今回の参院選の女性立候補者数は過去最多の181人。全候補者数545人に占める女性の比率が初めて3割を超えた。そのうち35人が当選。2016年、’19年の参院選に当選した女性候補者28人を上回り、こちらも過去最多だ。これによって、全当選者数に占める割合は28%に。政党別で見ると、候補者の女性比率が高かったのは、共産党の55.2%。立憲民主党の51%、社民党の41.7%。自民党は23.2%、主な政党の中で最低は公明党で20.8%にとどまった。
参議院議員通常選挙における候補者、当選者に占める女性の割合の推移
今回の参院選で過去最多の女性議員が誕生したが、衆議院の女性の数は46人で、比率は9.9%。参議院議員と合わせても、国会全体における女性議員が占める数は712人中110人、その割合は15.4%と2割にも満たない。日本国内の有権者の女性の割合は約52%。政界のジェンダーギャップがいかに深刻かわかる結果に。
世界の中での女性議員の比率、日本は、190カ国中166位
内閣府男女共同参画府の統計によると、日本の女性議員の比率は190カ国中166位。日本は国際標準には程遠いのが実情だ。
※出典2:「女性活躍・男女共同参画の現状と課題」(内閣府)(https://www.gender.go.jp/research/pdf/joseikatsuyaku_kadai.pdf)
政治の世界で男女平等を実現するために
今年の参院選の期間中、SNSを中心に広がった「#女性に投票チャレンジ」は、比例代表の投票用紙に女性候補の名前を書こうと呼びかけたプロジェクト。その発起人の一人が、天野妙さんだ。
「有権者の半数は女性なのに、政治の場にあまりにも少ない。女性は育児や介護を担うことが多いですが、そうした生活実感を持つ人が国政にいないため、ジェンダー的に偏った法案や制約が作られてしまう。女性のリアルな悩みを理解してくれる人を一人でも多く国会へ送ることで、私たちの生活が少しでも改善できるはず。参院選に関しては、比例代表は政党名しか書けないと思い込んでいる人が多いと知り、自分たちに近い考えの女性候補者を書こうと呼びかければ、ジェンダー・ギャップの深刻な国政を少しでも変えられるのではと思いました」
ただし、女性候補者であれば全員応援する、というわけではない。事前に候補者にアンケートを送り、選択的夫婦別姓、性交同意年齢の引き上げ、緊急避妊薬の薬局での販売の3つの質問に賛成と回答した人を紹介するフィルターをかけた。候補者選びがしやすくなったという肯定的な意見がある一方で、〝性別関係なく選ぶべき〟といった意見や特定の政党に対する拒否反応もあったそうだ。
「同じ政党にいる候補者でも、考え方のグラデーションはあります。大事なのは政党ではなく、候補者自身を見ること。私たちは事前アンケートすべてに賛成ではなかった候補者も番外編として紹介していますが、それは〝○○党に所属しているから××だろう〟と憶測で決めてほしくなかったから。候補者の政策も大切だが、その政党でどのような働きをしてくれるかも重要な要素。どういう視点で候補者を選ぶのか、次の選挙でぜひ生かしてほしいです」
政治学者
三浦まりさん
みうら まり●上智大学法学部教授。専門は現代日本政治論、福祉国家論、ジェンダーと政治。政治分野における男女共同参画推進法の成立に尽力。「パリテ・アカデミー」共同代表。
政治における男女平等の実現は、地道な一進一退の繰り返し
女性議員の当選者数が過去最多となった今回の参院選。ジェンダー平等な政治の実現に向けて活動を続けてきた、研究者の三浦まりさんはどう見るのか。
「日本のジェンダー・ギャップ指数は166位と国際的に立ち遅れている状況で、それを改善していくためにも政治における女性の参画は不可欠です。2018年、『政治分野における男女共同参画の推進に関する法律』が成立し、国内でも女性議員を増やそうという気運が高まっていました。ところが、昨年の衆議院選挙では女性議員が2名減ってしまった。増えるとしてもわずかだろうと予想していましたが、まさか減るとは、と衝撃が走りました。各党がこの事態を重く受け止め、今回の参院選で女性候補者擁立の数値目標を掲げたんです。立民、共産は全体の5割、これまで女性候補者の擁立に後ろ向きだった自民党も今回初めて比例代表で3割という数値を掲げた。これが大きく影響を与えたと思います。結果的に参議院議員の女性当選者の割合は25%を超えましたが、これで安心ではありません。他国を見ても、一直線に女性議員が増えるということはなく、時には退行を経ながら段階的に増えていきます。大事なのは、女性の議員数が減ったとき、市民が各政党に対してプレッシャーをかけ続けること。〝どうして女性の候補が少ないんですか〟と訴えることが力になります。日本の政治は他国に比べて優に30年は遅れています。諦めずに20年、30年と腰を据えて、声を上げ続けることでようやく日本の政治は先進国並みに追いつけるのです」
各国で導入されるクオータ制の導入こそ女性議員増のカギ
日本における女性議員の少なさは、家父長制的な価値観によるもの、と三浦さんは指摘する。
