いがありました。なので普段から『もしゲイでも私は否定しないからね!』というのをどうにか伝えようとしていましたね。話してくれたときは純粋に嬉しかったと同時に、家族にも相談できないくらいずっと悩んでいたとわかって悲しい気持ちにもなりました。ラインしながら二人で涙したのを覚えています」

伊織さんからのポジティブな反応を受けて、ようやく両親にも伝えることができた右京さん。「話してくれてありがとう」。母のこの一言に、救われた思いだった。右京さんにとって、家族は一番の宝物。家族さえ認めてくれれば、もう怖いものはなかった。友人に、同僚に、カミングアウトを重ねるたびに自信がついていくのを感じた。

理想はカミングアウトしなくても、 誰もが当たり前に認められる世の中

かつての自分と同じ悩みを持つ人たちに、勇気を持ってもらいたい。どこかの誰かの心の支えになれたら。そんな思いを込めて、2020年、大家族フォーサイス家のYouTubeチャンネルで右京さんがカミングアウト動画を投稿すると、視聴者からはたくさんのポジティブなコメントが寄せられた。

「大家族フォーサイス家の視聴者には、LGBTQIA+について触れる機会が少ない方もたくさんいらっしゃいます。うっくんのカミングアウト動画を観て、初めてセクシュアルマイノリティのことを知ったというコメントもけっこうありました。ストレートの視聴者が多いなかで、あえてLGBTQIA+への理解を深めるための発信をすることに大きな意味があると思っています」と伊織さん。

カミングアウトの重要性について、右京さんはこう述べる。
「『どうしてわざわざカミングアウトするの?』と思う人もいるかもしれんけど、自分たちの存在を知ってもらうためにも声をあげることが重要なんです。だから、カミングアウトできる人は積極的にしていった方がいいと思います。最終的にはストレートの人と同じように、カミングアウトなんかしなくてもみんなが当たり前のように認められる世の中になってほしい。そうなるためにも今、当事者である俺たちが頑張らなければ」

カミングアウトのいらない社会。それは伊織さんにとっての理想でもある。
「オーストラリアは同性婚が認められているので、ゲイやレズビアンのカップルが身近にたくさんいます。以前、会社のチームミーティングで同僚の男性が育休をとる報告をしたんです。そのとき彼が、『僕のパートナーは男性なので、養子縁組で子どもを迎えることになりました』と、かしこまったカミングアウトではなくすごくナチュラルに話してくれて。私は彼がゲイだとそのときまで知らなかったんですけど、彼の伝え方がとても素敵で、誰もがこんな風にフランクに話せるようになったらいいなと思いました」

当事者も、ストレートも、アライとして助け合って

伊織さんのように、セクシュアルマイノリティを理解し、差別や偏見をなくすために支援する人たちのことをアライという。語源は英語の「alliance」で、「同盟」を意味する言葉だ。日本ではまだ認知度は低いものの、アライの輪を広げる取り組みは徐々に増えてきている。伊織さんに、改めて言葉の定義やアライとしての心構えについて尋ねた。

「アライとは、どんな性自認(自分の性をどう認識しているか)・性的指向(どんな性別の人を好きになるか)の人もみんな仲間だという立場をとっている人のこと。なので私は、LGBTQIA+の当事者もアライになり得ると思っています。
アライとしてできることは普段の生活の中にたくさんあります。例えば右京がまだカミングアウトしていなかった頃に、私がゲイに肯定的であることを伝えようとしていた、その努力もアライとしての行動のひとつ。ほかにも、英語で自己紹介するときに自分のジェンダー代名詞『She/Her』を添えて、あえて性自認を伝えるようにしたり、彼氏・彼女ではなくパートナーというジェンダーニュートラルな言い方をしたり、レインボーカラーのものを身につけたり。さりげないことでもアライを表明できるし、私はそうやって常日頃から、“カミングアウトされやすい人”であるように心がけています。
カミングアウトされたとき、絶対にしてはいけないのがアウティング。その人がLGBTQIA+であるという事実を、本人の承諾を得ず勝手に他人に暴露する行為のことです。カミングアウトは相手を信頼しているからこそできること。その人だけが持つ権利だということを決して忘れてはいけません」

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なんてことない普段の会話に配慮することも、アライとしての立派な行動だ。右京さんは、相手がLGBTQIA+当事者の場合、ふとした会話の中で無意識のうちに傷つけてしまう可能性があることを理解してほしいと話す。

「昔、実家でテレビを観ていたらゲイカップルが出てきて、両親が否定的な発言をしたのを今でも鮮明に覚えています。両親からすれば全く記憶にないことでも、俺はすごくショックだったし、不安になりました。
最近だと、『右京ってゲイっぽくないね』と言われることがよくあります。相手はたぶん褒め言葉のつもりなんですけど、ゲイっぽいのはダメなこと?と引っかかってしまいますね」

