「To hell with war(戦争なんて地獄へ落ちろ)」――コム デ ギャルソン・オム プリュスの2025-26年秋冬のプレゼンテーションで、川久保怜さんはストレートな反戦のメッセージを掲げ、観客の心を揺さぶった。ショーに登場したのは、あらゆる時代の軍服を解体したミリタリールックの数々。まっすぐに伸びるランウェイを闊歩するモデルたちの姿は、「戦争になんて行くものか」という抵抗の意思を示すものだった。
イタリアでの挫折を経て、帽子作りが生きがいに
「帽子デザイナーになったのは運命」。日爪さんはこれまでのキャリアを振り返ってそう話す。
文化服装学院で洋服のデザインを学ぶ傍ら、さまざまなコンテストに入賞し、在学中から頭角を現していた。卒業後はイタリアのメーカーに誘われ、アンダーウェアのデザイナーとして自身のブランドを始動。順調なすべり出しのように思えるが、前途洋々とはいかず、1年ほどでメーカーとの契約が終了した。その後ファッションデザイナーとしての能力を試すべく、パリに渡って仕事を探したが、簡単には見つからなかった。誰よりも努力してきた自負があったが、それでもプロの世界の厳しさを痛感した。
フランス版人間国宝としての誇り。最高峰の技術を後世に伝えるために
帽子デザイナーとしての才能が開花すると、2009年に文化庁の新進芸術家海外研修制度に選出され、再びパリ行きのチャンスを掴み取る。クチュールメゾンのヘッドピースを制作する世界屈指のアトリエで研鑽を積み、たどり着いたのは、「最高の帽子デザイナーは最高の帽子職人でもある」という揺るぎない哲学だった。
「今のファッション業界は分業化されてしまいましたが、20世紀に偉業を成し遂げたクリストバル・バレンシアガやマドレーヌ・ヴィオネは、優れたデザイナーであると同時に一流の職人でもありました。僕はそれまで独学で自由に帽子を作ってきたけれど、世界で認められる存在になるためには本流を身につけなければならないと確信したんです。そこで、独立するまでにフランスの最優秀職人の称号であるM.O.F.を絶対に取得しようと決めました」
夢は全人類に帽子をかぶせること
最高峰のものを生み出すM.O.F.として、帽子の可能性を示していきたい。2019年に長年支えてもらったアトリエから独立し、自身のハットブランドであるHIZUMEを立ち上げた。
「全人類の頭に帽子をかぶせる」。荒唐無稽にも思えるような未来だが、自分のエゴよりも課せられた使命を優先し、限界を超える力を発揮し続けてきた日爪さんだからこそ描ける景色なのだろう。実直にものづくりに向き合ってきた彼にしか作れない帽子が、この世の誰かを感動させ、ひいては争いごとをひとつ終わらせることができるかもしれない。それはきっと、混迷の時代を生きる私たちに希望を与えてくれる、魔法の杖のような存在だ。
1979年生まれ、滋賀県出身。2004年に文化服装学院を主席で卒業後、イタリアでファッションデザイナーとしての経験を積む。帰国後、ミュージカル『ボーイ・フロム・オズ』でヘッドピースのデザインチーフに抜擢され、帽子作りを始める。2009年に、文化庁の海外研修制度により渡仏。数多くのクチュールメゾンの帽子制作を担当し、2019年5月に日本人として初めて国家最優秀職人章(Meilleur Ouvrier de France)を帽子職人部門で受賞。同年に独立し、自身のブランド「HIZUME」をスタート。