「いまだに〝女は政治に口を出すな〟という価値観が根強いですよね。でも、日本よりもマッチョイズムが濃いラテンアメリカでは、女性の政治参画において世界最先端を行っています。ここで参考になるのは、〝クオータ制〟の導入。候補者、または議席に対して女性もしくは男女双方を一定割合で割り当てる制度で、世界129カ国で何らかのクオータ制が実施されています。フランスでは男女同数の政治参画を規定した〝パリテ法〟を制定していたり、韓国や台湾、アフリカ諸国でも法律でクオータ制を導入しています。日本はクオータ制導入にいまだ至らず、その結果他国との差が開いてしまった。そもそもどうしてクオータ制が必要なのかといえば、女性が政治に参画するには多くの障壁があり、それを一つずつ解決していくにはあまりに時間がかかるためです。まずは枠を設けて女性議員を増やし、その後に障壁を除去していくほうが早く結果が出ると考えられます。
日本で女性議員が少ない理由の一つに、政権交代など政党間の競争がなく、新陳代謝が進まないことが挙げられます。今の国政は男性の現職が多く、女性の新人候補者が出馬できる余地があまりに少ない。そして、政党が新たな候補者をリクルートしようとしても、その意思決定の場には男性しかおらず、候補者探しも地方議員や官僚出身者など男性ばかりで、同性に偏ってしまいがちです。クオータ制もしくは数値目標を設定すれば、各政党は必死になって女性候補者を探すので、女性の政界進出が進みます。また、女性が政治に参画しやすいよう、環境整備も合わせて行うことが重要です。たとえば選挙期間中は、朝8時から夜8時まで長時間にわたって、街頭演説をし、支援者のところを回り、夜の宴会をいくつもハシゴしなくては票が積み上がっていかない仕組み。そうした旧時代的なやり方は個人の負担が重すぎますし、そもそも能力とは関係がないところで勝敗が決まってしまう。それよりも、選挙に行かない層の関心を高めて、眠っている票を掘り起こしたほうがいいでしょう。また、議員になったとしても現在の働き方では、家族など他者の協力がないとなかなか難しい。産休期間の明文化、授乳室の配置、現場視察で子どもの同伴を認めるなど、子育てしながら政治活動ができる体制を整えることも不可欠です」
日常のモヤモヤが政治に起因することも電話一本で声を届けて
2023年には、統一地方選挙が予定されているが有権者にできることは何か聞いてみた。
「住んでいる街の政党事務所や現職議員に〝次の選挙では女性候補は何人出ますか?〟と電話をするだけでも大きな効果があります。私たちが声を上げなければ〝このままでいいんだ〟と思われてしまう。市民が関心の高さを示せば、政党は女性候補者の擁立に向けて必ず動きます。自分が持つ権利をぜひ行使してください。今の国会は特権的立場の男性があまりに多く、多様性がない。少子化対策や教育、社会保障などの政策もピンボケになってしまっています。育児や介護、非正規雇用の経験がある女性が国政に入ることで、社会に根ざした使い勝手のいい政策が生まれます。女性議員が増えても発言をさせてもらえない、発言しても叩かれる、そんなふうに虐げられる姿を目にすることもあるかもしれません。でも、他国でもその局面を乗り越えて今がある。女性が叩かれるのをある程度覚悟した上で、私たちは女性候補者や議員が孤立しないようみんなで連帯しながら前に進んでいくことが大切です」
KIYOMI TSUJIMOTO / 辻元清美議員
「女性の活躍こそ、社会の経済成長につながる」
20年以上にわたって衆議院議員として活躍するも、昨年の選挙でまさかの落選。一度途絶えた国政の道に、今年"新人"参議院議員としてカムバックした辻元さん。「落選には本当に落ち込みました。ただ、全国から"国会に辻元さんがいないのは寂しい。次の衆院選を待たずに、参院選に挑んでほしい"と声援をいただき、出馬を決意しました」
挑戦するからには、生まれ変わった姿を見てもらいたい。街頭演説では、白シャツやTシャツなどカジュアルなスタイルで立ち、"新・辻元清美"をアピール。「形から入らないとね(笑)。今回の選挙は若い女性ボランティアもたくさん協力してくれました。彼女らとさまざまな意見を交わす中で、私自身も刺激を受けました。私の政策の大きな柱は女性が活躍できる社会づくり。今、日本が直面している少子化や経済の長期低迷は、育児や介護などの負担が女性にかかりすぎているのが一因。女性の負担をサポートする仕組みや、正社員になれる制度などを整え、女性の収入がアップすれば消費が活性化し、経済も成長する。女性が抱える問題を解決することで、日本の閉塞感を打破できると思います」
ただし、国政の中には意見の違う議員もいる。実現に向けてどう働きかけるのか。「私は以前から、超党派の議員連盟活動を行なってきました。NPO法、DV禁止法など、政党を超えて議員が協力して新しい法律を成立させてきた経験があるので、同じように政党を超えて、立法を目指したい。また、自民党の野田聖子議員とクオータ制実現に向けても動いています」
衆議院と違って、参議院の任期は6年。活動内容も中長期的な視野で活動していきたい、と話す。「今回の選挙で全国行脚するうちに地方の厳しい現実がたくさん見えてきました。特に食料自給率の低さは、大きな課題です。今後は各地域のソーシャルビジネスを行う方々をつないで、活動を支えたい。全国にある点を線で結ぶ活動ができるのも参議院議員の強みだと思います」
Q&A
趣味:
断捨離。必要最低限のものだけでシンプルに生きたい。勝手に物を捨てるので秘書たちに怒られますが(笑)。
好きな食べ物:
国会議事堂内にある国会中央食堂の「国会カレー」。和牛と玉ねぎを長時間煮込んだ真っ黒なルーが特徴です。
推している人やモノ:
ヒョンビン。かっこいいですよね〜。原宿で開催された『愛の不時着展』ではカレンダーを購入しました!
