スポーツの世界をもっと平等に。すべての人にとって安全なランニング環境を目指す、【アディダス】の取り組み

暗い夜道をひとりで走るのが怖い。ランニング中、尾行されているように感じる。声をかけられたり、同意なく写真を撮られたりすることもある。これらは、世界中の多くの女性ランナーたちが直面している現実だ。社会的立場の弱い人たちが参加しやすいインクルーシブなスポーツの実現を目指すアディダスは、女性がランニング時に感じている不安を解消するべく、真摯に向き合い続けている。すべての人にとって安全なランニング環境を作るための意識啓発に向けた取り組み「With Women We Run」を紹介しよう。

ジェンダー平等のための世界的なムーブメント「With Women We Run」

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誰もが気軽に始められるランニングは、身近なスポーツのひとつである一方、女性にとっては危険なスポーツのひとつでもある。どうすればすべての人にとって安全なランニングを実現できるのか。どうすれば多くの女性が直面している暴力やハラスメントを止められるのか。この問いに答えるべく、アディダスの「With Women We Run」ムーブメントは始まった。

ジェンダーに基づく暴力の抑止を目指し、男性の意識啓発活動に取り組むカナダのNGO「ホワイトリボン」とのパートナーシップのもと、2022年からスタート。女性ランナーの安全を確保するために行動を起こすよう呼びかけ、アライシップ(マイノリティや弱者を支援・擁護する行動や関係性)を促進することを目的としている。

世界中の女性ランナーの92%が、ランニング時の安全に不安を感じている

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そもそも、ランニング時に不安を感じている女性はどのくらいいるのだろうか。アディダスは、日本を含む世界9ヵ国(中国、アメリカ、イギリス、メキシコ、アラブ首長国連邦、フランス、ドイツ、韓国)で9,000人のランナーを対象に、「ランニング中の安全」に関するアンケート調査を実施した(期間は2022年12月17日~2023年1月6日)。その結果、回答した女性ランナーの92%が、ランニング中の安全に懸念を抱いていることがわかった。

女性ランナーの69%が、不安を解消するためにボディラインを強調しないゆったりしたウェアを着用したり、自分を守ってくれそうな誰かと一緒にランニングしたりするなど、具体的な予防策を講じていると回答。ランニング中に身体もしくは言葉でのハラスメントを実際に経験したことがある女性ランナーは38%で、そうした女性ランナーのうち半数以上が、性差別発言や性的注視、つきまといなどを受けたことがあると回答した。

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日本においては、「安全に走るために具体的な予防策を講じている」と回答した女性ランナーは63%に対し、男性ランナーは43%。不安を感じる理由としてもっとも多かった回答は、暗い場所(56%)、続いて身体的なハラスメント(24%)、言葉でのハラスメント(15%)となった。

女性ランナーが直面している課題が浮き彫りとなる一方、こうした女性ランナーの安全にまつわる問題を認識している男性は62%。「それを解消する責任は男性にある」と考えている男性は18%にとどまり、調査を通じて男性の意識啓発の必要性が明らかになった。

女性ランナーが直面する現実についての認識を深めるムービー『The Ridiculous Run』

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キャンペーンムービー『The Ridiculous Run』のワンシーン。

女性がランニング時に直面している現実について、すべての人が認識を深めるきっかけとなるよう、2023年にはキャンペーンムービー『The Ridiculous Run』が公開された。

ムービーに登場するのはイヤフォンを片耳だけ着用し、身体のラインを隠すようなウェアをまとった女性ランナー。彼女は複数のランナーやバイク、車に厳重にエスコートされながら、夜の街を颯爽と駆けてゆく。ここまでしなければ、女性が安心してランニングできる環境が作れないという「おかしな(Ridiculous)」現実を描き出すことで、現状を変えるためのサポートを呼びかけている。 

男性を巻き込み、対話を重ねる

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ランニング中の女性のハラスメントと安全性に関する男性の意識啓発を目的に、アディダスはホワイトリボンと共同で『アライシップ・プレイブック』を開発し、6ヵ国語で提供している。

プレイブックはふたつのパートからなる。ひとつめは、ジェンダー不平等とは何か、それがランニング文化にどのような影響を与えているかを知る、学びのパート。被害を受けたことがある女性たちのリアルな声とともに、女性ランナーが実際に受けているハラスメントについて記されている。

ふたつめは、変化をもたらすために実際に行動を起こす、アクションのパート。男性ランナーが意識を向け、真の「アライ」になることで現状を変えられるとし、アライになるために必要な知識や姿勢をまとめている。アディダスが展開するグローバルランニングコミュニティ「adidas Runners」の男性メンバーたちは、プレイブックの中で次のように述べている。

「自分のまわりで実際に起こっていることや、女性がどのように扱われているかに注意を向けるようになってはじめて、女性が置かれている状況がわかりました。私は自分自身の無意識の偏見を明らかにするために、旅を続けています」(adidas Runners LA コーチ)

「長年にわたり、私は女性に向けられたマイクロ・アグレッションを目撃してきました。そしてそれが鬱や不安を引き起こし、女性に悪影響を及ぼす可能性があることを知りました。マイクロ・アグレッションが社会構造によっていかに隠されているかを理解し、自分の行動不足を反省しました。男性である私たちには見えづらいことにも目を向けて、訴えていくことが重要です」(adidas Runners ロンドン キャプテン)

女性差別、ジェンダーに基づく暴力やハラスメントが起きていても、周囲の男性は気づかないケースが多い。スポーツにおけるジェンダー平等を実現するには、男性が女性の悩みや不安を尊重し、理解を深めていく必要がある。暴力やハラスメントをなくすための自身の役割を男性に自覚してもらうためにも、男性を巻き込み、対話の機会をつくることが重要だ。

『アライシップ・プレイブック』はウェブで英語版を読むことができるので、興味のある人はぜひ読んでみてほしい。

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「With Women We Run」の開始以降、アディダスは多くのことを達成してきた。女性が公の場でスポーツをすることが最近まで禁じられていたサウジアラビアでは、女性だけの5キロレースを史上初めて開催。ポーランドの「adidas Runners」のメンバーは、それぞれのコミュニティで人気のルートの照明設備を改善する請願書を作成し、自治体に提出した。そのほかにも、女性ランナーの悩みにフォーカスしたランニングセッションや男性ランナーとのパネルディスカッション、護身術のワークショップなど、世界各地でこれまでに1,700以上ものイベントを開催している。より安全でインクルーシブなランニングカルチャーを目指すアディダスの活動に、今後も期待が高まる。