LGBTQIA+当事者もアライになり得る一方、当事者であってもアライではないというケースもある、と右京さんは続ける。

「知り合いのゲイが、LGBTQIA+の中にトランスジェンダーを意味する『T』が入っているのがしっくりこない。自分たちと一緒にしてほしくないと話していて、そのときはすごく嫌な気持ちになりました。同じセクシュアルマイノリティの中でも差別や偏見があるのは悲しいことです。どんな性自認でも、どんな性的指向でも、ひとつのコミュニティとして団結して助け合っていかなければいけない。そのことを認識してほしいです」

世界最大のLGBTQIA+の祭典、マルディグラパレードに家族で初参加

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2023年2月に開催されたLGBTQIA+の祭典、シドニー・ゲイ・アンド・レズビアン・マルディグラのパレードに、日本人フロートとして初参加。

2017年に同性婚が認められたオーストラリアは、LGBTQIA+に寛容な国として知られている。シドニーで毎年2月下旬から3月上旬に開催されるのが、世界で最も活気あふれるLGBTQIA+の祭典、シドニー・ゲイ・アンド・レズビアン・マルディグラ。オーストラリアの首相も参加するほどの、国をあげてサポートする一大イベントだ。

2023年は、同じく世界規模の祭典であるワールドプライドとの合同開催となり、これまでになく盛大に行われたマルディグラ。そのクライマックスを飾るパレードに、フォーサイス家が日本人グループとして初参加を果たした。福岡を拠点にLGBTQIA+の啓発活動を行うNPO法人・カラフルチェンジラボとの協力により実現。日本からも参加者を100人ほど募集し、歓声に包まれる中、シドニー中心部のメインストリートを一緒に練り歩いた。

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パレードのダンスグループの先頭で踊る、フォーサイス家の母・幸子さん。

「マルディグラは、LGBTQIA+の人はもちろん、ストレートの人も一緒になって、ありのままの自分を祝福する祭典です。ゲイであることに自信が持てるようになったきっかけがマルディグラだったので、家族で出られるなんて夢のようでした。参加者の中で最高齢だったマミーは、ダンスグループの先頭で誰よりも元気に踊ってくれたんです。
日本から来てくれた人の中には、パレードに参加するために両親に思い切ってカミングアウトした高校生もいて、受け入れてもらえたエピソードを聞いたときはすごく嬉しかった。シドニーで彼に会ったとき、抱き合って喜びました」

差別や偏見をなくすために。大切なのは「知る」機会を与えること

オーストラリアや他の先進国と比べて、LGBTQIA+に関する法整備が進まない日本。岸田首相が同性婚の法制化について「社会が変わってしまう課題」と発言したことも記憶に新しい。フォーサイス家の二人の目に、今の日本はどのように映っているのだろうか。

「数年前、シドニーでパートナーとバスに乗っていたら、後ろの席に若い日本人女性が二人座っていました。誰も日本語がわからないと思ったんでしょうね。俺たちのことを笑いながら罵倒し始めたんです。俺は日本が大好きだけど、いまだにそういう差別意識があるとわかって悲しかった。
人は自分の知らないことに嫌悪感を抱きやすい。だから、日本の学校でもっと積極的にLGBTQIA+のテーマを取り上げてほしいです。小さい頃からそういう知識があれば、実際に出会ったときにもびっくりしないんじゃないかな。
俺が日本にいた頃、自分の性がわからずに苦しんだのは、ロールモデルになる人が身近にいなかったから。もし学校にLGBTQIA+の先生がいたら自信を持って生徒たちにカミングアウトしてほしいし、学校はそういうことをできる場であってほしいですね」

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浴衣をリメイクしたカラフルな装いでマルディグラパレードに参加した伊織さんと右京さん。

伊織さんも、知ることの重要性について強調する。
「オーストラリアではセクシュアルマイノリティの先生がいるのは珍しいことではありません。学校でカミングアウトデーを設けているところも多く、みんなでレインボーの何かを持ち寄ってイベント化しているところもあると聞きました。日本でもそういうイベントを学校主導でやってくれたらいいですよね。小さい頃はよくわからなくても、触れたことがあるのとないのとでは全然違いますから。
私たち大家族フォーサイス家もYouTubeというプラットフォームを活用して、今後もLGBTQIA+に関することを発信し続けていきたいと思っています。レズビアンのいとこがいるので、今度その子にも出演してもらおうかな。動画を通じて、一人でも多くの人に勇気を届けられたら嬉しいです」

フォーサイス右京さんプロフィール画像
フォーサイス右京さん

YouTuberの大家族フォーサイス家の三男。広島育ち。オーストラリアのシドニーに移住後、21歳のときにゲイであることをカミングアウト。自身のカミングアウト動画が再生回数50万回を超える大きな反響を呼ぶ。以来、姉の伊織さんとともに、LGBTQIA+に関する動画を積極的に発信している。

フォーサイス伊織さんプロフィール画像
フォーサイス伊織さん

YouTuberの大家族フォーサイス家の長女。広島育ちでシドニー在住。LGBTQIA+を理解し支持するアライとして、三男・右京さんのカミングアウト動画を制作。LGBTQIA+に関するテーマをはじめ、家族とのオーストラリア生活を配信している。

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