勝負服:
エンポリオ アルマーニのグレーのスーツ。選挙のときは、Acne Studiosの白シャツが定番でした。
RIO TOMONOH / 友納理緒議員
「看護の現場を女性が働きやすい職場のモデルケースに」
看護師と弁護士、二つの顔を持つ友納理緒さん。「看護の現場で医療事故が起きると、患者と医療機関側が対立し、裁判になるケースがある。現場を知る者として医療従事者を支えたいと思い、弁護士を志しました。トラブルの原因を探っていくと、過酷な労働環境の中で疲労がたまり、ミスを犯すケースが多い。事故をゼロにはできなくても、看護師が安心して働ける環境を整える法律や制度が必要だと思い、立法の世界に踏み出すことにしました」
初の選挙では、自民党からの出馬を決意。「公約を掲げるだけではなく、実行することが大事。法案や政策は多数決で決まりますから、政権与党である自民党に所属することがベストだと思いました。また、党内はいろんな分野のスペシャリストがいるので、多様な意見をもらえることも心強く思っています」
専門知識や現場の声を知る者として、看護医療の環境の改善に尽くしたい、と友納さん。今、最も力を入れている政策は看護師の処遇改善、保育体制の見直しだ。「コロナ禍で、医療の就業環境はいっそう過酷になりました。夜勤回数や総労働時間の短縮など、働き方を適切なものに変えたい。また、現在の医療現場では出産・育児といった女性のライフイベントとの両立が難しい。子どもを預けることを諦めて、仕事を制限している女性も少なくありません。働きながら安心して子どもを育てられる病後児保育や学童などの受け皿となる場所を増やしたいです」
友納さん自身も2人の子を持つ母親。子育てをしながら働く厳しさは、政界にも共通している。「選挙戦は朝8時から夜8時。地方での選挙活動を終えて家に帰るのは深夜で、子どもとふれ合う時間はほぼありません。議員になってからも、党の勉強会が朝8時からで、保育園に預けてからでは間に合わない。女性が国政の場で活躍するためには形式的ではなく、実質的な平等が必要。男性がつくった政治のやり方に女性が合わせれば必ず無理が生じる。選挙のやり方も政治活動も改善して、子育てをしながら政治ができる体制をつくりたいです」
Q&A
趣味:
皇居ラン。信号で止まらず5㎞走れるのが気持ちいいです。走るのがつらいときは、ほぼ歩いています(笑)。
好きな食べ物:
蕎麦。司法修習生の頃、岩手県盛岡市で過ごしました。わんこそばの最高記録は66杯です。
推している人やモノ:
「看護の日」のキャラクター、かんごちゃん。ハローキティとのコラボグッズもあるんですよ。
勝負服:
イメージカラーがレモンイエローなので、洋服を選ぶときはレモンイエローを入れるように意識しています。
MAKIKO DOGOMI / 堂込麻紀子議員
「絶対的リーダーを目指すより、市民のみなさんと一緒に社会を変えていきたい」
「まさか自分が国会議員になるとは」。そう話すのは、茨城選挙区で初当選を果たした堂込麻紀子さん。婦人服売り場の店員を経て、労働組合の役員に。14年間、生活者と働き手の両方の視点から、職場の課題解決に向けて取り組んできた。「働き手のさまざまな悩みを聞く中で、職場や家庭だけでは解決できない分野があると気づきました。根本的な解決に向けて法律や制度を変える必要があると思い、国政を目指すことに。メインの政策は働き手の課題解決。中でも、まず取り組みたいのは賃上げです。正規雇用だけでなく、パートやアルバイト、非正規雇用の賃金を上げていきたい」
また、配偶者扶養控除の制度見直しも必須だと語る。「既婚女性の中には配偶者控除を受けるため、所得税がかからない範囲で働かざるを得ない人は少なくありません。もっと働きたい、キャリアアップしたいと思っても、賃金が上がる分、働く時間を減らしたり、職場選びや働き方を考えなくてはいけない。法律に縛られて、才能を発揮できない女性が多くいるんです。以前から問題視されていましたが、なかなか改善が進まないのは、やはり政治の世界に当事者が少なかったから。私には働く女性の仲間がたくさんいるからこそ、彼女たちの思いを国政に反映したい。また、更年期障害も含めて女性のライフステージに合わせた、キャリア設計をサポートする政策や制度にも注力したいです」
