2026.01.29

佐賀県から美しい海を取り戻す。海洋プラスチックの新拠点【PLA PLA】開業へ

九州北部に位置する、佐賀県唐津市の波戸岬。ここは、日本渚百選に認定された景勝地である一方、海流や季節風を通じて、大量のプラスチックごみが流れ着く場所でもある。今や地球規模での緊急課題となっている海洋プラスチック問題の解決を目指し、2026年6月にこの地に開業するのが、世界海洋プラスチックプランニングセンター(通称:PLA PLA)だ。世界でも珍しい海洋プラスチック専門拠点とは、どんな施設なのだろうか。本記事で詳しく紹介する。

​​海洋プラスチックごみのホットスポット。九州北部沿岸地域の現状

大量のプラスチックごみが漂着する、冬場の佐賀県唐津市波戸岬の海岸

さまざまなプラスチックごみが漂着する、冬場の波戸岬の海岸

地球上の海にすでに存在しているといわれるプラスチック量は、およそ1億5,000万トン。加えて年間約800万トンが、新たに海洋に流出していると推定されている。将来的にプラスチックの生産量はさらに増加することが予測され、2050年には海洋プラスチックの重量が海にいる魚の重量を超えるという試算もある。(1)

日本沿岸で回収される漂着物は年間約3万〜5万トンにおよび、大半はペットボトルや漁網などのプラスチック類が占める。日本近海でのマイクロプラスチック(波や紫外線などの影響で劣化し、細かくなったプラスチック)の濃度は、世界平均の27倍に相当するという調査結果もある。(2)

日本近海の海流の図

玄界灘に面した佐賀県北部の沿岸には、毎年大量の海洋プラスチックが押し寄せる。漂着するものは、漁具やペットボトル、ポリ袋、ポリタンク、医療廃棄物など多岐にわたる。県によると、北西から吹く季節風や対馬海流の影響により、冬場は特に周辺国から排出されたと思われる漂着物が多く見受けられるという。(3)

これらの海岸漂着物は、九州北部沿岸一帯で広く確認されている。北九州市の調査では、漂着した一部のポリタンクの中には、強酸性や強アルカリ性、引火性廃油などの有毒な液体が残っていたものもあったと報告されている。(4)ポリタンクの漂着について、佐賀県県民環境部脱炭素社会推進課の井上俊さんは、「キャップがしまっているものは、内容物が海水で希釈されずに残っている場合もあり、回収に躊躇することもある」と述べている。

いくら回収してもごみは増えるばかり。問題解決を目指し、PLA PLA構想実現へ

一度流出した海洋プラスチックは自然に分解されることがなく、数百年以上もの間、自然界に残り続けると考えられている。海流を漂い、海底や沿岸部に蓄積し続ける海洋プラスチックごみは、生態系や水産業、観光資源など、さまざまな分野に深刻な影響を及ぼしている。

こうした状況の中、県民の環境保全意識の向上を目指し、2017年に佐賀県で立ち上がったのが「森川海人っプロジェクト」だった。県民が自然を体験し学ぶための機会創出や、森川海で活動する個人や団体のネットワークづくりを主な趣旨とし、地域住民とともにビーチクリーンや海洋ごみ専用回収箱(拾い箱)の設置などに取り組んできた。唐津市では、2022年 8 月から海岸の2ヵ所に拾い箱を設置。周辺住民や来訪者の協力により、2022年度は17,610ℓの海洋漂着物を回収した。(2)

波戸岬ビーチクリーンアップの様子

佐賀県職員有志により始まった「波戸岬ビーチクリーンアップ」活動。地元唐津市をはじめとする関係団体の協力を得て、2024年までに合計6回実施されてきた

しかし、拾っても拾っても海洋プラスチックごみが減ることはない。漂着物は、自治体をはじめ漁業者やボランティア団体により回収・処分がなされているが、いくら清掃活動を繰り返してもまた打ち上げられるため、いたちごっこだ。十分な予算措置や体制がとられていないこともあり、抜本的改善には至らず、地域の活動だけで解決するには限界があった。

波戸岬に設置された拾い箱

波戸岬に設置された拾い箱

転機となったのは2022年。「流れ着く海洋プラスチックを資源として捉え、より世界的な視野で問題解決を目指し、発信する場をつくりたい」という県職員の提案をきっかけに、PLA PLA構想は具体化の動きを見せていった。事業経費として約6億円の財源が確保されたことを受け、2024年から本格的な整備に乗り出した。

「展示」「再生」「体験」の3つの機能を持つ、海洋プラスチック専門拠点

PLA PLA構想は、ついに実現することになった。多くの海洋プラスチックごみが漂着する唐津市の波戸岬エリアに、2026年6月に開業する。海洋プラスチックの回収から再生までを体験し、学びを深め、問題解決に向けて行動変容を促せるような啓発拠点に育てていく。

