ありたい社会のために。いま、選択的夫婦別姓を考える PART 3

ジェンダー平等への機運が高まるにつれ、近年さらに活発化している「選択的夫婦別姓」についての議論。より理解を深めるために現状や歴史を参照しつつ、鼎談やインタビューを 通して、"結婚"にまつわる未来のあり方をじっくり考えてみたい

 

PART 3  異なる立場から話してみよう

法律婚の夫と娘と暮らす犬山紙子さんと最近事実婚したharu.さん、同性のパートナーがいる松岡宗嗣さん。まったく異なる立場の3人で「選択的夫婦別姓」について話してみると、この問題の本質が見えてきた

(右から)
松岡宗嗣さん
まつおか そうし●1994年、愛知県生まれ。政策や法制度を中心とした、LGBTに関する情報を発信する一般社団法人fair代表理事。著書に『LGBTとハラスメント』(集英社)がある。

犬山紙子さん
いぬやま かみこ●1981年、大阪府生まれのイラストエッセイスト。コメンテーターとしても活躍。近著に『すべての夫婦には問題があり、すべての問題には解決策がある』(扶桑社)。

haru.さん
はる●1995年生まれ。東京藝術大学在学中にインディペンデントマガジン『HIGH(er)magazine』を創刊。2019年6月に株式会社HUGを設立。2020年春、パートナーとの事実婚を発表した。

 

“選択できないことで直面する困難”を、見過ごしたくない

haru.さん(以下H) 私たち、初めは法律婚も考えていたんです。でもお互いに「女性が男性側の氏を名乗るのが普通なのはどうして?」という疑問が拭えず、相手が私の姓になる話も出たのですが「そもそも変えなくていいんじゃない?」という結論に。
犬山紙子さん(以下I) それに尽きますよね。私は夫の“劔”という姓を「かっこいい!」と思っちゃって(笑)。あとはペンネームで仕事をしているからキャリアが分断される心配もなかった。でもいざ改姓したら、手続きが本当に煩雑でした。
松岡宗嗣さん(以下M)  私はパートナーが同性なので、そもそも結婚ができませんし、この制度について当事者意識を持ってきちんと考えてこなかったかもしれません。でも改めて考えてみるとやはり「姓は違っていいよね」という考えに至りました。これまで家賃負担や家事分担も当たり前に平等でやってきたので、そこでどちらかが不平等に何かを負担するというイメージがまったくわかなかったんですね。
H どちらかだけの負担が増えるのは違和感があります。いまのパートナーとは大学時代から友人で、「男性がおごるのが当たり前、というのは変だよね」とか当時からよくジェンダーロールについて話していたんです。関係性が“夫婦”に変わるときも、お互いの問題として話し合えたのはよかったですね。
I 大事ですよね。一方が改姓することについて、結婚時に話し合えている夫婦ばかりじゃないのかもしれない。
M 現在も制度上はどちらが変えるのも変えないのも平等に権利が与えられているはずなのに、女性が改姓する割合が圧倒的多数なのが、ジェンダーの不平等を如実に表していますよね。これが、「結婚したら妻の姓」というルールだったら数カ月後には選択的夫婦別姓が承認されるんじゃないかな。
I そう思います(苦笑)。


M 別姓を強制される制度じゃないのに反対派がいる現状を鑑みても、まずは選択的夫婦別姓が承認されないと、同じく多様な家族のあり方を尊重するための同性婚が認められるのはまた遠い話なのかなと思ってしまいます。
H そうですよね。そもそも姓だけではなく、いまの異性間でのパートナーシップを前提とした法律だと、自分が望む形の結婚を選択できない人がたくさんいるんですよね。同性愛者もそうですし、トランスジェンダーも場合によっては結婚できないですから。私たちはパートナーと一緒に生きて、お互い支え合っていく努力をする約束がしたいだけなのに……。
I 法律婚って、さまざまな補償が使えるようになる安心パックのようなものだと思っているんですよ。それがすべての人に開かれていないのがおかしい。
H 私も相手が異性だからその安心パックを受け取ることはできるんだけど、私たちが事実婚したのは「すべての人がその権利を獲得できるようになるまで一緒に走る」というスタンスの表明のような気持ちも個人的にはあります。もちろん法律婚を選んでいる犬山さんたちを否定するわけではないですよ。
I この安心パックには、「子どもを産んでください。それが正しい家族です」という考えがチラチラ見えることがあって。でも家族に正しい形も何もないです。私はパートナーが異性で子どももいるからこのパックを支えているけれど、国家が規定している“正しい家族の形”に乗っかっているような居心地の悪さもありますね。
H 犬山さんにそう思わせてしまうことも、みんなが選択できるようになれば必要なくなるのになぁ。
M “選択できないことで困難に直面している人”がいるのが明白でありながら、選択させたくないと考えている反対派は、自分たちが望む社会の秩序や規範が乱れる不安を抱えているのだと思いますね。女性も生まれた子どももみんな父親の姓を名乗ることで、家族が結ばれるイメージを持っていたり……。
I 家族の絆は互いの選択を尊重するほうが深まる気もしますが……。でも、考えが違う人が上司だったり、反対意見を述べにくいことも現実にありますよね。ただそれで言えない自分を責めないでほしい。
H 親戚が理解してくれないという人も多いだろうし、難しいですね。
I 私は児童虐待防止の運動をやっているんです。虐待ゼロを実現するための手段は思想によって異なることもあるけれど、基本的な倫理観として「虐待はだめ」という意見はどの思想の人でも同じ気持ちで一致する。先ほど松岡さんがおっしゃったように「“選択できないことで困難に直面している人”がいる状態はよくないよね」というところでみんなの意見が一致しないもんかと思ってしまいますね。
M そうですね。選択的夫婦別姓が承認されることは、シスジェンダーやヘテロセクシャルの男性が中心のいまの社会を変えていくための入り口のような気がしています。
H あらゆる社会問題において、マイノリティ側の人ばかりが勇気を出して声を上げなくてはいけない現状に、負い目を感じていました。関わる人が多いこのテーマをきっかけに当事者意識を持つ人が増えることを願います。

SOURCE:SPUR 2021年7月号「ありたい社会のために いま、選択的夫婦別姓を考える」
interview & text: Rio Hirai illustration: Aki Ishibashi

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