そして、女性の力はもっと政界に必要、と続ける。「これまで政治家は強いリーダーでなければいけないと思われていました。でも、そうじゃない。私はみなさんと同じ目線で一緒に課題を解決する"庶民派"の政治家でありたい。日々の生活で精一杯で、声を上げられない人もいる。そういう人こそ政治が手当てをするべき。
"困ったことがあれば言ってください"ではなくて、こちらから積極的に当事者と接する機会を設けて問題を可視化していくべき。だからこそ、同じ目線に立って、声を聞くことが大事だと思っています」
Q&A
趣味:
食べ歩き。自然も大好きなので散歩もよくします。おすすめスポットは"西の富士"とも呼ばれる筑波山。
好きな食べ物:
餃子と豚汁、茨城県が生産量日本一を誇る蓮根を使った料理。霞ケ浦湖畔に広がる蓮の田んぼは絶景です!
推している人やモノ:
大谷翔平選手、King Gnuの井口理さん。お二人とも才能はもちろんのこと、努力を重ねているところが好き。
勝負服:
自然を思わせる、グリーンが自分のイメージカラーなので日頃から身につけるようにしています。
MOTOKO MIZUNO / 水野素子議員
「政治に企業勤め人が入ることで多様な意見をもたらし政界内が発展する」
"宇宙かあさん"というユニークなニックネームで知られる水野素子さん。掲げるのはイノベーションと子育てに関する政策だ。「私は旧NASDA/JAXAに28年間勤めてきました。日本は高い技術力がありながら、産業競争力が落ちている。その原因は法整備を含む政治行政上の課題です。これを変えることで日本の産業は大きく成長できる。また、私は2人の子どもを育てるシングルマザーですが、日本は子どもを育てづらい環境です」。徐々に改善されてはいるが、北欧諸国に比べると、保育サービスや子育て世代への支援は十分とは言えない。「少子高齢化社会なのに、働きながら笑顔で子育や介護ができる社会じゃないと、未来は明るくならない。だから、まず取り組みたいのは、家計を圧迫している教育費の無償化。教育費の負担を軽減できれば、少子化も改善できるはず。また、離婚後の養育費の算定根拠を是正したい。現在の養育費は義務教育がベースで、高校以上の学費はゼロ、習い事の費用もゼロで算定されています。女性は非正規雇用で収入が低い場合も多く、これでは一般家庭の子どもと比べて学習機会に不足が生じてしまう。この課題を改善していきたいです」
女性は家事や育児、介護などを負担している割合が多く、そういった暮らしの現場にこそ、課題と提案があるという。「政治に女性が入ることで、暮らしに寄り添った提案ができる。また、今の政界には圧倒的に企業勤め経験者が少ない。就職難や失業、通勤しながらの育児といった経験をしていない人が政策を考えているんです。それはなぜかというと、選挙はお金も時間もかかるから。一般の会社員でも、休職して選挙活動ができる制度をつくれば、一歩が踏み出しやすくなるはず。社会で経験したこと、おかしいと思ったことを変えていくのが政治の役目。だから、政治業界への参入障壁を下げて、古い政治を変えていきたい。私は欠員補充のため3年という短い任期ですので、遠慮も躊躇もなく、ぐいぐい行きたい。今までと違う提案、政治をやることが強みだと思っています」
Q&A
趣味:
旅行と温泉。好きが高じて、温泉ソムリエの資格も取得。おすすめはやっぱり神奈川県の箱根温泉ですね。
好きな食べ物:
甘い物全般。まだ食べたことないのですが、参議院議員会館の中の食堂の「参議院ラーメン」が気になります。
推している人やモノ:
飼っているインコ。手乗りにして子どもと一緒に可愛がっています。犬、猫も好きです。
勝負服:
名前の"水"の字と、長年関わってきた"宇宙"を連想させるブルーが勝負色。スーツやバッグで取り入れてます。