世界海洋プラスチックプランニングセンター(PLA PLA)のイメージ

PLA PLAには、「展示」、「再生」、「体験」の3つの機能を設ける。エントランス周辺では、海洋プラスチックの発生メカニズムや漂着する過程、生態系に与える影響などについて、パネルや映像を通じて来場者が体系的に学べる内容を展示する。県によると、大学や研究機関と連携し、海洋プラスチック研究の最新情報にも触れることができるように準備を進めているという。

展示エリアには、実際に回収された海洋プラスチックを、雨水を活用して洗浄するスペースも設けられる。臭いや見栄えの問題が懸念されるものの、回収やリサイクルが困難な海洋プラスチックのありのままを伝えつつ、そもそも海洋に流出させないことが一番だと来場者に訴えることが狙いだ。

施設内には、回収した海洋プラスチックのアップサイクル工程を見学できる再生ラボを設置する。ほかにも、漂着した海洋プラスチックを回収するフィールドワークや、海洋プラスチックを原料にものづくりをするワークショップなど、PLA PLAを拠点にさまざまな体験を提供していく。

海洋プラスチックをアップサイクルした建物を、地域のシンボルに

世界海洋プラスチックプランニングセンター(PLA PLA)の外観イメージ

PLA PLAは、波戸岬海浜公園内にある築約50年の休憩所をリノベーション・増築して設置される。環境に配慮した施設として、唐津玄海エリアの振興を図り、地域のシンボルとなることを目指す。

世界海洋プラスチックプランニングセンター(PLA PLA)の屋外スペースのイメージ

建物には、回収された海洋プラスチックを用いることが必須条件となった。半屋外スペースの屋根の裏側には、色とりどりの再生プラスチックパネルを使用。蛇籠(じゃかご)で組まれた生垣には、沿岸に漂着した浮標(ブイ)などを詰め、「プラ垣」として配置される。

佐賀県産の木材を使って増築される新棟には、屋根一体型の太陽光パネルを設置し、施設内の電力の脱炭素化を図る。断熱性能の高いガラスや高効率の空調整備も加わり、佐賀県内の公共施設では初となる「ネットゼロ・エネルギー・ビルディング」(年間の一次エネルギー使用量が正味ゼロまたはマイナスの建築物)の認証を取得した。

さまざまな団体と連携し、持続的な国際協力を視野に

「海洋環境国際シンポジウム みんなの海 国際会議 vol.1」の様子

2025年10月に開催された「海洋環境国際シンポジウム みんなの海 国際会議 vol.1」の様子

6月のオープンに先駆けて、佐賀県はPLA PLAの機運醸成や体験の蓄積を目的としたプレ事業を積極的に行っている。2025年には、唐津玄海エリアの海洋プラスチック問題の現状や佐賀県の取り組みを世界に発信し、国内外の関係者とのネットワークを構築するための国際シンポジウムを2度にわたって開催。ほかにも、外国人技能実習生とともに海洋プラスチック問題を考える国際交流プログラムを実施するなど、多様な団体と連携した取り組みや発信を進めている。

PLA PLAのような海洋プラスチックに特化した啓発施設は、世界的に見てもほかに類例がない。井上さんは、「これからPLA PLAの運営を行っていくなかで、識見やノウハウを蓄積していき、将来的には諸外国との国際協力を視野に入れていきたい」と意気込む。

2025年8月、プラスチック汚染防止条約の策定を目指し、スイス・ジュネーブで政府間交渉委員会の会合が開かれていたが、合意は見送られ、交渉は継続となった。海洋プラスチック問題は喫緊の課題であるにもかかわらず、世界の足並みを揃えるのは容易ではない。

PLA PLAという愛称には、世界中の人たちが“プラ”っと気軽に立ち寄ることができ、海洋プラスチック問題解決に向けてアクション(planning)を起こすことができる施設になるようにという思いが込められている。地球全体が解決策を問われている今、日本の一地域から国際的な問題提起を行うPLA PLAの発展に大いに期待したい。

(1)環境省 令和2年版 環境・循環型社会・生物多様性白書
https://www.env.go.jp/policy/hakusyo/r02/html/hj20010103.html

(2)佐賀県(2025)原子力発電施設立地地域共生交付金交付規則 第3条第3項の規定に基づく地域振興計画書
https://www.pref.saga.lg.jp/kiji003105649/3_105649_351973_up_njld8m7l.pdf

(3)佐賀県(2025) 佐賀県海岸漂着物対策推進地域計画
https://www.pref.saga.lg.jp/kiji00352458/3_52458_367947_up_2no2qav5.pdf

(4)北九州市(2025)海岸などに漂着する廃棄物への注意について
https://www.city.kitakyushu.lg.jp/contents/924_10538.html

世界海洋プラスチックプランニングセンター【PLA PLA】
世界海洋プラスチックプランニングセンターの画像_9

2026年6月開業予定
住所:佐賀県唐津市鎮西町波戸