食べるうなぎ、絶滅の危機にあるといううなぎ、革製品として身にまとううなぎ……いったいどんな生物なのか、知っているだろうか? うなぎについて考えることは、実は世界の未来につながっていくのかもしれない

銀シャリの鰻和弘さんと、うなぎの謎を解きのタイトルイメージ

銀シャリの鰻和弘さんと、うなぎの謎を解き明かす

食べるうなぎ、絶滅の危機にあるといううなぎ、革製品として身にまとううなぎ……いったいどんな生物なのか、知っているだろうか? うなぎについて考えることは、実は世界の未来につながっていくのかもしれない

銀シャリの鰻和弘さんと、うなぎの謎を解きの画像_1
銀シャリの鰻和弘さんと、うなぎの謎を解きの画像_2

"かば焼き"として食べられているニホンウナギはどんな生物?

分類はウナギ目。東アジアに広く分布する温帯ウナギの一種で、海と川を行き来する回遊魚。日本から約3000㎞離れたマリアナ海溝付近で産卵し、海流に乗って日本や中国、台湾、韓国の河口にたどり着き、川を上って生活する。ビタミンA、Eなどの栄養素が豊富で、滋養強壮によい食べ物としても知られる。日本では江戸時代にかば焼きの文化が発達し、調理法が洗練されるにつれて高級食に。現在、土用の丑の日を中心にした消費が年間消費量の3~4割を占める。

幼生のレプトセファルス、シラスウナギ、黄ウナギ

右から幼生のレプトセファルス、シラスウナギ、黄ウナギ。レプトセファルスが変態してシラスウナギとなり、成長して黄ウナギに

"イールレザー"に用いられるヌタウナギはどんな生物?

原始的な特徴を数多く残すヌタウナギは円口類に属する顎のない脊椎動物の一群。細長い体型のため「ウナギ」と呼ばれるが、ウナギ目の仲間ではない。体の粘液腺から粘液を出し、捕食や防御に用いる。ほとんどの種が深海に生息するため、生態には謎が多い。このうち日本の本州中部より南、朝鮮半島南部に分布し、例外的に浅い海の砂泥中に生息しているヌタウナギが、韓国では伝統的に滋養食として食用とされている。主にその皮革を鞣したものがイールレザーとして流通している。

絶滅危惧? 価格高騰? 密漁? ニホンウナギが直面する問題とは

乱獲や河川環境の悪化、海洋環境の変化などによりニホンウナギの漁獲量は1960年代から減少傾向にある。国際自然保護連合は2014年に、ニホンウナギを絶滅危惧種として指定した。さらに、EUは2025年11月開催のワシントン条約締約国会議で、ニホンウナギを含むウナギ全16種を条約の規制対象とするよう提案。今回の提案は否決されたが、今後も輸入規制を含めた資源保護は、国際的に取り組まねばならない課題である。国内の養殖場に入る稚魚のうち3割程度が密漁や違法な流通を経ているとの指摘もあり、ニホンウナギが直面する問題は多い。

今、うなぎを考えることはどんな未来につながっていく?

ニホンウナギは日本・中国・台湾・韓国の東アジア全域に分布する共有の国際資源。資源量をこれ以上減らさないためには、日本だけでなく東アジア諸国とも協力し、国際的にニホンウナギを守っていく必要がある。今後も私たちがうなぎをおいしく食べ続けるためには、消費者一人ひとりが節度を持った消費スタイルに意識を転換する必要も。安価で市場に出回る商品に惑わされず、健全なトレーサビリティに則っているかどうかも重要だ。うなぎは、海洋資源の持続可能性や食文化、環境問題など、私たちの未来を考える上での象徴的な生き物といえる。

稀少姓の鰻(うなぎ)さんが研究者に聞いた! ニホンウナギの秘密とウェルビーイング

鰻という珍しい姓を持つお笑い芸人、鰻和弘さんとともに知っているようで知らないウナギの生態、食文化について学んでみよう

鰻さんの名字にまつわる「うなぎ伝説」とは?

黒木真理さん  鰻和弘さん

──日本に10数世帯しかいないという姓を持つ鰻さん。鰻家には先祖代々、うなぎを食べてはいけないという家訓があるそうですね。

 そうなんです。鹿児島県指宿市にある鰻池という池が僕の名字の由来らしいんですけど、かつてその池の主であるオオウナギが、池の水をせき止めて近くの村を干ばつから救ったといううなぎ伝説があるそうなんです。のちにその村が「鰻村」になって、地名から名字がつけられたと聞きました。今でもその村ではうなぎを神様として大切にしているから、鰻姓の人はうなぎを食べちゃいけないんですって。

黒木 実は、そういったうなぎにまつわる伝説は日本各地に残っているんですよ。オオウナギは力も強いですし、皮膚呼吸ができて陸地を這うことも可能なので、不思議な生き物として神格化されやすいのかもしれないですね。

──オオウナギは、私たちが日常的に食べているニホンウナギとは別の種類なのですか? 

