A 相対的貧困の状態にある17歳以下の子どものこと。貧困とは子どもが属している世帯の経済状況が厳しいことを指します。生きるために最低限必要な「衣食住」が満たされない=絶対的貧困を思い浮かべるかもしれませんが、日本では、国際比較にも用いられる相対的貧困率で計測します。相対的貧困率は、国の等価可処分所得の中央値に満たない状態で、2018年に厚生労働省が発表した貧困線は、親一人子ども一人の2人世帯の場合、可処分所得が約175万円未満とされています。
Q2.貧困世帯の子どもはどのような状態ですか?
A 貧困世帯で育つ子どもは、多くの人が享受する"普通"の生活を営むことができません。栄養バランスの取れた食事ができない、適切な医療を受けられない、進学を諦めなくてはいけない。家事やアルバイトに追われて友達と遊んだり、部活動に参加する機会がなかったり、とさまざまな不足が生じます。ただ、日本では服や食べ物が格安で手に入り、親との連絡手段としてスマートフォンを所持している場合が多く、一見すると普通の家庭の子どもと変わらないので、貧困が見えづらいという現状があります。
Q3.子どもが貧困に陥る原因は?
A まず、親(子どもが属している世帯)の雇用の劣化が挙げられます。仕事をしていない人、非正規雇用者が増えているだけでなく、正規労働者、自営業者の経済状況も悪くなっています。また、家族構成が変化し、ひとり親家庭(未婚、離婚)が増加していることも指摘されています。2015年の国民生活基礎調査によると、日本のひとり親家庭の相対的貧困率は50.8%で、諸外国と比較しても母子家庭の貧困率が高い。それは女性のひとり親の就労の難しさと低賃金に原因があります。親が働きすぎによって体を壊してしまったり、精神的なダメージを受けていたりと働きたくても働けないケースも少なくありません。
A 日本では1980年代から景気の変動による増減はあるものの、子どもの貧困率は上昇しています。2018年の時点で、約7人に1人の子どもが貧困状態にあると言われており、人口にすると約255万人。これはOECD加盟国の中でも高い水準です。先進諸国の中では、福祉が充実しているフィンランドやデンマークは子どもの貧困率が低い結果が出ています。イギリスは2008年当時、貧困率がとても高かったのですが、ブレア元首相が「2020年までに子どもの貧困を撲滅する」として、多くの政策を打ち出し、無償給食や児童特別補助の実施、親の就業支援、就業促進のための育児支援、住居のサポートなどさまざまな手当てがなされ、2014年の計測時に一時改善。ただし、保守党に政権が戻ってからは、子どもの貧困率が徐々に上がっています。
Q5.子どもの貧困の問題点、社会に与える損失は?
A 貧困家庭で育つ子どもは十分な教育が受けられず、知識や技術を得られないため、就職の選択肢が大きく狭まります。すると、不安定で低賃金の非正規雇用や働きたくても働けない人が増え、国の税収減にもつながります。少子高齢化により労働人口が少なくなってきている日本で、子どもの約7人に1人が貧困であることは、経済的に大きな損失になります。また、貧困状態にある人は結婚率も低いので、少子化にも影響が。社会全体で子どもを支え、本来のポテンシャルを最大限に活かすことができれば、彼らが将来画期的な発明をしたり、新しい産業を生み出すなど経済活動にいい影響を与えるでしょう。そうした可能性を失ってしまうのは日本社会にとってとても大きな損失だと思います。
Learning for All 辻 珠美さん profile つじ たまみ●東京大学法学部卒業。在学時、Learning for All(LFA)に参画。大学卒業後、組織時事コンサルティング企業を経てLFAへ復帰した。現在は経営管理事業部の事業部長を務める。
無償の学習支援や子ども食堂を運営するだけでなく、全国にある子ども支援団体にノウハウを共有して活動をサポートしたり、国に課題啓発を行い、制度や仕組みの見直しを促すNPO団体、Learning for All(LFA)。辻珠美さんはボランティアとしてLFAに参加したのち、一般企業に就職。その後、再びLFAに戻ってきた。「私が学生の頃、NPO法人は黎明期で、多くの団体は財政基盤が安定しておらず、有志のやりがいが搾取されやすい環境でした。支援する側に負担がかかれば活動持続は難しい。人々のスキルやポテンシャルを最大化するため、組織づくりや人材開発のコンサルティング会社で経験を積むことに」。現在は前職の知見を活かし、採用や育成体系の整備などを行いながら、よりよい環境づくりに励んでいる。