黒木 はい。日本で主に見られるウナギ2種のうち、オオウナギは名前の通り体長2メートル近くにもなります。これは分布域が広い熱帯のウナギで、日本では鹿児島や沖縄など、温暖な地域に多く生息しています。もう一種のニホンウナギが私たちが食用にしている北海道以南に生息するウナギです。

 へえ~。僕はまだ食べたことがないですけど、みんながうまいって食べてるのはニホンウナギなんですね。そもそも、どんな一生を送る生き物なんですか?

黒木 ニホンウナギはまず、日本から遠く離れたマリアナ西方海域で産卵します。卵から孵化するとレプトセファルスと呼ばれる葉っぱのような形の幼生になり、海流に乗って移動を始めます。そこから変態して、シラスウナギと呼ばれる細長い形になり、海を渡って東アジアにやってきて、川を上りながら大きくなっていきます。天然のウナギはおよそ5年から10年ほど川に生息するのですが、成熟が始まるとまた海に戻って繁殖し、一生を終えるんです。

 いろいろな場所を旅する生き物なんですね。僕も旅行好きなんですけど、ウナギと違ってパスポートがいるのが不便やなあと思います(笑)。

ウナギを絶滅から救うには消費スタイルの転換が必要

黒木真理さん  鰻和弘さん

──ニホンウナギは現在、絶滅危惧種に指定されています。なぜウナギの数が減ってしまったのでしょうか?

黒木 1960年代からシラスウナギの漁獲量が減少傾向にあるのですが、さまざまな原因が考えられます。ウナギは海と川を行き来する生き物なので、海洋環境や河川環境がどちらか一方でも変化すると資源量に影響してしまうことや、乱獲の問題もあります。

──養殖ウナギを食べていれば問題はないのでしょうか?

黒木 いいえ。割合としては、日本で食べられているウナギの9割以上が養殖です。けれど現在はまだ完全養殖の実用化には至っておらず、天然のシラスウナギを獲って大きく育てている状態なんです。つまり、養殖ウナギと呼んでいるウナギも、もとは天然でしか獲れないウナギなんですよ。

 えっ、そうなんですか? 卵から育てているんだと思ってました。

黒木 その点は勘違いされがちなんです。日本では現在、海外からウナギの輸入も行なっているのですが、今後さらにウナギが減ったり、適切に資源管理されていなかったりすると、国際的な保護の対象になることで輸出入の規制がかかる可能性もあります。

 僕、今までウナギのこと全然知らなかったわ……。反省しました。じゃあ、今後はやっぱりうなぎって食べないほうがいいんですか?

黒木 いろいろな考え方がありますが、私としては食べ方が重要だと思っています。乱獲して大量消費するのではなく、そのウナギがどこで漁獲され、どういった育て方をされてきたのかにまで思いを馳せながら、特別な日に大事に食べる。私たち一人ひとりが消費スタイルを転換させることが必要だと思うんです。ウナギは適切な量を獲るようにすれば持続的に利用できますし、今後も長く食べ続けられるような文化を根づかせるのが重要だと思います。

鰻和弘さん

 実は前に一度だけ、土用の丑の日にうなぎを食べてみようと思ってお店に電話したことがあるんです。そうしたら店主の方に「すみません、土用の丑の日はうなぎ供養のためにお休みをいただいてるんです」と言われたんですよ。

黒木 老舗のお店の中には、そういった形で文化を守ろうとしているお店も少なくないんですよ。どのように食べるかを消費者が自分で選ぶという姿勢が大切なのだと思います。

 なるほど。鰻という名字に生まれた者として、うなぎを大切にする考え方を今後はぜひ広めていきたいですね。

鰻和弘さんプロフィール画像
鰻和弘さん

2005年、橋本直と銀シャリを結成。鰻姓であることでSNSなどで全国のファンからうなぎの情報が寄せられるのだそう。「さかなクンと仕事をしたとき、僕をまるで研究対象のような目で見ておったのが印象的です」

黒木真理さんプロフィール画像
黒木真理さん

ウナギやサクラマスなど海と川を行き来する回遊魚の資源生態を専門とする生物科学者。スケールの大きな移動の一生を送る生き物に惹かれ、研究を志す。回遊魚の魅力を伝えるための絵本やWeb図鑑の制作にも取り組む。

ワタシつづけるSPURをもっと見る